京町家「風通信」・・・京町家の住人より
当店の仲介で数年前の夏、一組の若いカップルが町家暮らしをはじめられました。
この町家は、当店のランクでいうとピッカピカの特A! 仕舞屋で出格子・本二階の正面の窓は波打つガラスが入っていました。通り庭(走り庭)は土間コンクリート、トイレは外(廊下続きではいけません)、もちろんお風呂はありません。家の裏には土のままの庭(ただし、草ぼうぼう)があり、その上、火袋や天窓もあって、ナント!おくどさんまで残っているという稀有な物件でした。そのかわり、畳はぼろぼろ、壁も落ちているところが何箇所もありました。
場所は中京区壬生。洛外です。交通も買物も便利なところで、近隣には同じような町家がかなり残っていて、なかなか風情のある地域です。


この町家の住人となったYさんから初めてメイルをいただいたのは、2001年のゴールデンウィークの頃でした。
早速、ご希望を訊いみると、いわゆる「町家」に住みたいとのこと、ご近所づきあいもしてみたいし、創作活動をしたいので土のままの庭が欲しい・・・。
実を申しますと、お話を伺って不動産屋としては、困ってしまいました。いまどき、そんな物件がほろほろ出てくるとはちょっと・・・・。
そこで、二つのお願いをしました。一つ目は「物件が出るのを気長に待っていただくこと」、二つ目は、そういう物件は足が早いので「物件が出たら直ぐに見に来ていただくこと」。

何軒かの候補物件の検討の後、今回の町家に出会ったのは、7月に入ったばかりの頃でした。私個人的には、若いカップルが住まれるにはちょっと不便すぎるカナ・・・とも思ったのですが、Yさんたちは大変気に入ってくださり、入居の運びとなりました。
今から思うと、2ヶ月ちょっとで見つかったのですから、ずいぶんスムーズだったなと思います。これから、こういった「町家」を探される方は、もう少し時間がかかることを覚悟しておいていただいた方がよいかもしれません・・・。

さて、そのYさんから町家暮らしについて時折メイルをいただきます。町家暮らしを堪能しておられるようで、我々もたいへん嬉しく思っております。皆さんにも楽しんでいただければと、御本人の許可を得て、当ページに載せることにしました。ただし、【 】内は当店の付けた注釈です。
エステイト 信 さま

あの後【入居手続・決済後】、我が家を見てまいりました。あらためて、ここで生活できることを実感でき、うれしく思います。
ゆっくりと隅々まで見回した結果、やはり壁と畳だけは手を加えるつもりです。
壁に関しては、現状では紙やベニヤ板を簡易的に張ってあっただけのようですので、いったんはがして、自分たちで綺麗にしたいと思います。畳に関しては、損傷が気になったので全室新しくする事に決めました。また、ご連絡いたします。〔7月★日〕


壁の損傷が激しく、自分たちで塗りなおそうと意気揚揚と していたのもつかの間。実は、大変楽しく、苦労しております。
家がきれいになる様子を写真に撮ろうとも思っていたのですが、そんな余裕もなく、汗だくで砂とほこりにまみれつつ遊んでいます。マンション生活では出会えない虫たちと戦いながら・・・。でも、それも今ではすっかり慣れてしまいました(たぶん・・・)。
何かにつけて、マンションは本当に密封されていたと、実感しています。
京都の夏は暑いと聞いていたので、覚悟はしていたのですが、いざこちらへ来てみると、却って大阪のマンションのほうが、暑くてたまりません。 うなぎの寝床ならではなのでしょうか? 2枚窓を開けるだけで、自然の風がこんなに涼しいとは・・・!
現在はようやく壁を塗りかかったところです。 左官屋さんの仕事とは程遠い出来ですが。
磯垣さん【畳屋さん。当店でご紹介しました】には大変お世話になっています。ありがとうございます。
とても面白い職人さんですね。一言一言に重みを感じます。
落ち着いたらご連絡しようと思いながら、いまだ落ち着かず、遅くなってすいません。 引越しの日程なんですが、8月★日に決まりました。
それまでには、なんとか住める状態にしたいと思います。
ついつい話が長くなってしまいました。それでは今日はこの辺で。〔8月★日〕


今日は、磯垣さんが来られて、忙しい合間を縫って14畳半の畳を入れていただき、部屋が見違えるようにきれいに明るくなりました。 表替えって畳の表を替える事と思っていたのですが、家にピッタリくるように微妙に畳の大きさまで調整されていました(最初は隙間だらけで、木の棒が無理やり詰めてあったりしてたんです)。職人さんって、本当にすごいですね・・・・。〔8月★日〕


