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タロット(Tarot)

 現代のトランプはタロット・カードから発展したもので、タロットから25枚のカードを除外して作られた。タロット・カードの1揃いには、現在一般に使われている52枚(エ一スからキングまでの4組)のほかに、5番目の組札がある大アルカナ(「大いなる秘密」)があった。これは22枚の絵札からなる切り札の組札である。この22枚の切り札の中で現代のトランプに残っているのはジョーカー(ジェスター、フール)の1枚だけである。現在のカードの1揃いは、中世に用いられていたカード、すなわちタロットの残骸に過ぎない。

 4枚の宮廷カード、つまり4枚の騎士のカードもまた組札から消えている。したがって現代のカードにはそれぞれの組に3枚の宮廷カード、すなわちキング、クィーン、ジャックしかない。騎士のカードが消えたことから、一部の学者たちは、タロット・カードを発明したのは、14世紀に異端の宣告を受け、辱められ、根絶したテンプル騎士団の騎士ではないかと考えた。しかしテンプル騎士団はサラセン人からカードを使うことを学んだかもしれないが、発明したのは彼らではなかった[1]。絵の描いてあるカードからなる無綴じの「小冊子」は、字が読めない人々に神秘的な教義を教えるために、東方において長い間使われていた[2]

 イタリア人の作家コヴェルツォは、「1379年にサラセン人の国からカード遊戯がヴィテルボ(イタリア中部の都市)にもたらされた。この遊戯はサラセン人の国ではnaibと呼ばれている」と記している。この年はサラセン人の傭兵が、対立する2人の教皇ウルバヌス六世とクレメンス7世の軍隊に雇われた年である。サラセン帝国のアラビア人は8世紀初頭以来スペイン、南フランス、シチリア、イタリアを占拠しており、アラビア人のスペイン支配は15世紀まで続いた。そしてアラビア語のnaibがスペイン語のnaipes(競技札)となったのである[3]

 ヒンドスタン地方の故国から移住して来たジプシーもまたカードを西欧にもたらした。タロット・カードは「ジプシーの哲学と宗教の要約」と呼ばれた[4]。世界で最古の賭博遊戯「ファロ」は、「エジプシャン(エジプト人)」と推測されるジプシーが始めたものである。このジプシーの「王たちの遊戯」は、カードにファラオの絵が描かれていたと言われ、そのため、やがてファラオ(ファロ)と呼ばれるようになった[5]。スペインのジプシーは、スペインの国民的カード遊戯であるオンプル(ombre。スペイン語ではhombre)「人々の遊戯」を創案した。これは遊戯であると同時に神秘的な占いの方法でもあった。オンプルは「初期のプリメロ(英国で16、7世紀に流行したカード遊戯)を修正したものであり……現代のカード遊戯の中で、古代のタロットに最もよく似ている」[6]

 切り札の組札(大アルカナ)と騎士の札の神秘的な消滅は、カードに対するキリスト教権威筋の絶えざる敵意と多分に関連があった。1370年、ジョン・オブ・プレフェルドという名の修道士は、カードのシンボルの中に「現在あるがままの世界の状態がきわめて見事に述べられ、形象化されている」と述べた。しかしこれは異教的な意見であるとされた。他の教会側の人々は、カタリ派が彼らの信奉するグノーシス主義の信仰を教えるために、カードを用いたと主張した。

 1378年には、ドイツのレーゲンスブルクでタロット・カードが禁止された。1381年マルセイユで有害の宣告が下され、1397年にはパリにおいても禁止された。1423年シエナの聖ベルナルディノスは、カードは悪魔が発明したものであると述べている。1441年ベネチアではカードの輸入が禁じられた。1450年フランシスコ会の修道士は北イタリアで、カードを公然と非難した。ジョン・ノースブルックはのちに記している。「カード遊びは悪魔の発明である。悪魔はこれによって、人々の間に容易に偶像崇拝を起こすことができるのを知っていた」。

 スコットランドの聖職者たちは、カードを「悪魔の本」と呼んだ。教会側の人々は、とくに「大アルカナ」すなわち切り札の組札に激怒し、これらの22枚の小さな絵を、「地獄の深淵に通じる梯子の横桟」と呼んだ[7]。カードは悪魔の日祷書として記述された。「その中には、キリストの日祷書にあるのと全く同様に、さまざまな絵姿が描かれており、それらの絵姿が悪の神秘を説き示している」[8]

