音とは
音による癒しは古くから行われてきました。現代医療における音や音楽の効果についてもご紹介します。
音による癒しの歴史
シャーマニズムでは5万年前から音による癒しを行ってきました。
洋の東西をとわず、あらゆる宗教で儀礼や霊的な修行にも音や音楽を用いていました。
ヒーリングのためのマントラ(真言ともいう:神仏への賛歌や祈りを象徴的に短い言葉で表したもの)や呪文は古くからあり、起源も定かではありませんが、それらの足跡は歴史のあちこちに残っています。
古代エジプトの「音楽」を表すヒエログリフ文字には、「喜び」や「健康」という意味もありました。
現在の英語の sound(音) には、「(心や体が)健康な、健全な」という意味もあります。
また「良い」という意味合いでも使われます。sound judgement(妥当な判断)などです。
一方、health(健康)の語源はwhole(全体)、healing(癒し)、inhale(吸う)などと同じ古期英語のhalです。
healは北部の中期英語では健康回復を表すと同時に「音を発する」という意味もありました。
このように、興味深いことに言葉の歴史にも音と癒しとの関係があらわれています。
古代ギリシャのピタゴラスは、身体的・精神的疾患の治療に音を用いた歴史に残る最初の人であるといわれています。
落胆、苦悩、怒り、攻撃性などを癒すメロディを作り、「音響医学」と名づけました。
紀元前324年、リラ(ライアー)の奏でる音楽によってアレキサンダー大王は正気に返りました。
旧約聖書「サムエル記 上」には、若い羊飼いダヴィデが弾くハープの音でサムエルの気持ちが晴れたと記されています。
ギリシャ文化の時代、フルートの音が坐骨神経痛と痛風の痛みを鎮めたと伝えられています。
多くのオペラを作曲したゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(1685~1759)は、自分の曲は人々を楽しませるためのものではない、人々をより健康にしたいと考えていました。
1730年代、イタリア人カストラート(少年の聖域を保つために去勢した歌手)のオペラ歌手ファッネリは、その高音の歌声によりスペイン国王フィリップ5世の長年の慢性疼痛を治しました。
現代の音楽療法
精神科医のカール・ユング(1875~1961)は、ピアニストで音楽療法家でもあったマーガレット・ティリーとの出会いによって、音楽の治療効果に目覚め、「僕たちが患者の精神分析の際に、時々しか到達することができない原型的な素材に、音楽は深く到達することができる。これは非常に驚くべきことだ。」と言いました。
彼は、音楽は集合的無意識への入り口であると考えるようになりました。
音楽療法の先進国アメリカでは、19世紀から音楽が治療に用いられました。
20世紀前半には大学に音楽療法の専門家養成課程が設置され、1930~1940年代には病院で歯の治療や手術の痛みを軽減するために音や音楽を利用するようになりました。
現代の音楽療法は、1940年代後半に第二次世界大戦で心身を傷ついた兵士たちを治療するために用いられたことがきっかけで発展しました。
彼らの抑うつ状態が軽減したり、感情表現がうまくできるようになったり、現実処理能力が向上したりとさまざまな効果がみられました。
そののち、医療としての音楽療法が世界中で研究され、さまざまな心身相関症状の治療に応用されるようになりました。
現在、米国では5000人以上の音楽療法士が病院、診療所、リハビリテーション施設、教育機関、老人ホーム、刑務所、学校、託児所で活躍しています。
音楽療法はメディケア(米国で65歳以上の高齢者を対象とした政府の医療保障)の入院保険制度では、一定の条件により保険請求可能な医療サービスと認定されています。
音楽療法の適用範囲
ストレス緩和、疼痛の緩和、学習障害、精神疾患、出産、外科手術、心理療法の補助など。
音や音楽が心身に与える効果を研究し、「モーツァルト効果」という言葉を世界中に広めたドン・キャンベルは、「音楽は心身そして一人ひとりの人生を開放する鍵である」と述べています。
また「癒すことは統一体、すなわち調和と均衡のとれたオーケストラになること」としています。
一方、本人の発声により、緊張を緩め抑圧した感情を開放して、心身のバランスを回復する「トーニング」という治療法が1960年代より行われています。
また同じころ、誘導イメージ療法の研究も始まりました。
特定の音楽をリラックスした状態で聴くことで、意識の深い部分から心のイメージ、シンボルが湧き上がり、抑制されていた深い感情が解放されるのです。
音や音楽の生理学的効果
腫瘍専門医のミッチェル・ゲイナーが集めた臨床研究における音楽の治療効果
・不安の軽減、心拍数と呼吸数の低下
・心臓病にともなう愁訴の軽減
・血圧低下(収縮期圧と拡張期圧)
・術後患者の神経過敏の軽減
・免疫細胞(インターロイキン1)の増加
・検査によるストレスホルモン(副腎皮質ホルモン)の分泌低下
・エンドルフィンの分泌増加(エンドルフィンには免疫系の強化をはじめさまざまな健康増進作用がある)
・パーキンソン病患者が一定程度の運動性を回復
・脳卒中後の神経障害の軽減
・分娩中の妊婦のリラクセーション、麻酔の必要性の低下
・新生児の成長促進
彼は、がんに化学療法や放射線治療のほか、シンギングボウルと詠唱による瞑想と誘導イメージ法も用いており、著書「音はなぜ癒すのか」の中で、
「音には生理機能のすべてのレベルにはたらきかけ、そのアンバランスを調整する作用があるので、事実上、どんな症状や病気にも有効だと考えられる。
・・・音は直接からだに作用するだけではなく、感情レベル、思考レベル、霊的レベルに深く触れ、その人を変容させることによって、結果的にからだに作用するという効果をもたらす。」
と述べています。
彼はまた、マナーズ博士のサイマティクス療法に出会って、「音がいかにして細胞や遺伝子レベルで治癒をもたらすかという鍵は細胞固有の周波数にあるということを知り、非常に興味をもった」と記しています。