引越し前日、ご挨拶に町内会長さん等、数件まわりました。
当日は、ご近所さんに大変お世話になりました。町内会長さん自ら台車を持ってきてくださったり、私たちがトラックを停める所を探していると、お隣の方が通りの角にあるお宅まで出向かれて、その家の前に駐車できるようにお声までかけてくださいました。
ちょうど当日は地蔵盆【下注参照】だったので、「そんな日に引っ越すと、ご近所の皆さんにご迷惑がかかるのでは・・・」と心配していたのですが、快く迎えていただき、大変嬉しく思いました。本当にいい方ばかりです。
最近思う事があります。
大阪でマンション暮らしだった頃は、隣に誰が住んでいるかもわからない状態で、変な音がすると不安感をおぼえることもありました。特に夜、ひと気の無い路地に入るとこわくて、足早に通りすぎようとしたものです。
こうして京都に越してきてからは(私たち2人とも、まだ大阪に仕事に出かけているもので、朝早く、夜遅いという毎日。土日も外出がちで、まだ今はご近所の方とお会いすることはそんなにありません。ほんのご挨拶程度の交流があったくらいです)、家の前の路地に入ると何だか妙な安心感があり、ほっとしますから、不思議なものですね。〔8月★日〕
【注】本来地蔵盆は8月24日。その前日と併せて23・24日とおまつりするのですが、この頃はサラリーマン世帯が増えたせいでしょうか、その前後の土・日にされる町内が多数です。今年(2001年)は、8月18・19日という町内が多かったようです。
通りを歩いていて辻々にお地蔵さんがまつってあるのが洛中です(道路幅の拡張やビルの建設でやむなく移動させられているところもありますが・・・)。気をつけてみてみてください、洛外ではほとんどお目にかかれません。地蔵盆といっても、最近では宗教色が薄れ、町内の行事ごとの一つとなっているところも多いようです。一方、左京区や北区・山科区などでは地蔵盆と言わずに、「○×町祭」としてやっておられるところもあるとか。何でも、仏教以外の家のお子さんが参加しにくいからだとか・・・。



引越しが終わって、1週間とちょっとがたちました。
いろいろな事がありましたが、その中でも最大のハプニングは、やはり地震です【京都市内は震度4でした!】。
ちょうど私は2階で荷物の整理をしていたのですが、揺れというよりは、まず、その音に驚きました・・・家中の建具が一斉にガチャガチャと鳴り出すじゃないですか・・・! 阪神大震災以降は、少しの揺れでも敏感に反応するようになっていただけに、本当に怖かったです。そのとき、1階にいた彼は冷静に天井を見ていたらしく、あとで訊くと、「家全体がしなるように揺れていた。まるで揺れを吸収しているようだった」と言っていました。
今までの私は、「古い木造の家=天災に弱い」という思い込みがあって、少し不安もあったのですが、引越しそうそう台風・地震と続けて来てくれたおかげで(!?)改めて町家の強靭さに感動し、がんばって平然と建っている我が家を見ていとおしくなりました。
・・・もっとも、何事もなかったから、こんな事が言えるのかもしれませんが・・・。〔8月★日〕

【エステイト信より】先日、彼らにご紹介した畳屋の磯垣さんがひょこんと当店をお訪ねくださいました。「あの子たち、スゴイよね。自分らで壁も塗ろうと言うんやから。うちの名前を出して、壁土分けてもらいに行ったらいいと言うといた。ホンマ、思わず『頑張れ』って、応援したくなった・・・」と。ホント、スゴイですよね! 私たちも頭が下がる思いです。「町家に住みたくて、町家をずっと探しておられた」とのことですが、こんなにしていただくと町家も幸せ、仲介を致した私たちも幸せです。


京都に来て、もう1ヶ月が過ぎてしまいました。早いものです。 ずいぶんと涼しくなりましたね。朝方は寒いくらいです。
【エステイト信の】掲示板を見たのですが、西陣には600件もの空き町家があるんですね。 驚きました。しかも、ひとりの大家さんだなんて・・・・。そんなにたくさんの家にきちんと手入れできるとは思えません。我が家を初めて見た時、やはり、人が暮らしてこそ家は呼吸できると感じたことを思い出します。ただただ、劣化していくだけの家を残しておくのが、保存だと考えてのことなのでしょうか? ほんと、悲しい話です。
さて、我が家の進捗状況ですが、室内の改装(ひたすら、じゅらく壁塗り)は、ひとまず落ち着きました。とはいえ、部屋部分を塗り終えただけで、まだまだ壁塗りは続くのですが・・・・。
寝るところの次は、とにかく自炊をしなければいけないと言う事で、水周りの補修にかかりましたが、これが意外にてこずりました。水周りのこととて、管理会社さんにご連絡したのですが、安い保証金のため大家さんにお願いしにくいとのことで、結局、自分たちですることになったんです。
洗面所と台所の蛇口・配水管・専用の工具などを買い求め、いざ、作業に取り掛かると、今までついていたものの劣化具合に驚きました。錆びやらなんやら、水漏れをほったらかしすぎたのでしょう。完全に詰まって腐っていました。
なんといってもこんな工事は初めての事で、止水栓を止める所からして一苦労! その上、パイプが劣化しすぎていて工具がかみ合わなかったり・・・・。しかし今では、ホースをつける蛇口までつけて、前よりパワーアップしました。何だか、蛇口がピカピカすぎて、石の台所【流し台】には不釣合いかもしれません・・・!!
現在は最大の難関である、台所部分の壁の補修に取り掛かっている最中です。火の気と水気があるということで、じゅらく壁をやめて、一部、防水セメントを塗っています。これが、予想をはるかに越えてむずかしく、まだまだ時間がかかりそうです。とりあえず、一部分だけは仮塗りをしたのでガス台を置きました(先週まではカセットコンロで細々と料理してました)。明日から、まともな(?)食生活になりそうです。それでは、また。〔9月★日〕
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