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ケールたち(Khvr pl. Kh:reV)

 イヌの顔をもった「復讐の三女神」で、大地母神デーメーテールのラテン名Ceres(ケレス)が派生した。太女神に仕える「の猟犬」の例にもれず、ケールたちも戦場に出かけ、死者の霊魂を天国に運ぶために彼らの死体を食した。ケールたちは、ヴァルキューレ、ダキニ、ハルピュイアハゲワシのネヘベト〔ネクベト〕、雌オオカミ、聖なる雌イヌなどの異名をもつ、あの恐るべき女霊魂導師の一面を表していた[1]。point.gifDog.


[1]Larousse, 166.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



 《イーリアス》中においては、戦場においてをもたらす悪霊。有翼で、黒く、長い歯と爪をもち、死骸の血を吸う。ときにそれは《運命》の意味にも用いられ、アキッレウスは武勲に輝く短いケールと故国に帰って長い幸福なケールとの選択を与えられ、またアキッレウスとヘクトールのケールをゼウスは秤にかけ、ヘクトールのそれがハーデースの方に傾いたことによって、彼のが決定される。しかしケールは決していい意味に用いられることはない。ケールは複数で、へ−シオドス中では、ニュクス(夜)の娘とされ、単数でタナトス()とモロスMoros(運命)との姉妹とされ、さらに複数でモイラたちの姉妹となっている。ケールは個人に関してだけでなく、集団的にも、たとえばトロイア方とギリシア方のケールのごとくにも用いられる。ケールはあらゆる悪をもたらす者として、古典時代には、ハルピュイアのように、ものを汚染し、腐敗せしめ、病気をもたらし、不幸の源泉となるとされている。ケールは、さらに、死者のの意味にも用いられた。死者の祭たるアンテステーリアAnthesteria祭の終りに、《ケールたちは外》と叫んだのは、この意味においてであった。(『ギリシア・ローマ神話辞典』)

 クレータ人にとっては、シシリアに油を輸出する方が、オリーヴの挿木を輸出するよりも利潤のあがることであったろう。しかしミュケーナイ文化の後期に、ヘレーネスの植民地が南部の沿岸地帯にひとたび創設されると、オリーヴの栽培もそこでさかんになった。シシリアをおとずれたアリスタイオスというのはおそらく、アテーナーがアテーナイのアクロポリスに植えつけたオリーヴの元木からだんだんふえた神聖なオリーヴの挿木をひろめることに責任を負っていたゼウス・モリオスのことであろう。彼はまたミーノースのクレータからアテーナイにつたわった養蜂術をもつたえたのかもしれない。もとのクレータでは、養蜂を職業とする人々は、その商標として蜂と手袋を用い、またテラコッタの巣箱を使用していた。蜜蜂をつけたパンという意味のギリシア語ケリントスはクレータ起源のことばで、それに関連したケーリオン「蜜蜂の巣」、ケーリノス「蟻の」、ケーラピス「蜜蜂の子」 — 一種のイナゴ — などのことばも、すべてクレータ起源のものにちがいない。事実、一般的に「宿命」や「運命」を意味するようになったケールCer(カールCarともクレQ'reとも綴る) — 複数のケーレスにすると、「悪意、疫病・眼に見えぬ災難」を意味する — は、クレータの蜜蜂の女神、生のなかのをつかさどる女神であったにちがいない。そういうわけで、テーパイのスピンクスの女神のことを、アイスキュロスは(『テーパイへむかう七将』七七七)「ひとさらいのケール」と呼んだのである。(グレイヴズ、p.403-404)