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ヒュメーン(+Umhvn or +UmevnaioV)

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 「神殿のヴェール(幕)」を指した。この語の解剖学的意味(処女膜)は、女性の膣を処女凌辱の儀式を司る処女神アプロディーテーの至聖所とみなしたことに由来している。供犠を遂げる運命にあったアプロディーテーの花婿が、女神の地下の子宮に入ったその瞬間に、この花婿の「受難」によって、女神の神殿の幕が「まん中から裂け」 (『ルカによる福音書』23: 45)、太陽(男性原理)は暗くなった。これらの要素は、キリストの磔刑の神話の中にそっくり借用されている。 point.gifHoney.聖婚の際には、世俗の結婚の場合と用じように、「おお、ヒュメーン・ヒュメナイエー」と叫んで女神に祈りが捧げられたのであり、おそらくはこの祈りの言葉がhymn(賛美歌)の語源になっていると思われる[1]。


[1]Rose, 32.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



 婚姻の神〔男性名詞〕である。

 英語の"hymen"は処女膜(virginal membrane)を意味するが、そして、これはギリシア語を語源とし、ギリシア語のヒュメーン(uJmhvn)は「皮膜」を意味するが、これが処女膜を意味する用例は、寡聞にして知らぬ。

 また、これが、「神殿のヴェール(幕)」を意味するという用例(バーバラ・ウォーカーはそう断言するのだが)も寡聞にして知らぬ。

 彼女が例に挙げている『ルカによる福音書』第23章45節「そして聖所の幕がまん中から裂けた」の「幕」は、ヒュメーンではなくてカタペタスマ( katapevtasma)である。

 古代ギリシア人が結婚式のときに叫んだ言葉は、悲劇や喜劇に跡をとどめている。すなわち、
 +Umh;n w\ +Unevnai= a[nax(エウリーピデース『トローアデス』314)
 +Umh;n w\ +Umevnai= +Umhvn(同上、331)
 +Umh;n +Umevnai= w\(アリストパネース『平和』1335)
 +Umh;n w\, +Umevnai= w\(『鳥』1736, 1742)
 高津春繁は、+Umh;n +Umevnai= w\を、「結び、結びの神よ、おお」と訳しているが、これは語源を踏まえた正確な訳である。


[画像出典]
THE WEDDING OF HERAKLES & HEBE
 Hymenaios appears in Greek art as a winged child carrying a bridal torch in his hand, such as in the image right, portraying the wedding of Herakles and Hebe.