天界の産婆の役を務めた女神たち(ディアーナ、 アプロディーテー、アルテミスなど)の添え名。女たちは、出産に際して、「解放者」としての女神イーリーテュイア・エレウトに祈りを捧げた。この女神は、子宮から子どもを解き放って自由にしてくれた。イーリーテュイア・エレウトは神話的な存在だったにもかかわらず、キリスト教では(男性の)聖人に列せられ、聖エレウテルスになった。同様に、パナギア・ブラスティケ(「多産の処女」)としてのマリアを祀った教会が、古くからアプロディーテー・イーリーテュイア(「多産の母親」)の礼拝堂のあった場所に建てられた[註1]。ギリシア人たちは、アセト〔イーシスIsis〕、ウアジェト〔ブトーButo〕、ヘ(ウ)ト=ヘル〔ハトホルHathor〕、ネベト・ヘウト〔ネフティスNephthys〕をはじめとする多くのエジプトの女神たちにも、イーリーテュイアの名を適用した。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)
お産の女神。ゼウスとヘーラーの娘といわれ、『イーリアス』では複数でも呼ばれていることがある。その起源はおそらくミノア時代のお産の女神であるらしく、ホメーロスはこの女神を祀った洞穴がクレータ島にあると伝えている。
彼女は、その職能から、ときにヘーラーやアルテミスと関係づけられ、同一視されている。神話中ではこの女神に独立した話はなく、ヘーラーに命ぜられて、アポッローンとアルテミス、あるいはヘーラクレースの誕生をおくらせたり、その他第二次的な役割をもっているにすぎない。ローマではユーノー・ルーキーナ Iuno Lucina と同一視されている。(『ギリシア・ローマ神話辞典』)