 これらの神秘とは何か。カードの偶像崇拝とは、どのような「偶像」を表すのか。「悪魔の日祷書」によって、どのような教義が教えられたのか。このような疑間を抱く者もあるであろう。

 タロットはいくつかの非キリスト教の秘儀体系と結びついていた。カバラ派、ヘルメース・トリスメギストスの魔術、ギリシア・ローマの異教思想、魔術などである。ジェラルド・エンカウス博士*は書いている。「ジプシーが持っているタロットと呼ばれるカード遊戯は、『聖書の中の聖書』である。それは『トート・ヘルメース・トリスメギストスの書』であり、『アダムの書』であり、古代文明についての原初の『啓示の書』である」[9]。最近のカード研究者は言う。「タロットはシンボルの言語、無意識の言語で語る。正しい方法で接すれぱ、タロットは、霊環の隠された領域に通じる扉を開けることができる」[10]

 *Dr. Gerard Encausse
 フランスの医師、神知学者、有名な霊的フリーメーソン「マルティン会」の創始者。パプス(Papus)の筆名で、1889年『ポヘミアンのタロット』を出版した。この書は大きな影響力を持ち、20世紀初頭のタロット解読者たちの手引書となった。

 カードの発生地である東方には、宗教的洞察を劇的表現あるいは絵画によって教示するという古代の伝承があった。東方の神秘主義者は、秘儀の入信者だけが知っている国際間に通じる秘密のシンボル符号の存在を信じている。その符号によって宗教的秘儀の持つ意味が明らかにされる。

 同様にエジプトと中央アメリカの象形文字の始まりは、秘密のシンボル記号であったと考えられた。ピュタゴラス学派とオルペウス教入信者は、古代においてこのような符号の体系を用いた。西欧の宗教劇もまた、その意味を理解したならば、きっと弾圧しただろうと思われる教会側の人々の面前において、きわめて古い起源を持つシンボルや絵を用いて、グノーシス派や非キリスト教的な考え方を伝えた[11]

 タロットが西欧に広まり始めた頃、東方で盛んに行われていた教義と、タロットを関連づけて考えてみると、タロットはマリエントのシンボル符号にきわめて類似していることがわかる。「大アルカナ」の絵は、野外の宗教劇、グノーシス派の教義、オルペウス教の図像と結びつけることができる。これが切り札の組札(大アルカナ)に対する弾圧の真の理由であった。might弾圧はきわめて厳しく、最後にはフール(「何も知らない者」)〔右図〕以外のすべての切り札が削除されるにいたった。教会の敵意が原因で、今日のカード遊戯者は切り札の組札を持っていない。そして必要が生じたときには、余儀なく他の組札の1つを「切り札」と呼ぶことにしているのである。

 タロットの表象は、古い宗教が教示したような女性中心の、再生による輪廻転生の教義を暗示する。カードはおそらくは、妖精たちが彼女たちの愛する人々に与えたと言われる「妖精の本」の原型であったと思われる。妖精たちはこの本によって未来を告げることができた[12]

 カードは魔女と結びつけられた。魔女の処刑が最も過酷に行われたドイツの町では、禁じられたカードの絵の描き手は女性であった[13]。モークレイは「説教師はカードを決して好まなかった。カードの語る物語は、キリスト教の基本となる信条に著しく反するものと言えたからである」と指摘している[14]

 その物語を理解するには、カードの形態を知る必要がある。「小アルカナ」(「小なる秘密」)の4つの組札は明らかにオリエントの四大(地、水、火、風)のイメージと関係があった。Cup最初の組札は杯(カップ)、あるいは聖杯(カリス、グレイル)で、のちにハートの組札となった。
Wands2番目の組札は杖、さお、棒あるいは笏であり、現在はクラブに変わっている。もっともクラブは梶棒(club)ではなくて三つ葉である。
Pentacle3番目の組札は普通五芒星形であるが、硬貨、円盤、デナリ(古代ローマの貨幣)あるいはザクロとなっているものもある。これはのちにダイヤの組札になった。
Sward最後に剣の組札があった。現代のスペードで、この語はスペイン語の剣espadaに由来している。

 これらのエンブレムは、両性具有の神アルダナリスヴァラ(合体したカーリーとシヴァ)では、その4本の手のそれぞれが持つ杯、笏、指輪、剣として示されている[15]。サル神ハヌマンのような他の神々も、同様のシンボルを持っていた[16]大地の精である女神ブラワニもまたユリ、焔、十字、剣として、四大を携えていた[17]。彼女と同様にギリシアの女神ネメシス(「運命」)は、杯、リンゴ、杖、車輪として同様のシンボルを示している[18]

