U


尿(Urine)

danae.jpg

 ウーラノスUranos(「父なる天」)に由来する。ウーラノスの魔力のある尿、精液または血は、母なる大地を肥沃にする雨として降った。原始時代から伝わっている神話では、これら3つの液体はそれぞれ豊穣原理となっている。ゼウスはダナエー(「大地」)を肥沃にする「黄金の雨」(尿)となって降下した。ダナエーの巫女たち(ダナイスDanaisたち〔pl. Danaiedes〕)は、篩で水を運ぶ雨乞いの儀式を行った。アリストパネースによれば、ゼウスが篩越しに放尿したのが雨となって降った。アリストテレースは、「ゼウスが雨を降らすのは作物を実らすためではなく、必要に迫られるからである」という俗信に言及しているが、この俗信は、ゼウスもそうせざるを得ないから、男が小用をたすのと同じ理由で雨を降らすのだということを暗示している[1]

 ダナイスたちはエレウシースのテスモポリア祭(エレウシースの密儀)の基礎を築いたが、この密儀では聖王の切断された生殖器が女神デーメーテールに捧げられた。これはちょうど、ウーラノスの切断された生殖器が海-子宮に投げこまれたのと軌を一にしている。本物の生贄の生殖器は、ついには、それを象徴的に表す代用品(すなわち、ヘビや男根の形をしたパン切れ)に取って代わられた。しかしその意味するところは同じであって、神の尿、精液、または血が降ってくることへの願いだった[2]

 アイスキュロスはダナイスたちの雨乞いの儀式について語っている。「花婿たる天より雨落ち来たりて大地母神女神デーメーテール孕み、女神デーメーテール授けり。羊に牧草を、死すべき者に小麦を。天地の契りの露受けて枝もたわわに実るなり」。太女神女神デーメーテール大地でもあり海でもあるので、雨-尿-精液-血などは両方に降り注いだ。巫女たちは天を仰いで叫んだ、「雨よ!」。次いで彼女たちは大地に目を落とし、叫んだ、「孕めよ!」[3]

 雨を降らすことは、どこの国でも天界の父の主な職能であった。ローマでは、子をもうける神はユピテル・プルウィウス(Juppiter pluvius「雨を降らすユピテル」)であった。ユピテルはギリシアのゼウスに相当する。ゼウスはこれまたウーラノスに取って代わった神であった。子をもうけるのに不可欠な液体が精液であることが明確になった後でも、他の液体が忘れ去られたわけではなかった。尿は後々まで雨乞いの儀式でよく用いられた。シベリアのシャーマンは、大地の役を務める裸の女に「放尿」して雨を降らせようとしたものであった[4]。イラクでは、雨を降らしたいと思うと、「神の花嫁」と呼ばれる女を象った人形を畑に寝かせておいたが、それは、神がこの人形に「放尿」することを期待してのことであった[5]


 画像は、Gustav Klimt の"Danae"(1907-08)
 画像出典:<http://www.artchive.com/artchive/K/klimt/danae.jpg.html>



[1]Guthrie, 38.
[2]Graves, G.M. 1, 202, 205.
[3]Guthrie, 54.
[4]Frazer, G.B., 80-81.
[5]Briffault 3, 210.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



 バーバラ・ウォーカーは事も無げに云うが、英語urine、ラテン語urina、ギリシア語ou\ronの語源と、天空神ウーラノスの語源とは、よく似ているがおそらく異なる。メンゲに依れば、OujranovVの語源は、サンスクリット語のv.gifa.gifr.gifa.gifn3.gifa.gifm.gif〔「覆うもの」〕である。これに対して、「尿」の語源は、サンスクリット語のv.gifaa.gifr.gif〔「水」〕である。もっとも、ou\ronは、ウーラノスと同根の「空間・広がり」を意味するギリシア語ou\ronとまったく同形になるが。
 バーバラ・ウォーカーの語源説の当否は別にして、その所説は興味深い。