間歇日記

世界Aの始末書


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2002年9月上旬

【9月10日(火)】
▼今度出る〈ユリイカ〉ニール・スティーヴンスン特集に書いた小文のゲラが届く。晩飯食ったら、校正してメール送信だ。おれんちにはファックスがないもんで、校正箇所をメールで指定するのである。おれの書くようなものはたいていそれほど長い原稿ではないから、こういうやりかたでしのいできているが(編集者の方々には余計な手間をおかけしているはずで、あまり褒められたことではない)、いくらしょっちゅうは使わないといっても、本でも書くような羽目になったときには、さすがにファックスを買わねばならんだろうなあ……と、いつも思うのだが、現状ではめったに使わんものを買う気にはなれない。上等なファックスなら、ちょっと上乗せすればパソコンが買えてしまうのだからなあ。
▼話題の住民票コードが送られてくる。マスコミにさんざん叩かれたせいか、さすがに封筒を透かして見ることはできないようになってはいるものの、おれのと母のとが一枚の紙に印刷されている。これはちょっと配慮を欠くだろう。うちはまあ、いまは一枚の紙に印刷されていたとて実害があるわけではないが、家庭によってはどういう事情があるかわかったものではないのである。同居親族にも自分の住民票コードを知られたくないという人だっているにちがいない。というか、世の中で誰が油断ならないといって、同居親族がいちばん油断ならない、なにをしでかすかわからない――なんて人も、少なくはないはずだ。ねじくれた家族というものの深い深〜い闇の部分は、どうやら育ちのよいお役人さんたちには想像の埒外にあるらしい。

【9月9日(月)】
▼まだ本調子じゃない(そもそも本調子なんてあるのか)。ちょっとふらつくが、そうそうゆっくりしてはいられない。先日届いた、弁当箱のような『航路』(コニー・ウィリス、大森望訳、ソニー・マガジンズ)パイロット版に取りかかる。

【9月8日(日)】
▼かなり回復。寝たり起きたりしながら原稿書き。

【9月7日(土)】
▼風邪のため、一日寝る。ひたすら熱と汗ばかりが出る。ひどい風邪を引くたびに、朦朧とした頭で『復活の日』小松左京、角川書店/ケイブンシャ文庫/ハルキ文庫)のことを考えてしまう精神構造はなんとかならんものか。風邪のときの条件反射みたいなものだ。ビョーキだよな。たしかに病気なんだが。

【9月6日(金)】
▼ひどい風邪でダウン。まだ暑いというのに、瘧のように顫えがくる。かと思うと、たいへんな量の汗があとからあとから出てくる。三十九度の熱が続き、立つとふらふら。こんなに本格的な風邪を引いたのもひさしぶりだ。夏バテで身体が弱っていたのだろう。〈ユリイカ〉の原稿の締切日だというのに弱った。とはいえどうしようもないので、締切を延ばしてもらい、会社も休んで死んだように眠る。
宇多田ヒカルが電撃入籍。最近の女性若手歌手は、ずいぶんと早く結婚するねえ。少しは少子化の歯止めになるだろうなどと呑気なことを考えていそうな政治家の顔が目に浮かぶが、おれはとてもそんなに楽観的にはなれない。宇多田ヒカルやら椎名林檎やら、生活になんの心配もないくらい才能と運に恵まれた“特殊な人”でなければ、あんなに早くに結婚して子供を産むことなどできないのではないかと裏返しに考えてしまう。子供を産み育て(つつ、自分の生活も維持す)るのが、たいへん贅沢な行為だということになっているのが、じつに滑稽なことだとは思う。まあ、結婚やら子育てやらがまったく別の宇宙の出来事であるおれ風情が心配するのも妙だけどもね。

【9月5日(木)】
▼おせっかいといえばはなはだおせっかいではあるのだが、それにしても、のび太くんってやつは、ろくな大人にならんような気がするのはおれだけだろうか?

