間歇日記

世界Aの始末書


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2004年1月上旬

【1月3日(土)】
▼五年ぶりの『古畑任三郎』新作、「すべて閣下の仕業」(フジテレビ系)を観る。犯人役には、松本幸四郎が固有名詞の出ないスペイン語圏の小国への日本特命全権大使として登場。今回は助手格の今泉(西村雅彦)も西園寺(石井正則)も出ないらしい。ここらで原点回帰ということなのかな。なにしろ《刑事コロンボ》シリーズへのオマージュが色濃いシリーズのことだから、外交官が犯人とくれば、当然『ハッサン・サラーの反逆』を意識してくるだろう。外交官特権というおいしい素材をどのように使うのか楽しみだ。
 ……と予断を持っていたら、小憎いことに、外交官特権ネタはまったくなし。大使を犯人にするに当たって、三谷幸喜もコロンボファンの予断を読んだのだろうな。テレビドラマとしては面白かったが(テレビドラマなのだからそれで充分だけど)、ミステリとしては、とくにあっと驚く部分はなし。ある意味で安心して観ていられた。プロットやトリックは、コロンボの『歌声の消えた海』『二枚のドガの絵』『逆転の構図』『5時30分の目撃者』とを巧みに合わせ技にしたような感じ……って、こういう観かた自体がすでに爺いのそれであって、三十代後半あたりより若い視聴者にはどうでもいいことかもしれん。
 むかし(そう、もう“むかし”だ)桃井かおりが深夜ラジオのDJ役で犯人をやったときについにオチを明かすことのなかった“赤い洗面器を頭に乗せた男の話”の使いかたは巧かった。スペイン語がわかる人同士がスペイン語のジョークを聴いてゲラゲラ笑っているところに居合わせた古畑が、なにを笑っているのか知りたがる時点で、むかしから観ている視聴者には、「ひょっとしたら……」とわかるような状況展開と台詞まわしにしてるんだよね。で、期待したところで、期待したとおりの展開にしてみせる。「以前から観てない人にはわからないじゃないか」と怒る人もいるかもしれないが、すでにある程度の顧客を獲得しているのなら、さらに新規顧客を獲得するよりも既存顧客のロイヤルティーを高めるほうが、少なくとも対費用(対労力)効果に関するかぎりはリターンが大きいというのは常識である。商売だからね。かといって、シリーズものがそうした既存顧客へのサービスばかりに走って本筋を疎かにするようになったら堕落のはじまりではあるが、今回のアレは、三谷幸喜らしい、脚本家としての藝が光る小技だった。
 あと、完全にミーハー的意見を述べておくと、木村多江はいつ観てもいいねえ。

【1月2日(金)】
過去の実績から推測するに、もしかしたらやるのではないか、たぶんやると思う、やるんじゃないかなと、ま、ちょと覚悟はしておいたとおり、小林泰三さんが桜井幸子と並んで撮った写真を年賀状にして送ってきた。ううむ、小林さんが「腰が抜ける程の美しさ」と言うだけのことはあって、たしかに桜井幸子は田中麗奈にはまだまだ出せぬ大人の色気を湛えていて美しい。名前とは裏腹になんとなく幸の薄そうな翳を秘めた美貌に、意志の強そうな眼が謎めいた光を湛えている。このような美女と肩をくっつけんばかりにして、ウルトラマンがどうしたダーがどうした冷麺がどうしたという話ばかりしているおやじが写っていること自体が『世にも奇妙な物語』であると思うのだがどうか。
▼毎年1月2日には妹一家がやってきてタコ焼きを食ってゆくことになっていたが、今年は母が関節リウマチを発病してしまったものだから、うちでタコ焼きパーティーをやるのも大儀である。で、今年はおれと母が妹の家へゆくことにした。妹が結婚してずいぶんになるが、なにしろ出不精なおれは、さほど遠いところに住んでいるわけでもないにもかかわらず、自分でも驚いたことに、妹の家にゆくのはこれが初めてなのである。べつに妹と仲が悪いわけではない。同種の生物とは思われぬほどに性格も好みも生きかたも異なるが、まあ、そこそこ良好な関係を保っている。この日記の常連の方はご存じのように、おれは姪どもとも仲がよい。義弟もこれまたおれとはまったくタイプの異なる種属であるけれども、妹の実家(という言葉は、なんだか新しく作った家庭のほうが格が低い“虚家”であるかのような響きがあっておれは好きじゃないが)関係の雑用にも厭な顔ひとつせずまめに手を貸してくれる好人物である。要するに、おれが出不精なだけである。どうも、用もないのに親族の家にただ遊びにゆくということがおれは苦手だということもある。
 初めて“メガネのおっちゃん”が来たというので姪たちは大喜びで、自分たちの部屋を得意気におれに見せる。姪姉妹のベッドはぴったり並べてあって、周囲にはごちゃごちゃといろんなものが置いてある。子供のころに部屋の一画にしょっちゅう臨時で作った“ひみつきち”のような風情だ。姉妹二人というものの感覚がおれにはいまひとつわからんのだが、こういうものなのであろうなあ。おれが以前に少しずつ買ってやった『まんがサイエンス(全8巻)』(あさりよしとお/学研/[bk1][amazon]│図書館版・改訂新版[bk1][amazon])が“ひみつきち”横の勉強机の書棚にずらりと並べてあるのは、たいへんよろしい。こういう名著をちゃんと読んでおけば、将来、ウルトラマンがどうした仮面ライダーがどうした冷麺がどうしたと言いながらハードSFを書く彼氏ができたときに話が合うだろう。
 寿司を食ったり、他愛のないテレビを観たり、姪の手品を見たり、トランプをしたり、地球ゴマを回したりして、お気楽なひとときを過ごす。

【1月1日(木)】
▼あけましておめでとうございます。今年も続くアホ日記、よくも飽きないものだと呆れながらおつきあいいただければさいわいに存じます。今年もまた年賀状を失礼してしまいましたが、年賀状をくださった方々には、平たい場所からではございますが厚く御礼申し上げ、非礼ながら新年のご挨拶に代えさせていただきます。本年もよろしくお願いいたします。


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