「輝く月」の意で、オイディプースの母親であり妻であった女性。イオカステーとオイディプースとの関係は、月の女神とその聖王との神話的な結びつきを示す1例だった。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)
イオカステーは、テーバイにおけるスフィンクスの第一巫女。コリントスの王オイディプースに征服され、これと結婚した。オイディプースの母にして妻と称されたが、これは母権制社会にあっては当然の習慣であった。しかし、父権制を強行しようとするオイディプースの前に、自殺した。
テーパイの愛国者たちは、オイディプースが彼らの都市を強襲占領した外国人であることをみとめたくないばかりに彼を行方不明であった王位継承者ということにしたが、造物主オピーオーン(テーパイ人たちは大蛇オピーオーンの牙から生れたと主張していた)を記念してペローリア祭を祝っていたプレ・ヘレーネス族のひとりであるメノイケウスが死んだことによって、真実はあきらかである。彼は、ローマのフォーラムに亀裂が生じたときに、メットウス・クルティウスがそうしたように(リーウィウス、第七書・六)、女神の怒りをなだめようという絶望的なのぞみをいだいて跳び降り自殺をとげたのであった。これとおなじ犠牲は、「テーパイにむかう七将」の戦いのおりにもささげられた。しかしメノイケウスの死は無駄であった。でなければ、スフィンクスも、スフィンクスの第一の巫女も自殺に追いこまれることはなかったはずである。
イオカステーが縊れて死んだという話はおそらく間違いであろう。オリーヴの木のヘレネーも、葡萄の木の信仰のエーリゴネーやアリアドネーとおなじように、こうして命を絶ったと伝えられているが、これはおそらく豊餞を祈るまじないとして果樹園の樹々の枝にぶらさげられた月の女神の人形を説明するためだったのであろう。おなじような人形はテーパイでも用いられていた。イオカステーが自殺したときには、スフィンクスとおなじように、きっと岩から身を投げたのにちがいない。(グレイヴズ、p.538)