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アシラ(Asherah)

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 アシラは、西セム系太女神アシェラトのヘブル読みである。古代イラン語asha(宇宙の法則)に由来するものと思われる。この法則は家母長の法則であって、古代ローマの自然法と同じようなものである[1]。アシラは「知恵の点では神々のうち最もすぐれた者」[2]であった。シュメール人はアシラをアシュナンAshnan(万物の力、心のやさしい寛大な乙女)と呼んだ[3]。アシラの聖なる都市マル-アシュMar-ashは、聖書ではマレシャとなっている(『ヨシュア記』第15章 44節)。

 旧約聖書の欽定英訳ではアシラは「木立」groveとなっている。しかし聖なる木立が女神の生殖器の中心、つまり万物生誕の場であるという説明はなされていない。母権制時代、ヘブライ人は木立の下で女神を崇拝した(『列王紀上』第14章 23節)。しかし父権制時代になると、改革者たちは女神像を切り倒し、アシラに仕える聖職者たちの骨を彼らの祭壇の上で焼いた(『歴代志下』第34章 4-5節)。

 女神の木立-女陰は「聖なる場所」Athra qaddisa(文字どおりの意味では「聖娼」)であった。アシラは、ときには、単に「神聖」と呼ばれた。この名称はのちにヤハウェにつけられた。カナアン人はアシラを「神々を生む女神」Qaniyatu elimaあるいは「海を渡る女神」(=)Rabbatu athiratu yammiと呼んだ[4]。Rabbatuという語はラビrabbi(ユダヤ教の宗教的指導者)の昔の女性形であった。アシラという名前の変形としては、Athirat、Athra、Aethra、Athyr、そしてエジプトのヘ(ウ)ト=ヘル〔ハトホルHathor〕というのがあった[5]。エジプトではまたアセト〔イーシスIsis〕の古形であるアシェシュAshesh(法を与える母神)でもあった。このアシェシュという名前は、「あふれ出る」という意味と「養育する」という意味とを表した。いずれにしても、アシェシュの乳房のはたす機能を表したものであった。アシェシュの女陰を祀った神殿がテーバイにあって、アセルAsher、アシュレルAshrel、あるいはアシュレルトAshreltと言った。アシェシュのことを、「アシェルトの偉大なる女神、天界の女神、神々の女王」と呼んだ人もいた[6]

 アシラはしばらくの間セム族の神エルElをとしていた。アシラが天界の雌牛であり、エルが雄牛であった[7]。この聖なる結婚ののちに、アシラは天界の双子、シャヘルShaherとシャレムShalemを生んだ。明けの明星と宵の明星である。pointLucifer.. この結婚の儀式では、母親の乳で仔ヤギを煮ることが行われたらしい。しかしこうしたことは、のちに、ユダヤの聖職者たちの禁ずるところとなった(『出エジプト記』第23章 19節)[8]


[1]Larrouse, 312;Bachofen, 192.
[2]Larrousse, 76.
[3]Hays, 57 ;Hooke, M. E. M., 70.
[4]Albright, 121, 210.
[5]Hooke, M. E. M., 70.
[6]Budge, G. E. 2, 90.
[7]Larousse, 74.
[8]Hooke, M. E. M., 93.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)