文字に命を与える聖業
“女”の背後から沸き上がってくる水泡は何のメタファーなのであろう。
尽きることのない生命の泉としてのそれか。命のしずく一滴が次から次へと数を増す。始原的な大地母神への祈りか。無数の乳房を持つ土偶にも似た、土俗的な人肌のぬくもりを誘発する、淡いエロチシズムに満ちた美しい作品である。
園家文苑氏は自らの作品を「心書」と名づける。かつて中国の遺跡で目にした、大昔の人骨や亀甲に刻み込まれた古代文字から受けた衝撃。天地自然の形象が“文字”としての生命を保っていた古代。「時代と共に物の形から離れていった現代の文字」に新たな命を吹き込むことが氏の願いである。だからこそ心書ということばの響きは胸を打つ。
「脈」も又、文字生は確保しつつも、毛細血管の鳴動を電子顕微鏡で覗いたような、肉体そのものを感じさせる作品だ。「月」の横画を大小の丸い滲みで表現するあたりは、天才的感性。 雅印の位置も上手い。 文:松田十蘭 |