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霊石(Baetyl、ベテル)

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 神が内在している聖なる石。ギリシア語ではbaitulos、へブライ語ではbeth-el (「聖なるものの家」)。紀元前5世紀、エホヴァの2人の女神-妻の名前はアシマ・ベテルAshima Baetylとアナタ・ベテルAnatha Baetylであった[1]。聖書ではアナタの聖石はベテアナテになっている(『ヨシュア記』19: 38)。中世のカタリ派の人々は、なお、神にはコラムとコリバムという名前の2人の妻がいる、と主張した[2]。


[1]Graves, W. G., 405.
[2]J. B. Russell, 125.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



中近東・語義〕 霊石(ベテル)は、「神の家」という意味であり、セム語族が起源の語である。それは神の顕在として、大預言者(マホメット)以前に、アラブ人がとくに崇拝した神聖なる石である。石は、神の力が集まる容器の1つであった。

ユダヤ〕 神の力によって割り当てられたのだが、ヤコブの子孫の運命がどうなるかを夢の中でヤコブが見たのは、石の上に頭をのせていたときである(『創世記』28、11-19)。ついで、彼は、その石を記念碑として建てた。そこへイスラエルの民が、巡礼にやって来た。族長の夢の中で、この石から昇っていった梯子は、天と地、神と人間との交流を象徴していた。ヨシュアもヤハウェと自分の民との契約のあかしに使われるために、石を建てる(『ヨシュア』24-27)。石は、霊的交流のしるしである。このような神の石、行動を表す石、示現や信仰の場所の部類は、容易に偶像崇拝の対象になっていた。そこで、モーセの命令でこれらは破壊されねばならなかった(『レビ』26、1;『民数記』33、52)。

ギリシア〕 古代ギリシア人にとって、大地の中心であるデルポイの〈オムパロス〉(へそ)は、パウサニアース(10、16、2)によると、白い石で作られた。それは地面の中心と考えられていた。ウァロが伝えた伝承によると、オムパロスは、デルポイにいた聖なる大蛇ピュートーンの墓を覆っていた。へそとして、この石は、「新生と回復した意識」を象徴する。それは超人間の存在する場所である。石や岩は、「固さ、持続、荘重さによって人間の精神に衝撃を与えるが、丸い石や岩が表現する、単に基本的な公現から、へそや大気現象の象徴的意味まで、宗教的な石は、常に人間より偉大な何かを〈意味する〉」(ELIT、202)。

 不確かな語源だが、それによると、ヘルメース神は、道ばたに置かれた石〈ヘルマイ〉から名づけられたようである。その石は、〈存在〉を意味し、〈力を具象化し、土地を守り、肥沃にする〉。長く、列状で、上に頭を戴いた石は、その名を借りた神の像になった。石は、神格化され、その過程は、人間が想像するには、神性に囲まれていた。アポッローン崇拝も石の崇拝に由来し、常に、神を識別するしるしの1つであった。

ケルト〕 現在のケルト系の国では、多くの地方の〈オンファロイ〉(へそ)、世界の中心(メンヒル)と考えられる多くの霊石が見られる。アイルランドの聖者伝のあらゆる原典の中では、問題点はあるが、主要な霊石は、アイルランドの最初の偶像であった。12本の石に囲まれた「丘の湾曲」(ファルの石の別名)であるクロム・クルアハだった。聖パトリックは、その信仰を自ら破壊し、司牧の杖で打った。その結果、石は、地面にめり込んだ。ケルマリア(モルビアン)の霊石は今日では無くなり、卍字がついていた(CELT、1、173以下)。

〔エジプト〕 古代エジプトで、ヘリオポリスの聖石は、〈ベンベン〉という名であった。この霊石は、原初の丘を象徴する。この丘、つまり砂丘の上に、アトゥム神が最初の男と女を作ったとき、立っていた。この丘、ベンベン石の上に太陽が初めて上った。その石にフェニックスが飛んで来て、とまっていた。ピラミッドとオベリスクは原初のベンベン石を連想させる。これ自体は、へそと男根信仰と無関係ではない。セルジュ・ソヌロンとジャン・ヨヨット(SOUN、82-83)は「噴出するという意味の〈bn〉の語源で〈ベンベン〉の名詞を説明することには、十分な根拠がある」と指摘する。「事実、〈bn〉や〈bnbn〉で、多くのエジプトの名称を再検討することは、エジプトの宇宙創成説の研究には興味深いことであり、これらの名称は、水の噴出や日の出や生殖に関係がある」。
 (『世界シンボル大事典』)


 画像は、scene of worship with tree in enclosure and man holding baetyl

 プリニウスによれば、これはケラウニア〔雷石〕の一種で、黒くて丸いという。「これは星の光をとらえる。<……>マゴス僧たちが、この石は雷電に打たれた場所でしか発見されないので、それを熱心に探し求めている」という(『博物誌』第37巻51節(135))。