 これらのタロットの組札は、対となった男性と女性の四大、すなわち男性の火に対する女性の水、男性の風に対する女性の地を表した。これらはそれぞれタントラの哲学者が定めた人生の4段階、サムホガ、ニルマナ、アルタ、モクシャと結びつく[19]。これらの4つの段階は、次に述べるような「基本的」な意味を持っていた。

 (1)サムホガ、すなわち「喜びの生活」は女性の「水」の要素と関係があり、そのシンボルは杯、聖杯あるいはハートであった。この段階は母親の後見のもとにある若い時代と関連がある。このとき生命の杯は、感情、意識、他者の認識によって満たされ、感覚の喜びが、人生を経験することによって最も顕著に形造られる。したがってタロットの杯の組札は伝統的に、愛、家族関係、結婚、子供、情緒など、心あるいは「人々の心」の問題に関して用いられた。

 (2)ニルマナ、すなわち「建造の過程」は男性の「火」の要素と関連があり、そのシンボルは男根を表す杖、笏、棒、あるいは梶棒であった。この段階は成人した若者、権力の主張、活力の頂点を意味した。杖(dorje)は、男根の象徴である、川に向かって突っ走る稲妻を表している。したがってタロットを読み解く者は杖の組札を、地位、権力、仕事、商業にあてはめた。

 直立する杖は錬金術によって変形し、三つ葉の形になった。三つ葉は錬金術では木のシンボルであり、ときには「生命の木の森」と呼ばれた[20]。中国人は木を5番目の元素と考えて、木を生む大地と木を消滅させる火の間に置いた[21]。火と結びついたタロットの杖は、たいまつを意味したのかもしれない。したがって木のシンボルを持っているところから、現代のカードでは「クラブ」(三つ葉)になった。

 (3)アルタは「地」Earthを意味し、「財産」あるいは「所有」を表す。すなわち労働の成果が蓄積し、成長した子供もまた「財産」となる中年時代を指す。女性である「地」の要素はすべてのインド・ヨーロッパの伝承において富と結びついており、そのため女神の五芒星形がダイヤとなった。

 ダイヤモンドは極東では大地のシンボルであり、その名はまさに「世界の女神」の意であった。貨幣の最も古い形態は女性の生殖器の形をしたコヤスガイの貝殻であり、また硬貨はローマの太母神の神殿で鋳造されていた[22]。したがってタロットの五芒星形の組札が金銭問題と財産に関係があるのは、不合理なことではなかった。ときにこの組札は、もう1つの女性のシンボルであるザクロの組札ともなった[23]

 (4)モクシャは「解放」あるいは「死にいく技術」を意味し、男性の「風」の元素と関係があった。「風」の元素は、身体から解放されて、剣によって表される「死の王」あるいは「破壊者カーリー」の領域に入って行く霊魂を意味した。

 東方の哲学者は、第4の段階である老年を、恐怖を抱かずに死に近づくことを学ぶに適した時期とみなした。しかしタロットの剣の組札は、恐怖を呼び起こす出来事と結びつけられている。災難、困難、脅威、種々の非運などである。通常用いられる現在のカードでさえ、剣の末裔であるスペードの組札は、悪の前兆の組札とされている。

 カード占いの基礎となる原則は、より大きな世界の諸要素をかき混ぜるように、カードを切ることであった。運命は占い師を導いて、札を適切に読み解けぱ、諸要素の混合がもたらす過去あるいは未来の出来事と合致するような組み合わせを作り出す。組札の色もまた、「生命の女王」の能動的な活力を、「死の王」の受動性に対立するものとして説くきわめて古いオリエントの観念にもとづいて、「女性」の要素の血の赤と、「男性」の要素の死の黒を示す。現代のカードの中でとくに大きいエースが、シンボルとして「父なる天」の剣を表すスペードのエースであることは、おそらく不思議な重要性を持つものと思われる。このカードを占い師は死の力一ドと呼んだ。

 教会側の人々がカードの根絶に失敗したとき、カードをキリスト教のカトリック信仰に取り入れようとするいくつかの試みがなされた。大アルカナの絵は、それらが「十字架の道行きの留(りゅう)」Stations of the Cross(キリスト受難中の諸事件を順に14の絵その他で表し、それぞれに木の十字架をつけたもの)を表しているとでもいうように、キリスト受難の際の種々のエピソードとして記述された[24]

