震災復興景観の現状とめざすべき方向
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復興の様子

改行マークこうした淡路島の風土特性の中で、 最初に見たような瓦屋根の家屋を中心に現在再建されているわけです。 阪神間に比べ淡路の漁村部の再建の特徴は、 以下のような点が挙げられます。


社寺の再建

画像yo050 改行マーク阪神と比べてこういった社寺は、 すぐに復興されています。

改行マークこれは、 氏子とか、 講集団が、 地縁的にも定着しているからです。 震災後、 半年ぐらいすると、 もう募金を集めに来たそうです。

改行マーク大体1世帯当り10数万円とか20万円ぐらいの募金を集めて再建したということですが、 そういう風に地縁的な組織がかなり根強く残っていて、 活動が活発だといえます。

画像yo052 改行マークこれは再建した東浦にある神社ですが、 多分少し強度が足りないために瓦屋根がコロニアルに変わっています。

画像yo053 改行マークここでは神社の鳥居が壊れたままですが、 本殿と門前は再建されています。 先ほどもいいましたが、 参道が海に抜けています。 地井昭夫さんは、 来訪神型集落形態と呼び、 来訪してくる神を迎える集落形態だと言われているのですが、 昔は情報が海から入ってきたものですから、 海から温かく迎えいれるような形で集落が構成されています。


コミュニティスペースの再建

画像yo055 改行マークその海に抜ける道をこういう風に拡幅して、 大きな幅員をとって街の安全性を高めている例です。 この東浦町では、 幹線とすべき道路を拡幅して、 沿道に帯状の公園を配置することによって、 参道と同じように公共性を高めようとしています。

画像yo056 改行マークコモンスペースといいますか、 地蔵とか小祠とか、 金毘羅さん、 あるいは戎さんみたいなものが、 集落の中に今も息づいていて、 それらはほとんどが早期に住民の手で復元され、 大切に維持されています。

画像yo057 改行マーク集落の要所要所に配置されていた井戸も復興過程の中で埋められたり壊されることなく、 今も大切に保全されています。


住宅の再建

画像yo058 改行マーク阪神間に比べますと、 淡路島では在来型で住宅が再建される場合が多くなっています。

画像yo060 改行マークこれも立派に残っているように見えますが、 実は棟瓦が落ちています。 ただ、 大工さんがなかなか来てくれないということで、 そのままのような状態になっているようです。

改行マーク代々なじみのある大工さんが、 顔の見える範囲にいますので、 信頼感のある人が来るまでじっと我慢しているようです。 昔からのつながりを大切にしながら、 再建とか、 改築をしていく伝統が守られています。

画像yo061 改行マーク西浦の特徴として、 象鼻という軒裏の造形があり、 非常に細やかなことが特徴となっています。 再建も在来工法で、 西浦らしさがうまく継承されているため、 再建された家屋も、 軒裏が非常に細やかです。

画像yo063 改行マーク東浦は、 浜に小さな小船を打ち上げて港(浜港)を形成し、 地引き網をやっていました。 小船に1人か2人で乗り込んで、 沖で漁をして、 釣った魚はそのまま大阪で現金に変えて帰ってくるという感じです。 地の利を活かし、 小規模組織でやっていたわけです。

改行マーク軒裏の造形の細やかな西浦は、 江戸初期にはほとんど寒村に近かったようですが、 河村瑞軒によって日本海航路が開ける江戸中期になると高田屋嘉兵衛が出て、 組織型の廻船業が栄えました。 その余韻が軒裏造形にあります。

画像yo064 改行マーク同じく西浦です。 西日を防ぐ役割もあるらしいのですが、 結構贅を尽くしています。

画像yo065 改行マーク東浦から入った線香とか、 瓦とかの現在の地場産業も寒村であった西浦の方で定着したのは、 東浦と西浦の立地環境の違いが、 背景になっています。

画像yo066 改行マークこれは、 線香の乾燥小屋のべかこです。 これもかなり少なくなって、 木造では4軒ぐらいが残っているだけです。 再建されたものの多くは、 コンクリートスレートに変わっていて残念です。


伝統的建物等の再建

画像yo067 改行マーク一宮町の江井の集落の脇門です。 これは由緒正しい人しかできない建築様式で、 壊れたのですが、 元どおり復元しています。

画像yo068 改行マーク上の白壁と屋根が全部落ちたらしいのですが、 それをちゃんと自力で再建しているということです。

画像yo069 改行マーク神社も、 部材をうまく活かしながら再建しています。

画像yo070 改行マークちょっと見にくいんですが、 鳥居も、 新しい部分と古い部分をうまくつないで昔の部材を活かしながら再建されています。

画像yo071 改行マーク淡路島の場合も、 公費で解体してくれたわけですが、 すべて解体するのではなく意外と昔の部材を活かしながらやられてるものが多くあります。 右手の奥のようなプレハブは増えたものの全体的に2割〜3割くらいで、 まだまだ7割が在来型の家屋で構成されています。 今回の震災で傷つきはしましたが、 淡路の漁村景観はいまだに失われていないと言えます。

