間歇日記

世界Aの始末書


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2001年9月上旬

【9月10日(月)】
▼伝説のチェス王、ボビー・フィッシャーとやらが(おれはチェスはさっぱりわからん)密かにネットでチェス界に復帰しているらしいという報道があった。なんでもネット上で匿名の相手と五十回対戦した人が、その相手はカスパロフより強く、ネット上の雑談でフィッシャーがむかし対戦した無名プレイヤーの名をもらしたというのだが、どうも決め手に欠ける証言である。それってふつう、相手はコンピュータだと思うのが自然では? 不自然か。
《ご恵贈御礼》まことにありがとうございます。

『ソドムの林檎』
野阿梓、早川書房)
『瀬名秀明 奇石博物館物語 課外授業 ようこそ先輩 別冊』
(NHK「課外授業ようこそ先輩」制作グループ編、KTC中央出版)
『こんなこと、だれに聞いたらいいの? 興味本位で何が悪い的雑学Q&A大全 [快答乱麻の巻]』
(セシル・アダムズ、春日井晶子訳、ハヤカワ文庫NF)
「Treva」で撮影

 『ソドムの林檎』は、〈SFマガジン〉に掲載された中短篇をまとめた野阿梓ひさびさの作品集。「ブレイン・キッズ」「夜舞」「ソドムの林檎」の三篇が収録されている。これについては、〈SFマガジン〉2001年11月号の「SFブックスコープ 今月の CROSS REVIEW」に書く予定。というか、あと三日のうちには、書かねばならない。連載時に一度読んでいるとはいえ、先日ゲラを読み終えたと思ったら、もう本が送られてきてしまった。ひー。
 『瀬名秀明 奇石博物館物語』は、以前この日記でも触れたNHKの番組の書籍版で、過去の出演者のものも十冊以上シリーズで出ている。番組では触れられていなかったが、冬休みの宿題として子供たちに課した“物語を作ってくる”という宿題を瀬名さん自身もやっていて、本書にはその“宿題”の掌篇「天狗の音色」が収録されている。
 『こんなこと、だれに聞いたらいいの? 興味本位で何が悪い的雑学Q&A大全 [快答乱麻の巻]』は、『こんなこと、だれに聞いたらいいの? 日常生活を笑わす雑学Q&A大全 [疑心暗鬼の巻]』 に続く、二分冊の二冊めである。[五里霧中の巻]じゃなかったな。あたりまえだけれども、一冊めと同じく、問うほうも答えるほうも、よくもこんなくだらないことを問い、よくもこんなくだらないことを答えているものだとあいた口が塞がらなくなる。例によって、勝れてくだらない質問を、「目次がわりの質問内容一覧」からご紹介しておこう――

「ゴキブリをレンジでチンしたら、一○分たってようやく死骸になりました。水なら三分で沸騰するのに、こんなに時間がかかったのはなぜですか?」
「CMで“歯医者さん五人のうち四人が、ガムを噛む患者さんにシュガーレスガムを薦めている”そうですが、五人目の歯医者さんは何を薦めてるんですか?」
「インカという完璧に近い文明が、車輪を発明できなかったのはなぜですか?」
「シアーズ・タワーの一一○階で出したウンコは、管をまっすぐ急降下して下水管を直撃したりしちゃうの?」
「女性専用の小便器なんて妙なものを発明したのはいったいどこのだれ?」
「低血糖症のわたしは、マリファナを控えたほうがいいでしょうか?」
「最近街で禿げた女性をよく見るようになった気がするのは、そういう人の数が増えているんですか、それともカミングアウトする女性が増えたの?」
「六○ミリリットルボトル入りのタバスコを飲み干したら、気分が悪くなるだけじゃなく、危険でしょうか?」
「税金申告書の説明書で、申告義務のある収入に“横領あるいは他の不正収入”があげてありました。でも不正収入の申告があったら、国税庁はどうするの?」
「破壊活動分子リストに入れられたら、電話料金にかかる連邦税を払わなくてよくて、電話を止められることもないってほんとう?」
「吸血鬼を殺すのにもっとも適切な方法を教えてください」
「中国人は両手を使わずに拍手することができると聞きました。ほんとう?」
「口にしたい言葉を思い出せない状態を表す言葉がありますよね――それが思い出せないんですけど……」

 一冊めに劣るとも優らぬくだらなさである。でも、回答が読みたいでしょう?