 別の試みでは、4つの組札を4つの「聖杯聖物」(Grail Hallows)に関連づけようとした。「聖杯聖物」は12世紀に記録されているもので、(1)最後の晩餐で用いられたカリス(聖杯)、(2)聖ロンギノスがキリストの脇腹を刺した長槍、(3)キリストの使徒たちが過越の祭りに生贄の仔ヒツジを食したときの丸いパテナ(聖体皿、大皿)、(4)ダビデ王の「精霊の剣」である。これらの「聖杯聖物」はそれ自体がキリスト教的とは言えず、異教時代のアイルランドの「4つの財宝」であるトゥアーザ・デ・ダナーンTuatha De Danannの魔術のエンプレムから取ったものであった。

 トゥアーザ・デ・ダナーンの財宝とは、(1)「再生の大なべ」、(2)「ルフ(古代アイルランドの太陽神と思われる神)の槍」、(3)「ファルの石」、すなわちスコットランドの「スコーンの石」と同じく、真の王を識別して叫び声を挙げると言われる「主権の石」、(4)「ヌアザの剣」の4つであった[25]。最後の2つの、典型的な陽と陰の結合が、アーサー王、パーシヴァル、ギャラハッドの神話の中に現れる「石に刺さった剣」を形造っていたのである。

 「トライアンフ」と呼ばれる15世紀のゲームは、タントラの4つの基本的人生の段階に関する定義と類似した性格を、4つの組札に与えている。すなわち、(1)快楽、(2)徳、(3)富、そして、(4)純潔である[26]。これらは容易に男女の要素に結びつけられる。「徳」Virtuesは、勃起の持つ二重の意味「男らしさ、直立」を表すvirtuを語源とした。「純潔」は東方諸国において、長老の賢者の行いとして推奨された禁欲的な生活と関連があった。しかしトライアンフというゲームの名自体は、「大アルカナ」(聖職者が異端と呼んだ「切り札」trumpの組札)から取ったものである。

 「切り札」trumpという語はtrionfi (triumph)を語源とし、宗教的行列を意味する古代ラテン語であった。この行列では、行進の順序、衣装、仮面そのものが、教義に関する教えを表し、入信者はそれを理解することができた。神々の像、神殿の踊り手がつけている聖なる仮面、馭者、祭司、 巫女たちは神性の特質exuviaeを示していた。

 行列の指導者が、ローマの聖なる娯楽をとりしきる行政官triumphatorであった。ドラマあるいはパレードの終りに、参加者はTriumpeの叫びを挙げて、演じられた物事や人の中に神の霊が内在することを告げる[27]。したがってtriumpは本来は「神性を持つもの」を意味し、すべての神性を持つもの同様、占いの力を持つと信じられた。

 神の秩序に関する古代の観念にもとづいて、神々は、あらかじめ定められた時間的構成のもとに姿を表した。いかなる異教の秘儀でも、入信者は1度に1人ずつ神々に会い、それぞれの神から新しい知識を学んだ。時間的構成は、諸要素の物質的構成とともに、タロットの中に見られる。これはタロットの数に関連するものである。

 「小アルカナ」のカードの数は56で、オリエントの哲学では深遠な意味を持つ数であった。プッダが生まれたとき、彼は最初に4つの基本方位のそれぞれに56歩あゆんだ。各方向に7歩進み7歩戻ったのである。これはが満ちていく14日と欠けていく14日、それにの週を意味した。ウシル〔オシーリス〕の天界の梯子の14段と同じである[28]

 「時の歩み」を表す56の柱、あるいは石は、ストーンヘンジのような、占星術の計算を行う古い神殿の周囲にもあった。と太陽の周期が一致する聖なる1「大年」は56年から成っていた[29]。タロットの「太陽」のカードの番号は19で、「」のカードの番号は18である。そして古代の「大年」は、19年の2周期と18年の1周期の結合からなっており、合計56年で太陽との運行が一致する。タロット・カードの1揃いの枚数は78枚で、これは黄道帯の十二宮をすべて合計した数(1+2+3+4+5+6+7+8+9+10+11+12)である。