画像yo072 改行マークこれも瓦がのせられないからスレートにしているのですが、 ほとんど違和感がありません。

画像yo073 改行マークこれは酒蔵です。 屋根が落ちて屋根だけコロニアルでふき替えられています。

画像yo074 改行マーク仮設的なこういう住宅も、 木材をうまく使っています。 コンクリート系がをあまり使われていないので、 景観としてはわりと違和感なく見えます。

画像yo075 改行マーク塀も阪神間ではスレートとか工業化されたものが多く使われていますが、 淡路島では木材が多く使われています。


区画整理地区の様子

画像yo076 改行マーク土地区画整理事業が行われている富島地区です。

改行マーク区画整理事業を待てない人はこういった形でセットバックして、 軒先をそろえる形で再建しています。 とりあえず住むところを確保している場合が多いようです。 もう一方では、 富島のちょっと郊外農地に建てる場合が多く見られます。

画像yo077 改行マークこれは古いものですが、 樋を共有しています。 こうした伝統が淡路では再建住宅に活かされ、 誰が強要することもなく、 自然な形で壁面をそろえるとか、 屋根をそろえるといったことが行われています。

画像yo078 改行マーク対面で開口部が向かい合わないように、 大きい所と小さい所をずらすことが隣近所の作法として淡路島では継承されていますので、 そのあたりが阪神間とは大きく異なっています。

改行マーク接道部は、 生垣とか、 路地に面した所に緑が目に付くような形で置かれています。

画像yo079 改行マークセットバックして建てた所は、 屋外(エクステリア)はほとんど未施工の状態の所が非常に多く見られます。

画像yo080 改行マークただ、 まだ裸地で残っていれば、 これから住み手の方が自由に修景されて、 結構緑に変わっていくのではないかと思います。

画像yo081 改行マークしかし阪神間と同じようにコンクリートで固められた所は、 草木が入らず、 ちょっと残念です。

画像yo082 改行マーク最近のガーデニングブームの影響でこういう形のものも一部見られます。

画像yo083 改行マーク住宅前の犬走りがコンクリートになっているのですが、 緑化はプランターやコンテナになりますので、 これから徐々に緑に変わっていくと思いますが、 従来の生垣や庭木に比べるとしんどいなと思います。

改行マーク漁村の村中道は、 ガレージ化がまだ浸透していません。 海の埋め立て部分を共同で駐車場に利用したり、 集落の出入口に数台ずつ共同で使っているような駐車場が多く、 淡路ではまだまだガレージ化が進行し家並みが分断されている所は少ないのが実状です。


路地の様子

画像yo084 改行マーク西浦の路地は風が抜けやすい特徴があります。

画像yo085 改行マーク日常的にもよく使い込まれ、 ごちゃごちゃしているような印象がありますが、 この写真のように再建等でサッシ化は進んでも路地の構成や雰囲気はよく活かされています。

画像yo086 改行マーク同じく西浦です。 昔の路地では敷地一杯に建てている場合が多く見られます。 セットバックしている再建家屋では、 露地の稠密さはやや弱まりつつあります。

画像yo087 改行マーク東浦です。 風が抜けず舞うため、 東浦の露地は非常にすっきりしています。

画像yo088 改行マークこうした露地のたたずまいは、 やや稠密さは弱まるところも見られるものの区画整理地区以外では良く残されています。

画像yo089 改行マーク富島や江井の漁村では、 集落は北側を向いています。 夏の風は南側から吹くため、 西浦では、 山で冷却された空気がこの路地をスーと抜ける形で下りてきます。 写真の漁港施設のピロティは、 夏に使う縁台などが壁際にあるのですが、 このピロティが夏の日影を提供し、 風が抜ける空間となり、 老人たちの憩いの場となっています。

改行マークところがこの沖にある埋め立地の公園は、 風が全く活かされていません。 私達は参加していないのですが、 淡路の復興事業で埋立て地に計画整備されている公園や港湾施設の多くは、 これまで話した風の流れや漁村の良さはほとんど活かしていません。

