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Quintessence(第五元素)

 青い血は、かつては特権階級の神々のしるしであると考えられ、女神によって、神となった最高位の階級の先祖たちに与えられた。ローマ人は、青い血を「本質的な第5の部分」quta essentiaあるいは「第五元素(quinta essantia)」と呼び、不死性(神性)の霊を具象化したものと考えた[1]。 quinta essantiaは、ときには聖なるブドウ酒、あるいはアンブロシアー(神々の飲み物)であり、ときにはさらに明確に、女神の経血と考えられた。アプロディーテーの崇拝者は、「本質的な第5の部分」は月経期と重なるように定められた蜜月と呼ばれる太陰月のときに、男性に与えられると述べた。アプロディーテーのネクタルもまた蜜 Honeyと呼ばれた。ホラティウスは、結婚の契約を確認する接吻は、アプロディーテーによって「彼女自身のネクタルの第5の部分」と混ぜ合わされる、と言っている[2]。ホメーロスは、神々の血管を流れる血は青いエーテルのような液体 ichorであって、アプロディーテーに仕えるミツバチたちによって作られる、と述べた[3]

 この青い色の要素は、青い血によって不死となった印欧の神々についての混乱した記憶から生じたものであった。ヒンズーの神々は今でも宗教画では青く描かれている。このことは宗教的儀式の際に、ホソバタイセイの葉から取った青色染料で身体を青く塗るピクト人〔ブリテン島北部に住んでいた起源不明の古代人〕や、その他初期の英国の部族の風習を明らかにするものかもしれない。彼らはまたときには、戦場で死んだ場合の復活を保証するために、戦いに赴くときにも身体を青く塗った[4]

 「第五元素Jで満たされた青い血の神々は、グノーシス派の思想家によく知られていた。ポルフィリオス(233?-304? 古代ギリシアの哲学者)によると、物質界の創造者デーミウルゴスは人間と同じ姿をしており、シヴァ、ヴィシュヌ、その他ヒンズーの神々と全く同様の暗青色の顔色を持つという[5]。アリストテレースは、地、水、気、火に続く第五元素は5番目の元素で、神々の身体は第五元素から作られている、と教えた。ときにはこの第五元素は、天界の液体であるエーテルと同じものであると言われた[6]

 中世の錬金術師は第五元素を、霊的啓示を与え、身体を復活させることができる青いエリキサ(秘薬)として叙述した[7]。神秘的な5番目の要素は、のちになってタロット・カード Tarotの5番目の組札「大アルカナ」(大いなる秘密)の中に象徴的に表現され、「大アルカナ」の図柄によって、秘教の教義が入信者に伝えられた。


[1]Jung, P. R., 109.
[2]Bachofen, 29.
[3]Gaster, 29.
[4]von Hagen, 137.
[5]Lindsay, O. A., 137.
[6]Funk, 349.
[7]Jung, P. R., 109.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



 タレントゥムのフィロラオス(紀元前430年ごろ活躍)がピュタゴラス学派の数学を初めて書物に著し、この書がプラトーン本に影響を与えたといわれる。後世、例えばケプラーの近代天文学における宇宙模型の発想にも登場するいわゆる「ピュタゴラス-プラトーンの正立体」、つまり五つの正立体と元素との関係は、またフィロラオス自身が説いたものといわれている。正四面体と火、正六面体(立方体)と士、正八面体と空気、正二十面体と水、正十二面体とエーテル(?)との関係である。しかしエーテル(aijqhvr)が文献上にはっきり出てくるのは、プラトーンの著作とされる『エピノミス』〔981C, 984B, E〕の中である。

 それはともかく、フイロラオスによると、宇宙の体は、その中に五つのもの、つまり火・土・空気・水、それに第五の元素をもっている。第五元素は、いわばエーテル体のようなものと考えられ、宇宙の中にあるものが全体として動いていく動力図的なもの、いわば息づく地球の遥か外郭をとり巻く「天体の気」(pneu:ma)と説く向きがある。後世、後述するように、13-14世紀以来数百年にわたって錬金術の第五元素観にかなりの影響を及ぼす考え方であるが、何はともあれ、正立体それぞれと各元素との配属理論は、プラトーンにおいてはっきりした形をとって現れた。

 彼によると、宇宙創成の最初のものは、無形・カオス的で受容者的な場、といっても、単に空間ではないいわく言い難いものであった。しかしそこに、はっきりした「形」(morfhv、またはijdeva)を与える働きがおこり、図形の原点ともいうべき「三角形」による物体形成がおこった。三角形を基本とする四つの正立体、つまり四つの元素が形成された正三角形四つから成る正四面体は、一番とがった形をしているために、鋭い作用をもつ火の原型となった。正三角形八つからは正八面体の空気、正三角形二十個からは正二十面体の水ができたが、正六面体である立方体の土は、直角二等辺三角形二個からなる正方形六つから形成された他方、第五のもの(正十二面体)は、他の四つの元素と異なり、三角形ならぬ正五角形から直接に成り立つとして、別格視された。そしてこれが、アリストテレースの「天体論」にも示される「地上のものよりも尊い本性をもつもの」として結局は天界にあげられ、この考えが次第に第五元素として中世ラテン語のquinta essentia、 quintum esseという言葉を生み、そこから英語のquintessence(ドイツ語はQuintessenz)も生まれた。

 quintessenceは「ものの精髄、真髄、エッセンス」の意味で用いられるが、「ものの中にひそんでいるエッセンス」を抽き出すことが、ヨーロッパの中世・近代錬金術の新傾向(医化学)の主目的とされた。天の生息である永遠の要素が、地上のものにもわずかでも含まれているとするなら、それを抽き出しさえすれば、われわれの生命を健康で長命にするのに役立つであろう。まさにこの考えが、ライムンドゥス・ルルスの著作とされる『自然の秘密、あるいは第五元素について』(De secretis naturae seu de quinta essentia)にも述 べられているのである。ルルス自身は錬金術書なるものを書かなかったといわれるから、以上の著作は後代の信奉者たちの著述であるが、エッセンスといえばアルコールを思いおこすであろう。やがて「生命の水」(aqua vitae)、「燃える水」(aqua ardens)の論議が中世後半から近代にかけて盛んになり、パラケルススに至ってこれは頂点に達する。鉱物に宿る力強い第五元素を抽き出す術は、その後も特に熱心に探求された。とにかく薬剤としてこれらがはっきり定式化されたのは、なかでもパラケルススの薬剤書『アルキドクセン』(Archidoxen < ajrci- 「最高の」、dovxa 「栄誉」)においてである。エッセンスの取り出し方が、ここのところどころに述べられている。(大槻真一郎編著『錬金術辞典』、p.170-171)