 神秘的な言葉を提示するいくつかの句の1つとして、タロットにはよく知られた回文がある。ROTATAR00RAT(TORA)ATORという回文で、「タロットの車輪は、ヘ(ウ)ト=ヘル〔ハトホル〕(の律法)を語る」を意味する[30]。しかし、カード占いの東方における歴史と「大アルカナ」の21枚のカードは、ヘ(ウ)ト=ヘル〔ハトホル〕(エジプトの大地母神)よりも古い、アーリア人の「大地」としての太母、「女神タラ」とタロットとの結びつきを暗示している。タラは古代ローマのテラ・マーテル、ケルトの女神タラの名のもととなった女神である。

 古代からこの女神は21の姿をとるとされた。魔術の図表、すなわち病気の原因を占ったり、予言を行なったりする絵のついた円盤はいまでもなお「21のタラ」として知られている。

 「大アルカナ」の、番号のついた21枚のカードが、このような円盤と関係があるとすれば、「小アルカナ」は、おそらく「来世で生まれ変わったときに引き継ぐ領域と階級を決めるために」使われた、56枚の四角いカードの名残りであろう[31]。極東ではカードやさいころのようなゲームが秘教の教義を教えるのに用いられていた。タントラの影響を受けた仏教徒はいまでも、さいころや色のついた盤を用いて遊ぶ「再生の遊戯」を楽しんでいる。この遊戯は娯楽であるとともに、精神的な教義を教える一助となっている[32]

 中国では筮竹を使って卦を立てる易から、易(イー・チン)カードが作られたように、タロットの形態には明らかに、さいころ占いの影響が見られる。「小アルカナ」と「大アルカナ」の2つのタロットの枚数56と21は、さいころの数である、つまり2つ1組のさいころを投げてできる数の組み合わせは21通り、3つ1組のさいころを投げてできる数の組み合わせは56通りある。合計すると77になるが、これは11の7倍で、さいころ遊戯の究極的な数とされている。タロットの1揃いはもう1枚カードがあって、全部で78枚になっているが、このカードには数値はない。このカードは「フール」で、番号はゼロである。タロットの並べ方はいくつかあるが、そのいずれでもフールは傍観者(querent)として孤立している[33]

 ヒンズー教の神殿の形態と意味もまた、タロットにいくらか影響を与えた。ヒンズーの神殿には、神々のさまざまな相、または化身を示す像が、神殿の中央の、「神聖なものの中でも最も神聖な」場所に通じる廊下に沿って並んで配置されていた。信心深い巡礼者は、それぞれの像の前で祈りを唱えながら、この「教育的な画廊」を通り抜けた[34]

 神々とその神々の持ち物の絵は、画廊の縮小版とでもいうような小さな札に描かれて、私的に瞑想に耽るときに用いられた。このような紙に描かれた行列は、その絵の象徴する意味を知る者に聖なる神秘を解き明かすものであった。

 こうした状況を考えてみると、キリスト教徒が「大アルカナ」に反対した真の理由を見出せるかもしれない。それは「大アルカナ」のカードが取るに足らないものだったからではなく、そこに内在する意味がすべて余りにも重要なものだったからである。

 オリエントの聖なる製図法の中で最も意味のある構図は、カーリー・ヤントラ、すなわち「原初のイメージ」として知られていた女神のしるし、三角形であった[35]。中心に点、すなわちビンドゥbindu(生命のきらめき、胎児)のある女性の三角形は、生命を生み出す女神の生殖器が持っている力を表した。21枚の番号を持つタロットの切り札は、このヤントラを形造るように考案されたと考えられ、7枚のカードが三角形の各1辺を作り、中心にはビンドゥを表す番号のないカードの「フール」が置かれた。

 三角形の3辺は伝統的に、過去・現在・未来を支配する「運命の三女神」としての三相一体の女神を表した。また子宮内に存在している間の3つの3か月間、そして子宮から出て生活する、さらに大きな3つの時期、すなわち誕生から青春期の21歳まで、21歳から中年期の42歳まで、42歳から「大厄年」の63歳まで、を表した。同様の人生の3つの段階は、「スフィンクスの謎」のような古典的なイメージにおいても述べられている。

 聖書の神は自分の信奉者たちに70歳の人間の寿命を約束した。神秘的な3からなる数の63歳の寿命しか保証しなかった古い神々より、7年間多く与えたわけである。異教徒の考えた寿命は、中世には人々の記憶に残されていて、当時63という年齢は「大厄年」として知られ、死の恐れをもたらす年と考えられた[36]。現在でも21歳は最初の成熟期に達する年齢と信じられているが、これは異教の年齢の数え方が、慣習の中に組み入れられるようになったからである。