【9月4日(水)】
▼アルミパウチに剥いた甘栗がちょこっとだけ入った例の『甘栗むいちゃいました』カネボウフーズ)を母が買ってきていて、おれも食う。やっぱりなかなかうまい。うまいが、以前にも書いたように、とてつもなく不埒な贅沢をしているようで、非常にうしろめたい。しかも、なにやら栗以外にもあとからあとから同じようなコンセプト、同じような包装の商品が出ている。おまけに、カネボウフーズのウェブページによれば、『甘栗むいちゃいました』は、大ヒット商品になっているらしいのだ。うーむ、なんかフクザツな気持ちだよ。でも、これらの商品、どう考えても環境によいとは思われない。おれのような電気を使いまくっている人間が言うのも説得力がないが、アルミパウチを作るのに電気は要るし、行楽地など野外に捨てる不心得者もたくさんいるに決まっている。少なくとも、おれはできるだけ買わないようにしている。それだけ大ヒットしているんなら、メーカのほうもアルミパウチの回収を考えてはどうか? それが難しいのなら、なんとか別の包装を開発してもらいたいものである。どうも家電メーカなどに比べると、無神経だと思うな。
 このアルミパウチ菓子のシリーズ、なんと「素材菓子(ナチュラルスウィーツ)シリーズ」というのだそうである。ウェブページには「食素材の自然のおいしさをそのままに/いつでもどこでも手軽に味わえるポケット菓子」なんて書いてあるけれども、たかが自然のおいしさをいつでもどこでも手軽に味わう程度のことのために、肝心の環境をぶち壊しているのではあるまいか。いや、べつにおれはカネボウフーズを攻撃しているわけじゃないよ。よいネズミ獲りを作った人が金を儲けるのは正しいことだ。ただ、ネズミを経営資源と考えれば、そうそう無茶を続けるわけにはいかんと思うのだわさ。

【9月3日(火)】
アーサー・C・クラークファンクラブ・メーリングリストで、The Guardianちょっと面白い記事が紹介されていた。ウェブでも読める。なんでも、SF作家の“九月十一日つながり”が次々と出てきているらしく、クラークも立派に(?)9・11と関係があったのだった。ビン・ラディンアイザック・アシモフ《ファウンデーション》に影響を受けたのではないかという話が出ていた矢先、クラークから手紙が来たらしい―― Clarke notes that the European Space Agency is sponsoring a project called Spaceguard. "I invented this name," he writes, "for the first chapter of Rendezvous with Rama (1973), which is now optioned for filming. I'm still spooked by the fact that the asteroid impact that triggers the story is dated 11 September.
 ええっ、そうだっけかと驚き、あわてて『宇宙のランデヴー』(アーサー・C・クラーク、南山宏訳、ハヤカワ文庫SF)をチェックしたところ、あっ、ほんとうだ。冒頭のページにいきなり出てくる――「二○七七年の例年(ルビ:いつ)になく美しい夏、九月十一日の朝九時四十六分(グリニッジ標準時)、ヨーロッパ一帯の住民は、東の空に出現した目もくらむばかりの火球を仰ぎ見た。数秒とたたぬうちに、それは太陽よりも明るさを増し、天をよぎるにつれ――はじめは完全な無音で――湧きかえるような塵煙の太い尾を引いた」
 それにしても、アシモフが話題になると見るや、なんの、わしもわしもとばかりに、こんなどうでもいいことにも“参戦”してくるところがクラークらしい。功なり名遂げてもまだ無邪気な有名合戦(?)をやっている好敵手には、天国にいるアイザックも苦笑していることだろう。
《ご恵贈御礼》まことにありがとうございます。

『航路』(パイロット版/非売品)
(コニー・ウィリス、大森望訳、ソニー・マガジンズ)
「Treva」で撮影

 「なんだ、この無愛想な装幀の本は?」とお思いになる方もあるかもしれないが、これは宣伝・書評・業界内配布用の簡易装幀版、つまり、見本、パイロット版(『航路』だけに)なのである。非売品だ。ちゃんとした装幀の“商品”は、上下巻でもうすぐ出る。
 この作品に関する詳しいことは、訳者の大森望さんが「コニー・ウィリス日本語サイト」を作られるであろうから、そちらをご参照ください。また、いつもの予知能力を発揮すると、この本の“商品版”が書店に並ぶか並ばないかくらいのタイミングで、おれは〈週刊読書人〉2002年10月11日号にこの作品の書評を書くにちがいない。
 とにかくまあ、いずれ死ぬことになっている人は、ぜひ読まれたし。いま予知したところによると、けっこうな大冊だが非常に読みやすく、ぐいぐい惹き込まれる。読んでいる最中にうっかり死んでいても気がつかないくらいである。

【9月2日(月)】
「携帯万能8」ってソフトのテレビCM「携帯ショップ編」に出てくるケータイショップの女店員役の人にちょっとハマっている。ケータイの機種変更でデータが消えちゃうぞと淡々と棒読み風に脅すアレだ。あのブッキラボーなしゃべりかたがたまらない。実際にあんなブッキラボーなケータイショップの店員は見たことないのだが、それでも、いかにも“それらしい”キャラを演じ切っている。名のある女優さんなのであろうか? それともあれが地か。ひょっとしたら素人さんだろうか? いや、それにしちゃうまい。タダモノではあるまい。美人じゃないがブスでもない。粘り気少なめの羽野晶紀みたいな感じで、奇妙な魅力のある人だ。どっかで見たことがあるような気がするんだよなあ。彼女はいったい何者なんだー!

