ヘンルーダ(Rue)〔Gr. phvganon

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 古来、毒除け・毒消しとして有名で、アリストテレースも言及している —

 イタチがヘビと闘う時は、前もってペーガノンを食べる。ペーガノンの臭いはヘビにとっては有害だからである。(『動物誌』第9巻6章612a)

 他に『植物につて』第1巻4章、『問題集』第2巻13節、第20巻18節、33節を参照せよ。
 また、『問題集』第20巻34節には、「何故にペーガノンは呪いを解く薬だと言われるのであろうか」と、ペーガノンが呪い(baskania)に有効であることを説く。

 ギリシア語の"Peganon"は、"pegnynai"〔固まる〕を語源とし、おそらくはその葉が肉厚であるところから来ていると言われる。これの葉が肉厚であることは、テオプラストスも『植物誌』第1巻10章(4)で言及している。
 また、Nicander、 Al. 306、 Th. 523 によると、ペロポンネソス地方では"rhyte"と言われるもので、ヘンルーダ(芸香)"Ruta graveolens"と同定されている。(島崎註)
 これはミカン科ヘンルーダ属の植物で、南ヨーロッパ原産の多年草。 高さ 50 〜 100cmに達する。

 ディオスコーリデス『薬物誌』第3巻52によると、さまざまな薬効が挙げられている。これは全草に0.06%の精油と配糖体ルチンを含んでいるためであるが、多量に用いられると有毒である。

 山地に生育する野生のヘンルーダは、栽培されているものよりも刺激が強く、食用には適さない。栽培種のうちで、イチジクの木のそばに生えるものが、最も食用に適する。いずれも焼灼性があり、暖める作用、潰瘍化の作用、また利尿作用がある。また通経作用があり、食べるか飲むかすると下痢を止める。種子1アケタブルム〔約66ml〕をブドウ酒に入れて飲めば、毒薬に対する解毒剤となる。また、前もってその葉だけ、あるいは葉をクルミないし乾燥したイチジクといっしょに食べておけば、防毒効果が得られる。ヘビに咬まれたときも、上記のように服用するとよい。食べたり飲んだりすると堕胎する。乾かしたイノンドとともに煮て飲めば、腹部疝痛を和らげる。同様にして飲めば、胸側の痛み、呼吸困難、咳、肺の炎症、腰や関節の痛み、周期的な悪寒にもよい。油で煮て涜腸剤として用いれば、大腸、子宮、直腸の腫れにもよい。細かくうち砕いてハチミツと混ぜ、会陰部に塗れば、子宮のひきつけも治す。油で煮て飲用すれば、虫を下す。また関節の痛みには、ハチミツとともに外用する。皮下水腫には、イチジクと混ぜて用いる。また、そのために飲用したり、ブドウ酒に入れて半量になるまで煮つめたものをすり込んでもよい。生のままで、あるいは酢漬にして食べれば眼がよくなる。ポレンタと混ぜたものを外用すれば、眼の痛みを和らげる。バラ香油や酢とともに用いれば頭痛によく、細かく打ち砕いたものを外用すれば、出血や鼻血を止める。ゲッケイジュの葉とともに外用すれば、睾丸の炎症にも効き、ギンバイカ、臘膏とともに用いれば発疹にもよい。ブドウ酒、コショウ、硝石とともに患部にすり込めば白斑を治す。同じものを用いれば、コブ状の隆起物や疣を除く。ハチミツやミョウバンと合わせて塗れば、苔癖によい。搾り汁をザクロの樹皮の中で温めて、耳内に滴下すると耳の痛みに効く。ウイキョウの搾り汁やハチミツに混ぜて塗れば、視力が衰えたときによい。また、搾り汁を酢や鉛白、バラ香油と混ぜて塗ると、丹毒、ヘルペス、頭部膿抱疹を治す。また、噛めばニンニクやタマネギの匂い消しになる。

 丘陵に生えるヘンルーダは、大量に食べると命を落とすことがある。酢漬にするために花期に採集すると、皮膚が赤く脹れ、痒くなり、激しい炎症を起こす。だから集めるときにはまず、顔や手に油を塗っておかねばならない。この植物の搾り汁をヒナドリにかけておくと、ネコよけになるといわれている。マケドニアのハリアクモン川〔エーゲ海テルメ湾に注ぐマケドニアの河〕沿いに生えるものは、食べると死ぬこともあるといわれている。なお、この地方は山岳地帯で、毒ヘビが多数いる。種子を服用すると、内臓の痛みによい。また、種子は解毒剤に配合するのにも適している。種子を炒って、脱水状態の患者に7日間服用させると脱水症状は止まる。この植物の根は、山のモリュ(Moly)〔Od. X_305に出てくる神話伝説的な植物であるが、テオプラストスIX_15(7)は"Allium nigrum"のことをいう。しかし、ここでは明らかにヘンルーダの1種である〕と呼ばれている。

 野性のヘンルーダは栽培種と同様、飲用すれば癇癪や坐骨神経痛によい。また月経血を排出させ、胎児を殺す。野生種は栽培種よりも刺激があり、薬効も強い。しかし有害なので、野生種を食用にしてはならない。
(『ディオスコリデスの薬物誌』III_52、エンタプライズ、1983.5.、p.339-341)

 この植物を、ローマ人は"Ruta montana"〔のヘンルーダ〕、"Rura hortense"〔庭のヘンルーダ〕、エジプト人は"Epnubu"、シリア人は"harmala"と呼ぶ。また"Berara"とも呼ばれ、アフリカ人は"Churm"と呼ぶ。
 "Ruta sylvestris"〔森のヘンルーダ〕、"Hypericon"、"Androsaemon"、"Corion"、"Chamepitys"とも呼ばれる。ローマ人は"Hederalis"と呼ぶ、"Sentinalis"とも呼ばれ、アフリカ人は"Churma Semmaked"と呼ぶ。(『ディオスコリデスの薬物誌』p.469-470)

  和名「ヘンルーダ」は。オランダ語ウェインライト wijnruit のなまり。ヘンルーダ属 Ruta のかおりの強い植物を、英名では rue という。(この記事は『ネットで百科』による)



[画像出典]
Image of Ruta graveolens (Rutaceae )