 3時期のそれぞれは、21年間で、これは聖なる数3と7の、他者の介入を許さない最小の公倍数である。このようにして過去・現在・未来は、女神の本質を表すしるし(三角形)に配置された「大アルカナ」の中に描き出すことができた。ジプシーはしばしばこの三角形の配置法を用いた。彼らは、「三角型」が「女性」を意味し、女神が「運命」の三相一体の支配者であることを知っていたのである[37]

World 最後の切り札は、「世界」と呼ばれるが、「花嫁」、「シェキーナー(顕現)」、「宇宙」、「母なる自然」、「英知」あるいは「大いなる運命」としても知られていた[38]。このカードはつねに、四季のエンブレムで囲まれた花輪の中で踊る裸の女性の絵で示された〔左図〕。

 これはタロットの体系の究極的啓示であった。すなわちヴェールを取った女神、死の瞬間に喜ぴをもたらすシャクティ(女性原理)である。業(カルマ)の教義に従えぱ、「彼女はかつて望まれ、得られ、そして再び失われる女性」であった[39]。ジプシーのカード占い師が好む円環、すなわち連続する並べ方では、「世界」の実現は、「当然次のカード、人生の旅を始めようとする新しく生まれた幼児のシンボルである『フール」に続いて行く。こうして『回帰の輪』が再び循環する」[40]。換言すれぱ、タロットの宗教は、再生による輪廻の宗教であって、天国か地獄かを選択する直線的な宗教ではなかった。

 タロット・カードの一般的な並べ方は、2つの「回帰の輪」を表した。「右手の道」(時計回り)と、「左手の道」(時計と逆回り)の2つの輪が結合した形で、男性と女性の力を表す伝統的なシンボルである。

 この2つの力は結びついて、数字の8を水平にした形、ヴェーダの「無限」を表すしるしを形造った。これは他の「アラビア」数字(実際はインドを起源とする)とともに、アラビア人に受け継がれ、現代の数学でも無限大を表す記号となっている。「大アルカナ」は、その伝統的な並べ方によって、この数字の8を横にした形を強く連想させた。

Magician 連珠形の無限のしるしは、「魔術師」がかぶっている縁の広い帽子、あるいは頭にかかる後光としても現れている。「魔術師」は切り札の組札の最初の10枚の中で1番目に位置する男の絵姿である。
Strength切り札の次の10枚の最初の札、すなわち11番目に位置する女の絵姿の「力の女神」〔右図〕の頭にも、同じしるしが、同様の縁の広い帽子、あるいは後光として再び現れる。男と女の絵姿は、最初の10枚のカードの作る輸が、「太陽の」道に従って時計の針の回る方向に回り、次の10枚のカードの輪が、「の」道に沿って時計の針と逆に回ることを暗示した。

 数字の8の型は、オリエントだけではなく、今も手を握る風習としてスコットランドに残っている古代ケルトの結婚の儀式においても、性の結合を暗示していた。花嫁と花婿は「男性」である互いの右手を握り、それから「女性」である左手を握って、2つの性質の融合を表す男女両性の「無限」のしるしを形造った。この風習は、「右手の道」と「左手の道」のシンポリズムが決して失われることのなかったインドにおいて、現在でもなお続けられている[41]

Pentacle2 「魔術師」と「力の女神」の他に、「無限」のしるしを表すカードがもう1枚ある。五芒星形の組札の2のカードである〔左図〕。このカードには2つの五芒星形が連珠型に似た意匠で描かれ、その左右には、限りなくとぐろを巻く2匹のヘビが抱きあって丸くなった2つの円盤が示されている。このカードの重要性は、この特殊な装飾によって啓示される。すなわち今日のスペードの工一スがそうであるように、五芒星形の2のカードには一般に、カードの作者の商標が描かれたからであり、明らかに数字の8の型が強調されているのである。それならば、この形は何を示していたのだろうか。

 最初の輸は、意識、物質、俗事の世界を表した。すなわち外向性の太陽で、この輪のカードはすべて外向的である。第2の輪は、無意識、あるいは精神を表し、、内向性、女性的で、神秘と「真の意味」の領域である。

wheel 2つの輪が接する中央には2枚の「曼陀羅」を表すカード、「運命の車輪」と「世界」(あるいは「大いなる運命」)を重ねて置く。このような配列において、太陽球のそれぞれのカードは、球のカードの中の1枚と組み合わされ、2枚のカードの番号の和はつねに、東方の10進法体系において聖なる数とされる20となる[42]。そして組み合わされた1組のカードは、隠された同一性あるいは意味を啓示した。