【9月1日(日)】
Pocket PC には Pocket PC なりの tips があるに決まっているので、ウェブをいろいろ漁ってみる。「2ちゃんねる」の Pocket PC 関連スレッドをあちこち読んでいると、フォントキャッシュを増やせば見ちがえるように速くなると書いている人が多い。なにかと風当たりの強い2ちゃんねるだが、技術情報に関しては、なかなか面白く役に立つ情報も拾えて便利だ。
 とはいえ、2ちゃんねる情報をそのまま信用するほど、おれは純朴ではない。フォントキャッシュを増やすったって、どうやるのだ、レジストリを直接いじれとでもいうのか――と、さらにその線でウェブを漁っていると、あちこちで実践レポートを発見。レジストリを直接レジストリエディタでいじるという危険(なにしろ、ちょっとでもまちがうと、二度と立ち上がらなくなっちゃうことだってあるのだ)を冒さずとも、「ちょっとマニアックな設定を簡単に変更」できるPocket Tweakというソフトが Pocket PC ユーザの必需品として広まっているらしい。一応ダウンロードしてはみたが、理屈がわからないとどうも気色が悪い。なぜフォントキャッシュを増やすと、それほど「見ちがえるように速くなる」のか――と探しているうち、「フォントキャッシュとは何だろう」モバイルインチキ堂)ほか、納得のゆく説明をいくつか見つけたので安心する。このページの著者は、なんと4MBにまで増やして使っているというが、ほんとにそんなに増やして大丈夫なのか。
 ともあれ、さっそく Pocket Tweak を使って、フォントキャッシュをこわごわ1MBにまで増やしてみる。うわわわわ。これが同じマシンか。サクサク動くではないか。あまりサクサク動くので欲が出てきた。フォントキャッシュの上限はどのくらいだろう? 試行錯誤して落としどころを探ればよかろうが、そんなに暇でもない。またまたウェブを漁ると、パソコン雑誌等でよくお名前を見かける伊藤浩一さんの濃ゆい濃ゆい濃ゆ〜い日記にも、4MBにまで増やして平気で使っているとの記述を見つけ、ものは試し、しかし、自己責任じゃぞと思い切ってやってみる。どひゃーっ、は、速い! こ、この速さは、工場出荷状態のほとんど倍速、いや、下手すると、それ以上である。とくにメニューの起動や Pocket Internet Explorer 、「Pocket LOOX」に富士通が独自に搭載している「LXメニュー」が嘘のように高速になる。いやあ、これは快適快適。
 インターネットのなにが便利って、こういうパソコン関係の先人の知恵が、探せばいくらでも出てくるところだよなあ。しかし、ある程度パソコンやインターネットに慣れている人なら自分で探し出せるだろうが、初心者はそれができるようになるまでがたいへんだ。
 だけど、カスタマイズでこれほど使い勝手が向上するってのも問題だ。フォントキャッシュを増やすと俄然高速化するというテクニックは、Windows CE の時代から Windows系モバイラーのあいだで語り継がれているようなのだが、だったら初期状態でそこそこ多めに取っておけばよいだけのことではないのか。出荷状態では、4KBとか16KBとかだったりするのだ。最初にフォントキャッシュをこれほど小さく取っている理由というのが、逆によくわからない。なにか複雑な理由があるのかもしれない。にしても、工場出荷状態で著しく遅い設定になっているなんて、まだまだ“半製品”だよな、Pocket PC って。
田中康夫が長野県知事に再選される。まあ、当然だろう。それにしても、長谷川敬子候補ってのは気の毒な人である。ひとこと言いたかったろうな――「ありがた迷惑です」
 組織がしゃしゃり出なきゃ、これほどひどい負けかたはしなかったんじゃなかろうか。だから前から言ってるじゃないか、「タネガシマン」や「ひらどしマン」に学べって。


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