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Dove(ハト)

 アプロディーテーのトーテム鳥。性的情熱を表すで、女陰が象徴するものと同じものを象徴する[1]。インドでもまた、ハトは色欲のシンボルparavataであった[2]。ハト-女神は、そのである男根を表すヘビと交合して、性的結合と「生命」を表象した。「だから、ヘビのように賢く、ハトのように素直であれ」(『マタイによる福音書』第10章16)。これはイエスの言葉であると考えられているが、イエスは思いつくままに喩えたのではなく、シリアの神や女神が、昔から、口にしていた祈りの言葉なのであった[3]。そして、オリエントにおいてそれがどういう意味であったかは、ジプシーたちがよく覚えていた。ジプシーの民話によると、祖先の霊魂は中空の魔のの中に住み、男性はヘビに、女性はハトに変身しているという[4]

dove.jpg キリスト教徒は雌バトを聖霊のシンボルとしたが、聖霊とは、本来、女神ソフィアのことで、女神ソフィアがゼウスの「知恵」を表したのと同じように、ソフィアは神の「知恵」を表した。グノーシス派のキリスト教徒たちによると、ソフィアはハトに化身して、聖母マリアを受胎させたという。このハトはイエスがバプテスマを受けたときに、イエスの上に降りてきて、イエスの心を受胎させたハトと同じハトであった(『マタイによる福音書』第3章16)。教皇グレゴリウス1世を敬虔な気持で崇拝した人々は、ハトの形をした聖霊が、1度ならず何度も、教皇の上に降りてきたと言って、教皇をイエスよりも聖なる者とした[5]。こうした話はすべてローマの図像から借りてきたものであった。その図像では、人間の霊魂はハトとして表され、ハトはハト-女神の大霊から降りてきて、人間の肉体に命を与えたのである[6]

 アプロディーテー、あるいは「平和」をもたらす女神であるが、ときには、エイレーネー(「平和のハト」)という名前になることもあった。アプロディーテーの女神として、別名をエピテュムビアEpitymbia(「墓の女神」の意)〔プルータルコス、269B〕と言った[7]。古代ローマ人たちは彼女のことをウェヌス〔ヴィーナス〕・コルンバ(ウェヌス〔ヴィーナス〕-ハトの意)と呼んだ。彼女の地下墓地、霊廟、そして共同墓地は「ハト小屋」columbariaと言われていた[8]。このため、死後、女神のもとへ還る霊魂はまたハトの姿をとるものと考えられた。キリスト教徒は、聖人たちの霊魂は白いハトの姿になって、死ぬ瞬間にその口から飛び出ると信じたが、それは以上のようなイメージから借りたものであった。カトリック教会の列聖式においては、それが最高潮に達したときに、白いハトが籠から放たれる[9]

 キリスト教の図像を見ると、聖霊を表すハトから7条の光線が発している。こうしたイメージは、さかのぼると、女神を表象する最古のいくつかの例に見られる[10]。オリエントでは、神秘の数である7はプレイアデス(「7人の姉妹」)の例に見られた。そして、プレイアデスのギリシア名は「ハトの群」の意味であった。彼女たちはプレイオネ(「海の女王」)という添え名を持ったときのアプロディーテーの娘たち、すなわち、アプロディーテーの放つ7条の「光線」であった[11]。ヘーロドトスによると、ハトたちと言われていた7人の巫女たちが、ドドナ、エピロス、テバン・アモンの神託所を創建したという[12]。彼らは、中東地方では、七賢人あるいは叡智の七柱として崇められた。女性をかたどった7本の柱は、紀元前3000年の昔から、女神を祀った神殿の支柱となっていた[13]point.gifCaryatid. アラブ人は今でも七賢人を崇拝し、その7人が女性、または「ハト」であったことを覚えている人もいる[14]。「ハト」を表すセム語はioneであるが、これは「女陰」yoniと語源を同じくする語で、女神ウニUniと関連がある。ウニは、後には、イウネ、あるいはユーノーになった。

 ハトを祀る祭儀は、昔は、原始的な去勢の儀礼、および、その変形である割礼の儀礼が加わったものであった。インドでは、7人の姉妹は、人々を裁いて、「決定的に」傷つけることから、「かみそり」または「切断具」と呼ばれ、クリッティカーKrittikaと言われていた。クリッティカーは「世界の7人の母親たち」で、クリッティカーが語源となってギリシア語のkritikos(裁く)ができた。この7人は神々を殺しては再生させるが、彼女たちを、人間の女性と同様、受胎させるために神々は去勢されるのであった。女王セミラミス(伝説ではバビロニアの建国者)の名前も、シリア語では、ハトの意味であった。女王は彼女のをすべて去勢したという話であった[15]

 去勢に代わって割礼が行われるようになっても、ハトが関連した。キリスト教のシンボリズムにもハトは関連があった。キリスト割礼の祝日の公認のシンボルはハトであった。ハトはその嘴に「聖なる包皮」を表す輪をくわえている。「豊穣をもたらすキリストの血」は五旬節の同じエンブレムと関連があった。そのエンブレムは血の色である赤を背景にハトが舞い降りてくる図で表され、これはキリストと殉教者の血によってキリスト教会が精神的に豊かになることを表すものであると公表された[16]