Magician Sun

 「魔術師」あるいは。「ヘルメース」(1番)は霊的領域において、「太陽」(19番)の男性的な力と対応している。

High Priestress Moon

「女教皇」(2番)は「」(18番)の擬人化として示された。

Empress Star

「女皇帝」(3番)は、「星」(17番)のカードに描かれている、大地と海に祝福を注ぎかける裸の女神、すなわちアスタルテあるいはイシュタル、と同一の女性である。

Emperor Tower

「皇帝」(4番)は神聖ローマ帝国を表した。神聖ローマ帝国は異教の予言の通りに間もなく没落の苦難に喘ぐこととなる。帝国の没落は、対応する16番のカードに描かれた、「光をもたらす者ルシフェル」の稲妻で破壊されている「塔」(あるいは「神の家」)によって示されていた。稲妻に打たれた塔の頂きから転落する2人の人物は、皇帝と教皇であると考えられる。5番のカードに描かれている教皇自体は、Devilタロットの霊的領域では「悪魔」(15番)〔左図〕として姿を現し、2枚のカードとも同じポーズをとっており、足もとに2人の崇拝者を従えている[43]

 タロット・カードだけがこのような破壊的なシンボルを表示していたわけではなかった。同様の絵は、不思議なことに、教会をも含むいくつかの場所で見ることができた。ランスの大聖堂には現在も彫刻を施した石板があり、そこには稲妻に打たれた塔と、破壊された塔頂部から転落する2人の男の姿が示されている[44]。1515年にニュルンベルクで作られた浮彫の十二天宮図の輪は、「大アルカナ」の中の7枚の絵を、それぞれの黄道帯の位置に配している[45]。「世界」、「運命の車輸」、「正義」、「フール」そして「死」(大鎌を持った骸骨のような死の神(グリム・リーパー))などの絵はよく見られる挿絵で、中世のzeitgeist(時代精神)を表すが、これらがタロットを模倣したものなのか、あるいはタロット・カードの絵がこれらの挿絵を模倣したのかは誰にもわからない。

Hangedman 「死」のカードのすぐ前に、タロットだけが持つおそらく最も特徴的なカード、「吊された男」がある。この男は、「いかなる正統派のキリスト教のシンボルにも見出すことができず、タロットの切り札の組札が、ある非キリスト教的信仰体系を説明するために考案されたことを最も明確に示すものの1つである」[46]

 「吊された男」は、北欧の異教徒が「木のウマ」あるいは「オーディンのウマ」と呼んだ、ドアの形をした絞首台に掛けられている[47]。さらにこの男のすぐ後に「死」のカードが続くが、このカードは象徴としての死に過ぎない。男は首ではなく、片足を縛られ逆さに吊されている。これはドイツ、イタリア、スコットランドにおいて、債務者や謀反者に対して課せられた「バフリング」として知られる風習であった[48]。「バフリング」は、晒し台で晒し者にしたり、生贄の聖王(イエスのような)を嘲弄するのと同様の、公的に加えられる屈辱であった。神話時代の入信儀式はこのような手続きを模倣し、新しい入信者は「自分を完全に無にして、自らのすべての能力を剥ぎ取り、自らの持つすべての好み、思考、意志(一言で言えば全自我)を斥けなければならなかった」[49]

 「吊された男」の番号は12番であり、これは「吊された神」オーディンに捧げられた有名な12番目のルーン文字を思い起こさせる。ルーン文字によって、吊された生贄は語ることができるようになり、死の世界の神秘が明らかにされるのであった[50]

Temperance 「吊された男」が「死」と出会ったのちに得る神秘的な啓示は、「自制」のカードの女性の像で示される。この像は、片足を大地に、もう一方の足を水中に置いて、2つの要素の統治権を示す女神アセト〔イーシス〕を描いた魔術の書から取ったものである[51]。この「自制」の天使は1つの壼から他の壼に水を注ぎ入れていて、古代エジプトの永遠なる生命を願うまじない、「2つの壼の護符」に描かれたアセト〔イーシス〕とウシル〔オシーリス〕の象徴的な合体を思い起こさせる[52]。インドにおいても同様に、神の愛の啓示は、神と女神の、「水の中に水を注ぐ」がごとき融合によって示された[53]

