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back.gif第3巻・第3章


Xenophon : Hellenica



第3巻






第4章



[1]
 その後〔BC 396〕、シュラクウサイ人の ヘロダスなる者が、ある貿易商人といっしょに ポイニケ〔フェニキア〕にいるとき、ポイニケの三段櫂船が、あるものはよそから帰航し、あるものはその地で艤装し、あるものはさらに建造中なのを目撃し、さらにそのうえ、その数300艘になるはずだということまで耳にして、ヘラスに向けて最初に船出する商船に乗り込んで、ラケダイモン人たちに通報した、――大王とティッサペルネスとがこの遠征を準備している。しかし、行き先は知らない、と彼は言った。

[2]
そこでラケダイモン人たちはいきり立ち、同盟者たちを召集して、いかにすべきか評議したとき、リュサンドロスは、海軍力においてもヘラス人たちははるかに凌駕していると信じ、また陸戦隊においても、キュロスとともに攻め上った部隊が無事もどっていることを計算に入れて、アゲシラオスを説得して約束をさせた、――スパルテ人たちの30に加えて、新平民たちの約2000と、同盟者たちからの分遣隊約6000とを自分に与えて、アシアに遠征させる、と。しかし、このような計算のほかに、彼自身も彼〔アゲシラオス〕といっしょに出動することを望んだ所以は、監督官たちが父祖伝来の国制〔への復帰〕を下知したため、自分によって諸都市に設立された「十人制(dekarchia)」が失墜してしまっていたのを、アゲシラオスといっしょに再建しようとしたためである。

[3]
さて、アゲシラオスが出兵を布令したので、ラケダイモン人たちは彼が要求しただけのものと6ケ月分の食料とを与えた。そして、必要なだけの供犠と、他にも越境の生け贄をも捧げた上で出動したが、諸都市には使者たちを次々に派遣し、各都市からいかほどの人員を派遣し、どこに駐留すべきかを言いつけ、自分は行軍して アウリスで供犠することを望んだが、そこは、かつて アガメムノントロイア攻撃に出航するときに供犠した場所に他ならなかった。

[4]
ところが、そこに着いてみると、ボイオティア連合指揮官たち(Boiotarchoi)が、彼が供犠することを聞き知って、騎兵隊を派遣して、残りの供犠ができないようにするよう言いつけたが、〔騎兵隊は〕供犠がすでに終わったところに行き会い、犠牲獣を祭壇からまき散らした。彼〔アゲシラオス〕は神々を証人に呼び、怒りを発し、三段櫂船に乗船して立ち去った。そして ゲライストスに到着するや、可能なかぎり多くの軍隊をそこに集結させ、エペソスに向けて遠征を開始した。

[5]
 そして、その地に到着すると、先ず第一に、ティッサペルネスが〔使者を〕派遣して、何の必要があって来着したのかと彼に尋ねた。そこで彼は言った、――アシアにある諸都市も、われわれのもとにあるヘラス諸都市と同様、自治権を有するように、と。これに対してティッサペルネスが言った。
 「それなら、わたしが大王に〔使者を〕派遣している間、講和する気があるなら、あなたはそれを成し遂げて、あなたが望めばだが、引き上げることもできると思う」。
 「いや、そうしたいものだ」と彼は主張した、「あなたに騙されているのだと思わないでいられさえすれば」。
 「もちろん、あなたはこのことの保証をとることができるのだ。あなたがこれを実行している間、誓って下心なく、講和の成立している間、われわれはあなたの支配に何らの不正を加えないという」。

[6]
 こういった発言の後で、ティッサペルネスは自分のもとに派遣されてきた者たち―― ヘリッピダス、デルキュリダス、 メギロスの前で、誓って下心なく和平を守るとの立誓をなし、彼らの方も、アゲシラオスの代わりに、ティッサペルネスの前で、彼がそれを実行している間、誓って講和を厳守する、と誓い返した。ところがティッサペルネスは、自分の誓った内容をすぐに欺いた。というのは、和平を守る代わりに、自分が以前から保有していた軍隊に加えて、はるかに〔多くの〕軍隊を大王のもとから呼び寄せたのである。しかしアゲシラオスは、そのことをどれほど知っても、依然としてその和平に固執した。