画像yo090 改行マーク軒裏などにも、 こういう緑化の技術が淡路島にはありますので、 再建家屋で現在無着手の状態の家屋でも、 西日の強い西浦ではきっとこういった立体的緑化が増えてくるものと期待しています。

画像yo091 改行マーク朝顔とかフウセンカズラとか、 立体的な緑化が露地の至る所で良く行われています。 育てる技術はさすがです。


更地の状態

画像yo092 改行マーク次に、 更地なのですが、 阪神間と違って、 柵で囲われていません。 なぜか、 雑草も生えていないのです。 これは、 地域で管理されているからです。 それから、 監視もできるということだろうと思います。

画像yo093 改行マーク道路側にある更地は、 駐車場として使われており、 柵で囲われず、 地域で共有されていると言えます。

画像yo094 改行マークこれは富島です。 富島は区画整理をやると言っていたために仮設型の店舗がまだ多く、 震災の爪跡が残っています。 これからどうなっていくかわかりませんが、 皆が頑張って復興していく姿が人を元気付けるという面もありますので、 長期間こういう状態が続くのは問題があるのではないかと思います。

画像yo095 改行マーク仮設住宅は、 海側と山手側の両方にあります。 海側の埋立て地の方は住んでいる人はほとんどいなくなっています。 山手側の方は村外れの緑陰スペースが多いのですが、 海側はかなり暑かったと思います。


土木景観

画像yo096 改行マーク淡路島では根強い家相もあって、 漁村の雰囲気がよく継承されています。 今回の震災で傷つきはしましたが、 淡路島の景観の本質は色濃く残っていると言えます。 住民の方々は、 うまく在来工法を活かしながら、 路地等の漁村らしい雰囲気を色濃く継承しながら再建していると言えます。

改行マークところがどちらかというと公共事業である土木インフラの方が、 問題が多いという印象です。

画像yo097 改行マーク新しい縦貫道です。 法面にして比較的目立ちません。 それから、 我々も海の方を見ようとしますから、 縦貫道は背後になって、 あまり認識されませんが、 地元で「おむすび」と呼ぶ切土の三角法面は、 やはり気になります。

画像yo098 改行マーク埋め立て地の部分が、 これからの漁村のイメージを大きく変えるのではないかと思います。

改行マーク洲本などは、 レンガ造りということでHOPE計画の方から入って、 デザインコードを用意して個性のある港を作ろうとして頑張っていますが、 埋立て地は大半がグランド状のままです。 これからそういった所も漁村の玄関として、 どういうふうにしていくのかが問われます。 元々、 集落家屋と調和しない近代建築で漁港施設が多く建てられ、 再建もいち早く港湾施設と共に行われたため、 今後景観づくりとして、 どうしていくのかというのが非常に気になります。

画像yo099 改行マーク最後に観光用に二枚。 これは野島の断層で、 今も野島灯台横にこれが残っています。

画像yo100 改行マークこれはいるかの重村力さんの手掛けられた中学校です。 群として中学校を構成しているのが読みとれます。 ただ、 東浦は風が舞うように吹くため、 バルコニーなんかに枯れ葉がたまりやすいといった印象があります。 そのへんがちょっと気になりましたが、 明石海峡を渡って息づく集落景観とともにぜひ見て頂きたいと思います。


まとめ

改行マーク最後に震災後の景観と言いながらほとんど淡路島の特徴について見てきました。 漁村では確かにプレハブは増えましたが、 まだ7割強が在来工法で建てられており、 プレハブであっても瓦屋根がのっている状況を考えると、 今後の景観形成のあり方は地元の住民自身が自ら選択指向しているとも言えます。 再建されたプレハブ家屋の問題点は、 後で堀口さんの方からまとめてお話下さると思いますが、 淡路島特有の問題点ではなく、 プレハブ住宅そのものに共通した問題点となってしまいます。 阪神間との違いはまだ数が少なく通りや街区ではなく、 建築単体としての問題点と言えます。 このため淡路島の復興景観の特徴は、 震災で傷つきはしたものの今も息づく淡路島特有の景観特性にあると言えます。 このため淡路島の景観の文脈特性を中心にお話しましたが、 問題は漁村や散居集落の良さを行政も含め住民もあまり理解されていない点です。

改行マーク漁村は全て一律に捉えている観が強く、 淡路で唯一街並み保存の動きがあった江井で復元型の再建例の比率が高いことを考えると、 住み手の住民が何よりも自分達の集落に誇りを持つことから景観づくりは始まるとも言えます。

改行マーク震災で失われ傷ついたことを契機に、 淡路島の集落で共有してきた失われてはならない景観の良さの再確認が始まれば、 と思います。

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