 神自身の化身の1つに水がめがあった。バビロニア、エジプト、カビーリの「救世主-神」たちは、その聖なる行列において、水がめによって象徴されたが、『ルカによる福音書』第22章10節によれば、イエスもまた同じであった。極東においては、水の器は神の住みかとみなされていた[54]。さらにこれと同様の「水がめ-救世主」は、ヒンズーの遊戯札にある、「水がめ」の組札の最初に描かれていた。この組札はタロットの「杯」の組札に相当する[55]

 このように西欧のタロットは、象徴的に死んでいき、その結果顕現した女神に出会う1人の男を示していると考えられた。この「水をもう1つの水の中に注ぎ入れるような」出会いあるいは融合は、現実に死ぬときに、宇宙の母、つまり「最後の切り札」と最終的に合体することを予知するものであった。ちょうど1人の男性が、彼にとって地上におけるシャクティである女性と性的に結合したとき、その結合が霊的領域における究極的なシャクティ、すなわちカーリー自らと彼との結合を予知するのと全く同様であった。したがって読み書きのできる平信徒でさえ、公式には聖書を読むことを禁じられていた時代にあって、父権制社会のキリスト教徒が、タロットを、字の読めない者にも理解できる異教思想の聖書とみなしたことは少しも不思議ではなかった[56]。このタントラ的、グノーシス派的な異端思想を持つ語絵画的形象の起源が東方にあるということは、スラヴ語の、カードを「読み解く者」Vedavicaという語によって暗示される。Vedavicaは字義的にはヴェーダを読み解く者を意味するからである[57]。一部の司教や枢機卿がタロットを集めて焼こうとしたのも少しも不思議ではなく、1452年ニュルンベルクでは実際にタロットが焼かれている[58]。カードが教会にとって無害となったのは、その宗教的シンボルが除去されて、その意味が忘れ去られてからであった。そのときカードは単なる「ゲーム」となり――古い異教の「聖なる遊戯」ludiは、新しい解釈では、「ばかげた」ludicrousものとなった。そして、ヘブライの父権制社会の長たちにとっても、タロット・カードnaipesは、単なる魔術naibiとなったのである[59]


[画像出典]
 The Pictorial Key to the Tarot by A.E. Waite (1910)



[1]A. Douglas, 21.
[2]Cavendish, T., 18.
[3]A. Douglas, 20.
[4]Trigg, 47.
[5]Funk, 320.
[6]Hazlitt, 460.
[7]Cavendish, T., 15-17. ;A. Douglas, 24, 32.
[8]Moakley, 98.
[9]Papus, 9.
[10]A. Douglas, 43.
[11]Bardo Thodol, 3.
[12]Keightley, 81.
[13]A. Douglas, 24.
[14]Moakley, 35.
[15]Larousse, 371.
[16]A. Douglas, 19.
[17]Baring-Gould, C.M.M.A., 375.
[18]Cavendish, P.E., 71.
[19]Bardo Thodol, 11.
[20]Koch, 74.
[21]Lethaby, 245.
[22]Larousse, 204.
[23]Cavendish, T., 155.
[24]Jobes, 79.
[25]A. Douglas, 37.
[26]Moakley, 46.
[27]Dumezil, 231, 572.
[28]Bardo Thodol, 207.
[29]Hawkins, 140.
[30]Case, 123.
[31]Waddell, 359, 467, 1472.
[32]Tatz & Kent, 19, 32.
[33]Moakley, 41.
[34]Zimmer, 127.
[35]Silberer, 170. ;Mahanirvanatantra, 127.
[36]Elworthy, 407.
[37]Trigg, 48.
[38]Gettings, .
[39]Zimmer, 178.
[40]A. Douglas, 114.
[41]de Lys, 169.
[42]Jung, M.H.S., 42.
[43]A. Douglas,44-45 .
[44]Gettings, 87.
[45]Lehner, 60.
[46]A. Douglas, 85.
[47]Branston, .
[48]Moakley, 95.
[49]Waite, O.S., 234.
[50]B. Butler, 154.
[51]Seligmann, 43.
[52]Budge, E.M., 60.
[53]Tatz & Kent, 140.
[54]Zimmer, 34.
[55]Hargrave, 25, 27.
[56]H. Smith, 253.
[57]Leland, 65.
[58]Hargrave, 101.
[59]Hargrave, 224.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)


 みずからタロット・カードの作者として有名なバーバラ・ウォーカーのタロットの説明。口出ししうることはない。