「ヴェールで顔を覆った女性」を意味し、機を織る「運命の女神」の添え名。オデュッセウス物語では誤ってオデュッセウスの妻の役を与えられた。しかし彼女はおそらく初期の物語では、オデュッセウスの私的な守護天使であったと思われる。「求婚者」をみな寝床に招じ入れたり、また牧神パーンの母であり妻であったという伝説が示すように、彼女はかつてはオルギア的な豊穣の母であった[1]。
オデュッセウス物語におけるペーネロぺーの役割は、魔法をかけられた彼の生命の責任を持つことであった。ペーネロペーが糸を切らないでいる限り、オデュッセウスは死ぬことはなかった。こうして彼は幾多の危険な冒険を生き延び、一方ペーネロぺーは、オデュッセウスの生命の織物を織つてはほどき、決して糸を切ることはなかった。彼はヘカべーによってかけられた死の呪いにさえ打ち勝った[2]。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)
壷絵に描かれているマイナスたちは、手足に縦糸横糸を梯子の形に様式化した模様の刺青をほどこしていることがある。もし彼女たちが山地でどんちゃんさわぎをするときのカモフラージュに、かつては顔にもおなじような刺青をしていたとすれば、そこからペーネロペイア〔ペーネロペーのホメーロスにおける表記〕(「顔を織物でおおった」)という名前は底ぬけさわぎをする狂乱の山の女神の称号であることが説明できるかもしれない。もうひとつ考えられることは、底ぬけさわぎをするとき彼女がディクテュンナやブリテン島の女神ゴダのように網をかぶっていたのかもしれない。ペーネロペイアがオデュッセウスの留守中に、すべての求婚者たちと相手をえらばずに寝て、その結果パーンが生れたのだとする説は、プレ・ヘレーネスの乱交の慣習を記録しているのである。
*ペーネロペイアの鴨というのは、ハクチョウと同じく、おそらくスパルタのトーテムの鳥だったのであろう。(グレイヴズ、p.895-896)