震災復興景観の現状とめざすべき方向
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淡路島の集落の空間構成

改行マークここではしばらく被害の大きかった淡路島の漁村を中心に現在の淡路島の景観的特徴を見てみたいと思います。


漁村集落の様子

画像yo016 改行マーク島全体としても、 リゾート的な建物への指向と、 在来型の瓦屋根の家並みを作っていこうとの指向があります。 植栽でいうと、 松とワシントンヤシの関係に相当します。

改行マーク塊村形態を特徴とする漁村集落の背後は、 こういった状態で、 緑に包まれ、 段々畑が広がり散居集落になっています。

画像yo017 改行マーク漁村では、 岬とか小さな地形変化を生かしながら港を構成していて、 集落周囲はぼら山といった緑に守られています。

画像yo018 改行マーク緩やかに湾曲した岬に囲まれた場所に漁村が形成されています。

画像yo019 改行マークこれは船瀬漁港ですけれども、 岬で北西からの風波から守るような形で港も作られています。

画像yo021 改行マークその背後は農村の散居集落で、 段々畑とため池があります。

画像yo022 改行マーク海岸道路を見てみますと、 集落間にこういう棚田状のところが現れている所と、 沿道に在来工法の本家シコロ建ての住宅が立地している所があります。

改行マークコンクリートのスレートの瓦工場も、 沿道の村はずれに分布しています。


金毘羅宮

画像yo024 改行マーク淡路島の場合特に面白いのは、 ボラや日和見の見張り台であった“ぼら山”の緑が、 まだ残されている点です。 この緑には金毘羅宮が祀られています。

改行マーク地形でいうと漁村背後に丘陵がずーっと指状に突き出た微高地(フィンガートップ)に金毘羅宮があって、 それがいまだに緑として大切に保全されています。

画像yo025 改行マーク近づくとこれが金毘羅宮なんです。 開発が徐々に進んでも、 どうして緑が残っているのかというと、 ほんとに小さな祠ですが、 こういう祠が鎮守林として残されているからです。


ため池と棚田

画像yo026 改行マークこれは、 棚田の方から漁村集落を見たところです。 兵庫県では、 唯一西浦だけが水平線のみが広がる景観となります。

改行マーク夏には日差しで海がきらきら輝いて、 淡路瓦もきらめき、 その上のため池もきらめいて見えます。 家並みの屋根が水平線にそって重なり、 手前には小さな棚田が分布しているというこの構図が、 リアス式の入江では味わうことの出来ない西浦特有の情景となります。 我々が調査していて、 「あー淡路島だ」という印象を抱いた風景です。

画像yo027 改行マークため池から引水される小さな棚田は、 畦が輻輳し漁村を取り巻く美しい緑の景観を構成しています。

画像yo028 改行マークただ、 この棚田も圃場整備されると、 こういう風な状態になります。 田園景観としてみると、 ちょっと問題があると思います。


農村集落の様子

画像yo029 改行マーク漁村背後の棚田に分布する農村集落は、 緑に覆われた散居集落を構成しています。

画像yo031 改行マーク写真の右側が漁村集落で、 その背後の海側山裾に分布する散居集落ですが、 北西風の強い西浦では、 稜線の緑を残しながら、 それを防風林のようにうまく活かして家屋が立地しています。

画像yo033 改行マーク稜線をうまく活かしながら日当たりの良い東南に庭を造っています。 淡路島の西浦に共通した特徴です。 この住宅の建てかたは本家シコロ建ての五館造りといって、 長屋門等で構成されています。 地形をうまく活かしながら、 季節風を遮って日当たりの良いところに建てるパターンです。


家づくりの仕組み

画像yo034 改行マークこれが五館造りで、 長屋門があって、 モヤ、 ハナレ、 ヒヤ、 クラの五館が長屋門に囲われるように建っています。

改行マーク一番最初に母屋を建てたら、 次の代の人は離れを建て、 三代目の人は長屋を建てと、 代々受け継ぐ形で建てられていきます。 そういう伝統が今も残っています。 家造りは人生の節目節目で考えられていて、 先祖に対して恥ずかしいものは決して建てない、 あるいは自分が生きてきた証として立派なものを建てなくては、 子供たちに申し訳ないといった思いで作られているようです。

画像yo035 改行マーク一代の人が母屋を改築しますと、 その次の人は離れを改築するという形で、 非常にゆったり時間をかけながら重厚な家を代々受け継いで建てていきます。 そういう親の姿を、 子供たちは見て育ち、 伝統が失われません。 我々は、 住宅を商品として捉えやすいのですが、 淡路島の方はそういう感覚ではなく、 代々受け継いでいくものだと認識されているようです。

画像yo036 改行マーク特に農村部ではそういう傾向があるわけです。

画像yo037 改行マークこれは北淡町の家屋ですが、 農村集落では、 ほとんどが在来工法で、 元どおり復元されるように建てられています。


瓦工場

画像yo038 改行マーク余談ですが、 昨年11月にセミナーに来ていただいた山田脩二さんが住んでおられる三集落です。 海側の植栽の緑に守られて、 緑豊かな環境に瓦工場が分布しています。

画像yo039 改行マーク稜線を崩すようなところに建てるのではなく、 地形を活かしながら建っています。

画像yo040 改行マーク私は、 工場緑化の仕事もしています。 ついつい芝生広場なんかを沢山作ってしまうのですが、 これを見てびっくりしました。 本当に職住近接型で、 自然の地形を活かして瓦工場と家屋が共生しています。 日本型の工場緑化を見る思いがしました。

画像yo041 改行マークこういう家があると、 これは瓦屋さんの家ということです。

画像yo042 改行マーク南淡町のリゾート施設なんかも、 稜線をうまく活かすような形で造られています。

画像yo043 改行マーク海水浴場の上に写真43のような住宅地や別荘開発地がたくさんあるのですが、 淡路の伝統的な文脈や環境設計の知恵は全然活かされていません。


内陸部(平野と山)

画像yo045 改行マークこれは三原平野です。 島とは思えないような平野の中に、 散居集落と街道村があります。

画像yo046 改行マーク農地の広がる領域では、 玉ねぎ小屋が非常に印象的です。 家屋はいわゆる五館造りの建物が多いのですが、 見てわかるように、 RC造の現代建築も徐々に住宅として浸透してきています。

画像yo047 改行マーク島の稜線にあたる山上は、 妙見や石神が祀られており、 淡路では今もタテヤマノボリといって、 正月にほとんどの島民が登っています。

改行マークそういう伝統的風習も、 農村部ほど強く、 漁村の方は意外にあっさりしていて信仰が薄いというような状況があります。

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