エジプト人は、フェニキアの神ポイニクスと、ベンベンbenben石(男根を表すオベリクスObelisk)の精である彼らの霊鳥ベヌウbennuを同一視した。ポイニクスは生贄として火に焼かれ、死と再生ののちに、ルシフェルのように、明けの明星となって、天界に昇った[1]。エジプトと同様にフェニキアでも彼は火葬され再生する聖王を表した。王を燔祭によって生贄に捧げる慣習を象徴する儀式は、コプト人の算法による太陽暦の元日に、上エジプトにおいて、今世紀にいたるまで行われた[2]。薪の上で肉体から解き放たれた王の霊魂は、鳥の姿となったが、これは古代のファラオが火で焼かれるときに、ヘル〔ホルス〕-タカの姿をとるのと同じであった。Bird.
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)
〔起源・象徴〕 ヘロドトスやプルータルコスの伝えるところによると、フェニックスはエチオピア起源で、比類ない大きさで、格別寿命の長い、神話上の鳥である。薪の上で焼き尽きたあと、灰の中からよみがえる力を持っている。死期が近づくと香りのよい小枝で巣を作る。巣の中で自らの熱で燃えつきる。だからこの鳥のシンボリズムがどのようなものか明らかであろう。すなわち蘇生と不死、周期的な復活のシンボルである。
このために、中世全体にわたって、フェニックスはキリストの復活のシンボルとなった。人間性の方がペリカンで表されたので、ときには、神の《本性》のシンボルともなった。
〔エジプト・象徴〕 古代エジプトでは、太陽の回転のシンボルであった。フェニックスは、ヘリオポリスと結びつけられた。しかしこの「太陽の町」は、もともとは、エジプトのものではなかったかもしれない。原初の「太陽の大地」、ホメロスのいう「シリア」であったかもしれない。
アラブ人は、フェニックスは〈カーフ山〉以外の山には降り立たないという。カーフ山は極であり、世界の中心である。これはさておいて、エジプトのフェニックス〈ベンヌ烏〉は、太陽の日々の運行と結びついているし、ナイル川の年々の氾濫とも結びついている。このことから「蘇生」と生命との関連が生まれてくる。
〔中国・象徴〕 エジプトでは、フェニックスに関して「紫紅色」のサギが問題にされたので、蘇生のシンボルである赤色を求める錬金作業のことに言及しておきたい。道教の信者は、鳳凰(フェニックス)を「辰砂の鳥」と呼んでいた(丹烏)。辰砂とは、水銀の赤い硫化物であった。その上、鳳風はエンブレムの点からいうと、《南》、夏、火、赤色に相当するし、その象徴的意味は太陽、生命、不死と関連する。鳳凰は、《仙人》たちの乗り物である。笙という、鳳凰の形をし、その超自然の鳴き声を真似た音を出す楽器の発明者、女禍のエンブレムでもある。
鳳凰の雄は、至福のシンボルである。鳳凰の雌は、皇帝が竜であるのと対をなして、王妃のエンブレムになっている。雄と雌を合わせて両者で、結びつき、幸福な結婚のシンボルとなる。粛史と弄玉の鳳凰は、夫婦の幸せを表しているが、さらに夫婦を仙人たちの楽園へと連れていく。扁鵠に、周王朝の不死のシンボルである翡翠の存在を見せてくれるのも鳳凰である。平和な治世のときに現れてくるのは、純粋な〈陽〉の現出である鳳凰である。
〔アラブ・象徴〕 アル・ジーリー(Al-Jîlî)は、フェニックスを、名前のみによって存在が引き出されるものの象徴とした。フェニックスは「知性や思考でとらえられないもの」を意味する。そこで、フェニックスの観念は、その名前によってしかつかまえられないのと同じく《神》もまた、その《名前》と《特性》を介してしかわからない(CORM、DEVA、DURV、GUES、JILH、KALL、SOUN)。
〔エジプト・伝説〕 壮麗な、この寓話上の鳥は、夜明けとともにナイル川に太陽であるかのように、降り立つ。伝説によると、この鳥は、夜陰の中で燃え尽き、太陽のように消え去っていくが、灰の中からよみがえる。創造の火とともに破壊の火も喚起する。世界の誕生と終末は、ともにこの火にかかわっている。フェニックスは、シヴァやオルフェウスの代理人のような存在である。
〔象徴・復活〕 またフェニックスは復活のシンボルである。死者は、儀式に相当の犠牲を払い、その否定的な告白が真実だと認められたら、魂の計量(魂の秤量)の後、復活を待ちのぞむ。死者自身がフェニックスとなる。フェニックスには1つの星がついていて彼の天上での性質や別世界での生活がどんなかを表している。フェニックスとは、ベヌウという鳥のギリシア語名である。神聖な船の舶先に描かれた。船は「光の巨大な抱擁の中にこぎ出していく。……時が永遠に続くかぎり無限に生まれ変わるウシル〔オシーリス〕の普遍の魂のシンボルである」(CHAM、78)。
〔西洋・象徴〕 西洋のラテン世界も、フェニックスに関する同じようなシンボルを継承した。すなわち、原型がエジプトのベンヌ鳥で、寓話上の烏であり、その特質のため、格別の名声を博した鳥というイメージを継承した。キリスト教徒にとっては、オリゲネスから神聖な鳥と考えられるようになった。「永生」への否定しがたい意志や復活、さらに死に対する生の勝利のシンボルとなった(DAVR、220;SAIP、115)。(『世界のシンボル大事典』)
Birds.
朝焼けのナイルの水面から飛び立つサギは、水平線から昇る太陽の象徴となった。太古からの存在として、その鳥は秘密の諸力から生まれ、「ひとりでに発生したもの」であった。ベヌウは神の化身か、神の「輝かしい霊」とみなされており、死から復活するウシル〔オシーリス〕と二重に結びついている。ギリシア人はこれらのイメージから、ただ1羽しか存在せず、普通500年生きるといわれる奇跡の鳥フェニックスを創造した。
(マンフレート・ルルカー『ワシと蛇 シンボルとしての動物 』ウニベルシタス531、1996.7.)p.132