【9月9日(日)】
▼最近、しばしば選択的飢餓に襲われる。おれにはよくこういうことがあるのだ。今回の対象は、コンビニで酒の肴として売っている「丸干しいわし」である。会社の帰りにコンビニに立ち寄ると、ついつい買って帰ってしまう。で、酒の肴にするのかというと、ちがうのだ。夜中にむらむらと食いたくなったとき、手元にイワシがないと困るので、一応買っておくのである。夜中に口が寂しくなってくると、箸で丸干しをつまんでは、がしがしと貪り食う。酒ではなく、茶で食う。ひたすらイワシだけを食う。まあ、身体にはいいだろうけどねえ……。なにかおれの身体がいまイワシを欲しがるような状態になっているらしい。たぶん、遠からず宇宙から謎の病原体がやってきて、ここいらの住民がバタバタと死にはじめるのだ。なぜか生き残ったのは、大声で泣いていた赤ん坊と酔っ払いの爺いとイワシを大量に食っていたおれだけ――なんてことになりそうな気がしてならない。
 うーむ、それにしても、なぜイワシ? いったい、イワシになにがあるのか? ひょっとして、おれって“イワシ系”

【9月8日(土)】
▼またまた玩具菓子である。こうもいろんなのが出ると、コンビニの陰謀だとしか思えない。今度は、「ザ・ライダーマシン3」バンダイ)ってのがあったので、思わず(思ってるくせに)買ってしまう。
 これが大当たりであった。やはりオーソドックスなところで、「仮面ライダー旧1号・サイクロン」桜島一号ではない)と「仮面ライダー旧2号・改造サイクロン」を買ったのだが、とても一個三百円とは思えぬ出来栄えに、年甲斐もなく熱くなってしまった。いろいろややこしいデザインの仮面ライダーがいくら現われても、基本は1号・2号ですなあ。

【9月7日(金)】
▼夢の中にわけのわからない文字列が出てくることがよくあるが、今日は amaterrace なんてのが出てきた。夢に見ているときはなんのことやらわからなかったものの、目が覚めてからよくよく考えると、“天照”ではないか。カタカナでアマテラスと書くと、なんとなくアマデウスを連想するため、おれの無意識が勝手に英語の綴りを充てていたのだろう。そう改めて考えると、“愛と地”が“天照”であるのは、どことなく不気味な気さえする。日本神話にもラテン語系の言語の影響が入っているのだろうか……などと本気で考えはじめてしまったために、どこかでなにかを踏み外してトンデモな道に堕ちてしまった人はけっこうたくさんいるらしい。
《ご恵贈御礼》まことにありがとうございます。

『20世紀SF(6)1990年代』
(イーガン/シモンズ他、中村融/山岸真編、河出文庫)
「Treva」で撮影

 いよいよこのシリーズも間歇、じゃない、完結。二世紀にわたる異形、じゃない、偉業である。90年代までくると、もうほとんど新作短篇集といった様相を呈している。グレッグ・イーガンの初訳作品「しあわせの理由」(山岸真訳)というのも入っている。うーん、これは面白そうじゃあ。といっても、今年は長篇に追われて、ほんとに短篇が読めてない年である。〈SFマガジン〉すらろくろく読めていないのだ。あちら立てればこちらが立たず。毎年まるまるひと月くらい、本読み休暇というのを取れないものか。いやべつに、ひと月といわず、年に三か月くらいでもかまわんぞ。なんだったら、毎年、年に一年くらいそういう休暇であってもことに不都合はないので、どなたか宝くじでも当たったら、どうぞ遠慮なくおれのところに持ってきていただきたい。いや、ほんとに遠慮は要りませんってば。