[7]
 じつは、アゲシラオスがエペソスで静かにして暇つぶしをして過ごしていたのは、諸都市における国制が、アテナイ人たちの治下の時のようにもはや民主制にあらず、かといって、リュサンドロス治下のように「十人制」にもあらず、困惑していたためであり、万人はリュサンドロスを知っていて、自分たちの要求を彼がアゲシラオスから達成してくれることを要請して彼に取り入っていたからである。じつにこのゆえに、おびただしい群衆がいつも奉仕して彼に追従し、そのため、アゲシラオスの方が私人で、リュサンドロスの方が王のように見えた。

[8]
そういうわけで、このことがアゲシラオスをも激怒させたということを、後に明らかにした。何はさておき、他の三十人〔 本章 2節〕は嫉妬が原因で黙っておらず、アゲシラオスに向かって、リュサンドロスは王よりも威張った振る舞いにおよび無法を為していると言った。そこで、リュサンドロスはアゲシラオスに誰彼を紹介し始めたが、彼の同調者とわかった全員を、何らか劣っているとして送り返した。自分の望んだこととは反対のことがリュサンドロスにいつも結果したので、いったい何が起こっているのかを理解した。そこで、群衆が自分について来ることをもはや許さず、何らか助力を望む連中にも、自分が味方したら、損をするだろうとはっきりと言った。

[9]
しかし、その不名誉さにうんざりして、前に進み出て言った。
 「おお、アゲシラオスよ、少なくともあなたは友たちを貶めておられるのではといぶかっております」。
 「ゼウスにかけて」と彼が言った、「わしよりも偉大に見えることを望んでいる連中に対してはな。だが、〔自分の威勢を〕増大させてくれる相手には、名誉の返礼の仕方を知らないとすれば、わしは恥じるだろう」。
 そこでリュサンドロスは言った。
 「いや、おそらくは、わたしが実行してきたよりももっとふさわしいことをあなたは実行しておられるのであろう。それでは、どうか、せめては次のような恩恵をいただきたい。あなたの側にあって不能を恥じなくてもすむよう、また、あなたの邪魔をしなくてもすむよう、わたしをどこかに送り出すという。どこにいても、わたしはあなたにとって都合のよい者であるつもりです」。

[10]
こういうことを言うと、アゲシラオスにもそうするのがよいと思われ、彼をヘレスポントスに派遣した。その地でリュサンドロスは、ペルシア人 スピトリダテスがパルナバゾスに何かで軽んじられているのを察知して、彼と会見し、子どもたちと手持ちの財産と騎兵およそ200を引き連れて離反するよう説得した。かくして、その他のものはキュジコスに置き去りにして、彼とその息子だけを乗船させてアゲシラオスのもとに連れ帰った。これを見てアゲシラオスはその働きを悦び、すぐさまパルナバゾスの領地と支配について聞きただした。

[11]
 他方、ティッサペルネスの方は、大王から下賜された軍隊のせいで尊大になって、アシアから撤退しなければと、アゲシラオスに宣戦布告したので、その他の同盟者たちと、ラケダイモン人たちのうち、居合わせた者たちとは、周章狼狽の態をあからさまにしたが、それは、アゲシラオスの現有勢力が大王の戦備よりも劣っていると考えたからである。ところがアゲシラオスは、喜悦満面、ティッサペルネスに報告するよう使節団に命じた、――大いなる感謝をそなたにささげる、誓約をたがえて神々を敵対者となして持ち、ヘラス人たちには〔神々を〕同盟者となしたもうたゆえに、と。それからすぐに将兵たちには出兵の荷ごしらえをするよう申し渡し、カリア攻撃に出兵する場合にどうしても通過しなければならない諸都市には、市場を準備するよう言いつけた。さらにまた、イオニア人たち、アイオリス人たち、ヘレスポントス人たちにも、共同出兵する者たちをエペソスの自分のもとに派遣するよう通達した。

