はるか西方の、日々太陽が沈む「極西」にある不死の庭園で、ときには「宵の明星」(金星)へスペラの姿で顕現した母神ヘーラーの領地だった。へスペリデスの園のリンゴの木には、永遠の生命を与えてくれるリンゴがなっていて、ヘーラーの聖なるヘビに守られていた。地上の楽園paradiseまたは「エデンの園」Edenとみなされた場所のほとんどがそうであったように、へスペリデスの園も「ヘーラクレースの柱」(ジブラルタル海峡東端の両岸にそびえ立つ2つの大岩)の彼方に位置していた。また「ヘーラクレースの柱」は、西の海に通じる海峡の大岩を指していただけでなく、古代の神殿の前に立っていた男根柱のことでもあり、したがってへスペリデスの園は、ヘーラーの再生の子宮を象徴している神殿そのものでもあった。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)
ヘスペリスは《夕べの娘》の意。へーシオドスでは彼女らはニュクス《夜》の娘であるが、のちゼウスとテミスとの、ポルキースとケートーとの、最後にアトラースの娘とされている。その数も三人アイグレーAigle、エリュティアErytheia、ヘスベラレトクーサHesperarethusa、あるいはアイグレー、アレトゥーサArethusa、ヘスペリアーHesperia、四人アイグレー、エリュティア、ヘスペリアー、アレトクーサ、あるいは七人とされている。
彼女たちはヘーラーがゼウスと結婚した時に、ガイアから貰った黄金のリンゴが植わっている園の番人で、竜のラードーンが彼女らを助けていた。園は古くは世界の西のはて、オーケアノスの流れの近くにあることになっていたが、のちアトラース山脈の近く、あるいはヒュペルポレイオス人の国にあるとされていた。
後代の合理的神話解釈では、彼女たちはアトラースとその姪のヘスベリスの七人の娘で、多くの羊(ギリシア語でmh:laは《羊》と《リンゴ》の意味になる)をもっていた。エジプト王ブーシーリスは山賊に羊を掠奪し、彼女たちをさらうことを命じたが、その時ヘーラクレースがこの国に来て、賊どもを殺して、彼女らをアトラースに返し、彼は英雄に彼の欲するものを与え、天文を教えた。(『ギリシア・ローマ神話辞典』)