 聖コルンバ(聖なるハト)と呼ばれたある「殉教聖女」は、実在の人物ではなかったが、とくにフランスにおいて、広く崇められた[17]。異教のハト伝承でありながら、奇妙にも生き残ったひとつのものに、聖ペトロの添え名があった。それはバル-イオナという名で、ハトの息子という意味であった[18]。その他生き残ったものもあるが、中には、ハトがアプロディーテーアスタルテーのシンボルとして古代の貨幣にその姿を見せたということを説明するために、わざわざ作られたと思われるものもある[19]


[画像出典]
EL GRECO
Baptism of Christ
1608-1614
Oil on canvas, 330 x 211 cm
Hospital de San Juan Bautista de Afuera, Toledo


[1]Graves, W.G., 123.
[2]Waddell, 108.
[3]Cumont, O.R.R.P., 118.
[4]Trigg, 196.
[5]de Voragine, 188.
[6]Strong, 136.
[7]Graves, G.M. 1, 72.
[8]Bachofen, 21.
[9]Gaster, 769.
[10]de Lys, 13.
[11]Graves, G.M. 2, 405; W.G., 194.
[12]Knight, S.L., 48.
[13]Gaster, 804.
[14]Briffault 1, 377.
[15]Rank, 93.
[16]Brewster, 50, 246-47.
[17]Attwater, 92.
[18]de Voragine, 330.
[19]d'Alviella, 91-92.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



 ハトは、英語では、"dove"と"pigeon"という2語がある。同義であるが、"pigeon"は大型のハトを指すことが多いらしい。ハトの否定的な意味(例えば「のろま」など)は、"pigeon"で表すらしい。

ハ卜(1) 白ばと(dove)

象徴〕 ユダヤ・キリスト教の象徴体系全体にわたって、ハト(これが聖霊を表すのは新約聖書が最後である)は基本的に、〈無垢〉、〈純真〉のシンボル、さらに、ノアの方舟にゲッケイジュの枝を運んでくるときには、平和、調和、希望、再び見出された幸福のシンボルである。同じ文化圏での翼を持つ動物の表象の大部分と同じく、ハトは本能の浄化、とくに〈エロス〉の浄化を表すといえた(OURS, 135)。

ギリシア・神話〕 純潔の概念を別様に評価し、それを性愛と対立させず、性愛と組み合わせる異教的な解釈では、アプロディーテーの鳥であるハトは恋する男がその欲望の対象に捧げる愛の証(性愛行為の成就)を表す。
 表面的にしか異ならないこれらの意味から、ハトはしばしば人間の中に含まれる不滅のもの、すなわち、生命の原理、〈魂〉を表すようになる。この理由で、ギリシアのいくつかの納骨壷で、「記憶の泉を象徴する蜜から飲む」ハトが描かれるのである(LAVD, 258)。このイメージはキリスト教の図像に引き継がれ、たとえば、聖ポリカルポスの殉教の物語には、死後聖者の体から出てくるハトが描かれる。

比喩・女性〕 こうした象徴的意味のすべてはもちろん、この鳥の美しさ、優雅さ、鳴き声のやさしさ、とくに白バトの場合はその汚れない白さから来ている。最も平凡な言葉でも最も高尚な言葉でも、パリの俗語から『雅歌』にいたるまで、ハトという語が女性をたたえる最も普遍的な比喰表現の中に数えられる理由はそこにある。「魂が光に近づくに応じて、魂は美しくなり、光の中でハトの姿を帯びていく」というニュッサのグレゴリオスの言葉をジャン・ダニエルーは引用する。ところで、恋する男は恋人を〈わが魂〉と呼びはしないか。
 最後にハトは優れて社会性を持つ鳥で、この点がハ卜の象徴的意味の常に肯定的な価値づけをさらに強化することに注目しておこう。

ハト(2) pigeon

象徴〕 ハトは、俗には、だまされやすい人のシンボルである。より詩的には、愛のシンボルである。
 その習性がやさしいので、こうした2つの解釈を生むことになった。
 愛の象徴的意味に関しては、他の動物、たとえば、カモ、カワセミ、フェニックスについて見たように、ハトのカップルの様子がよく説明してくれる。ハトのオスが卵を抱くので余計よくわかる。

中国・象徴〕 古代中国では,基本的な季節の変化(〈陰〉と〈陽〉の交替)に従って、タカがハトに変身し、ハトがまたタカに変身するといわれた。このことから、タカは春のシンボルとなり、タカが再び姿を現すのが春分にあたる(GRAR)。警察官にハト-タカという名前が与えられた起源はこのあたりにあろうか。

カリビア〕 カリビアでは、ハトは、村の守護者であるイスラムの聖人の墓のまわりを取り囲む。「しかし、別の場所では不吉な鳥と考えられている。なぜならば、ハトのクークーという鳴き声が苦しむ人のなげき声に似ているからである」(SERP, 49)。
 (『世界シンボル大事典』)