《平和》の意で、その擬人化された女神。ローマのパークス。
へ−シオドスではゼウスとテミスの娘で、ホーラたちの一人。神話もなく、ギリシアでは特別に独立の崇拝もうけなかったが、アテーナイで前4世紀以後、アッティカの町をアテーナイを主都に一国家に統合したテーセウスの記念に毎年行なわれたシュノイキアーSynoikia祭に、彼女に犠牲が捧げられるにいたった。ローマではウェスパシアーヌス帝が彼女に壮麗な神殿を捧げたというが、その遺跡は残っていない。(『ギリシア・ローマ神話辞典』)
バーバラ・ウォーカーは、テミスからの「善き秩序Eu[nomia」「正義Divke」「咲き匂う平和Eijrhvnh」の誕生を、創造神話と結びつけるのだが、それは哲学的な創造神話にすぎない。
Eijrhvnhは、ラテン語表記でIrene となり、St. Irene として、キリスト教会で聖人に列せられる。
エイレーネーは「平安」を意味し、アプロディーテーの娘または侍女とみなされた三体のホーラの3番目で、死の到来を告げる女神「ハト」だった。彼女はまた、去勢儀礼によって得られる「平安」とも関係があり、時代が下って14世紀になっても、エイレーネーの名を持った1人の尼僧(あるいは、巫女)が、自己去勢を行ったアトス山の修道僧たちの異端の宗派と関連づけられていた[1]。Castration.
コンスタンティノープルのエイレーネーを祀った異教の神殿は、キリスト教徒に引き継がれ、改名されて聖エイレーネー教会になった[2]。かくして、ピザンティウム生まれのこの女神は、同じ三相一体に属する他の2柱の姉妹とともに、キリスト教の聖人に列せられたのである[3]。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)