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エロース( ]ErwV)

 ヒンズー教のカーマ(愛の神)と同一のギリシアの両性具有の恋愛の神。オルペウス崇拝者たちは、エロースは原初の創造女神、母なる夜の子宮から出た最初の神であると言った。「その女神はゼウスにさえ恐れられていた」[1]。「プラトーンによれば、エロースは神々の中で最古の神で、最も敬われる価値があって、死後天界に昇る力を人に与える者だった[2]。簡単に言えば、エロースは一種の救世主であった。だが、それは禁欲主義崇拝が、性的能力を第1の生命力として見る古い信仰にとって代わる前のことだった。


[1]Graves, G. M. 1, 30.
[2]Lindsay, O. A., 125.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



 エロース(「性愛」)は、ヘーシオドスにとってはただの抽象的な概念にすぎなかった。古代のギリシア人たちが彼を、老齢だの疫病などとおなじように、ケール — すなわち翼のある「禍」の姿であらわしていたのは、抑制されない性欲が秩序のある社会には有害だと考えられたからであろう。しかし、後代の詩人たちは彼のおどけた身振りには異常につよい興味をいだいていたらしく、プラークシテレース〔前370頃-330活動〕のころになるとエロースは次第に感傷化されて美しい少年の姿にかわってきている。
 彼をまつるもっとも有名な神殿はテスピアイにあり、ここではポイオーティア人たちが彼を単なる男根の石柱の形でうやまっていた。 — それは、農耕の神ヘルメースあるいはプリアーポスという別の名前でもよばれていたが。
 彼の父母についてのいろいろな話はあらためて説明するまでもない。ヘルメースは男根崇拝の神であったし、軍神アレースは戦士たちの妻や恋人たちのあいだに情欲をかきたてたものであった。アプロディーテーがエロースの母であり、ゼウスが彼の父だという説は、性欲というものは近親相姦をもあえてためらわないという意味なのであろう。エロースが虹と西風とのあいだに生れたというのは、抒情的な幻想でしかない。エイレイテュイア — つまり「産褥にある女たちのたすけにくる女神」というのはアルテミスの別名で、母性愛ほどつよい愛情はないという意味である。(グレイヴズ、p.88)