【9月6日(木)】
モーニング娘。(“公式ページ”がいっぱいあるのでリンクは張らん)は、ようやく顔の区別がつくようになったころにメンバーが増える。これはなかなかいい手ではあろう。少なくとも、なけなしの興味は持続する。あまり興味がないものだから名前はちっとも覚えられないのだ。覚えようとしないせいもあるのだが、歳のせいもあるだろう。モー娘(これを“もーむす”と読むのには断固反対したい)どもはあまりにも健全すぎて、ちっとも面白くない。もっと病的なのを入れんか、病的なのを。
 とはいえ、まあ、可愛いことは可愛いわな。たぶん最年少なんだろうと思うが(メンバーが増えてそうでもなくなったのか?)、あのヒラメみたいな顔した黒髪の娘はなかなかよろしい。名前? 知らん。

【9月5日(水)】
無印良品にロゴマークがあるという事実は、おれをいつも哲学的思索の深淵へといざなう。『気まぐれ指数』(星新一、新潮文庫)に出てきた、あの自己の存在を否定するためだけのおもちゃを連想するのである。

【9月4日(火)】
▼昼休みにケータイが震えたので、見るとCNNからの Breaking News である―― Hewlett-Packard to acquire Compaq in $25 billion deal, according to published reports. Details soon.
 なななんじゃと? ヒューレット・パッカードコンパックを買収するとな。いやまあ、このようなことが起こってもまったく不思議のない世の中にはなっている。二十年前のおれに、将来、三井住友銀行などというものができると教えてやっても信じないだろう。が、実際にこういうことが起こるとなると、やっぱりびっくりする。そのうち、ハヤカワ創元ハルキ文庫SFとか、スーパーソノラマ電撃スニーカー文庫とかができるときに備えて、いまから心の準備をしておこう。
 だけど、最初にDECに入社した人は、これまたフクザツな心境ではなかろうか。J・P・ホーガンに感想を聞いてみたいものである。
 やがて、巨大になったヒューレット・パッカード本社のトイレに、いまは亡き会社の霊が夜な夜なさまよい歩くという噂が立つ。目撃者によると、その会社の霊は怨めしげに言うのである。「コンパックこの世に留まりて〜」
 あ、途中でわかりましたね、このオチ。コンパックの名前は残るのかなあ?

【9月3日(月)】
Harry Potter and the Goblet of Fire(J.K. Rowling)が、なんとヒューゴー賞を取ってしまった。一度は読んでみなくてはと思いつつ敬遠している《ハリー・ポッター》だが、こりゃあ、いよいよ読んでみなくてはな。
 会社の帰りに本屋を覗いたら、ハリポタのコーナーにはヒューゴーのヒュの字も書いてない。どうせそうでしょうとも。

【9月2日(日)】
▼最近おれも、なーんとなく井川遥のよさがじわじわわかってきたような気がする。おやじ度が堺三保さんに追いついてきたのかもしれない。もう少し病的だと、なおいいんだがなあ……。いわゆる“癒し系”でも、本上まなみはちゃんと病的な感じがするからいい。おれは毎年『御教訓カレンダー』ときれいなおねーちゃんのカレンダーを買うことにしているのだが、さて、来年のは誰にしよう? 葉月里緒菜のは出そうにないよねえ。

【9月1日(土)】
▼歌舞伎町の賭け麻雀ゲーム屋で火災。逃げ遅れた人が大勢死んだ。なんだか白木屋の火事みたいである――って、おれはいったいいくつだよ? どうもその、現実とフィクションとが、主観的にはべつにどっちがどっちでもいいような人生を過ごしてくると、歴史上の出来事さえ、「はて、おれはあの事件のときは生まれてなかったんだっけ? よく憶えてはいるんだが……ま、いっか、どっちでも」といった投げやりな混乱に陥ることがある。おれもそのうち、「そういやオレが昔サーカスの団長だったころ」(「小松左京のもっとキャラクターして!」とり・みき、〈小松左京マガジン〉第3巻、発行:株式会社イオ/発売元:角川春樹事務所・所収)などと言い出すにちがいない。
 で、白木屋の火事だが、なんとなく目の前で見たような気がやっぱりする。たぶん、国産・時間SFの金字塔『マイナス・ゼロ』(広瀬正、集英社文庫)のせいだ。おれが広瀬正だったころ(?)あの中で体験したのである。まあ、ひょっとしたら、「昔はよかったなあ」筒井康隆『筒井康隆全集23』新潮社・所収)のほうかもしれんけど。


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