[12]
対してティッサペルネスは、アゲシラオスが騎兵部隊を持っていなかったことと(しかし、カリアは騎兵戦に適さなかったが)、また、自分が欺瞞したことで彼が自分に怒っていると考えたこととから、自分の家郷に向けカリア攻撃に彼が進発してくると本当に信じ、陸戦隊は全部隊をそちらへ渡らせ、騎兵部隊の方はマイアンドロスの平原に回し、騎兵戦の難しい地域に達する前に、ヘラス勢を充分、騎兵隊で踏みにじれると信じた。ところがアゲシラオスは、カリアに進撃する代わりに、すぐに反対に方向を転じ、プリュギアに進軍し、進軍途中に行き会わせた軍勢をも収容・統帥するとともに、諸都市を征服し、予期していなかった地域に侵入したために、おびただしい財貨を取得した。かくして、他の時には、安全に行軍していったのである。

[13]
しかしながら、 ダスキュレイオン市から遠くないところで、彼に先行していた騎兵隊員たちがある丘の頂上に疾駆し、前方に何があるかを遠望しようとした。ところが、ある偶然から、パルナバゾスの騎兵隊で、 ラティネスとその庶子の兄弟 バガイオスとに率いられた一隊も、ヘラス勢と同数であったが、パルナバゾスに派遣されて、この連中もその同じ頂上に疾駆してきた。そして、4プレトロンも離れていないところからお互いを認めて、まず、両者とも立ち止まり、ヘラスの騎馬隊は密集戦列のように4層になって戦闘配置につき、異邦人たちの方は、先頭は12列以上にはならないものの、しかし縦深を多層にした。かくして、先に発走したのは、異邦人たちの方であった。

[14]
手の届くほどの距離まで進んだとき、ヘラス勢のうち、何人かを撃滅した者たちは全員、その長柄を折ってしまったが、ペルシア人たちの方は、ミズキの木でできた槍(palton)を持っていたので、たちまち騎兵12、馬も2頭を殺害した。このため、ヘラスの騎兵たちは背走した。しかし、アゲシラオスが重装歩兵を率いて救援に駆けつけたので、今度は異邦人たちが退却し、そのうちの一人が戦死した。

[15]
さて、この騎兵戦が起こったため、次の日、アゲシラオスが先行きについて生け贄をしたところ、犠牲獣の肝臓が不完全であった。このようなものが現れたがために、方向を転じて海の方へ行軍した。そして、騎兵部隊を充分に持っていなければ、平原地帯で征戦することは不可能なことを知り、これを装備しなければならない、そうすれば、逃げ隠れしながら戦争するようなまねをしなくてもすむと判断した。そこで、かの地の諸都市すべてから、最も富裕な者たちを登録して、馬の飼育をさせた。その一方で、何びとも、馬とか武具とか適格者とかを提供した者、この者には出兵しなくてよいと認める旨を申し渡し、こうして、人は自分に代わって戦死してくれそうな者がいるとすれば、熱心に探そうとするであろう――それぐらい〔の熱心さで〕事が短期間のうちに実行されるようにさせたのであった。

[16]
 やがて、春のきざしが見えたので〔BC 395〕、全軍をエペソスに集結させた。そして、これを訓練することを望んで、褒賞を授与したが、重装歩兵の戦列には、身体の最善な者に、騎兵隊には、最もすぐれた騎兵に。また、軽楯兵たちや弓兵たちにも、しかるべき任務に対して明らかに最も優れた者たちに褒賞を授与した。これによって、訓練場はみな訓練をしようとする者たちで満たされ、馬場は馬術練習をする者で〔満たされ〕、投槍兵や弓兵たちも練習する様を目にすることができるようになった。

[17]
また彼は、自分が駐留している国家全体をも一見にあたいするものにした。すなわち、市場は、馬匹にしろ武具にしろ、あらゆる種類の商人たちに満ちたばかりか、銅鍛冶、大工、銅細工師、皮革屋、画家、あらゆる者たちが戦争用の武具を拵えていたので、その国は本当に戦具の製作所と思われたほどである。

[18]
また、次のような光景を見ても、人は鼓舞されたことであろう、――アゲシラオスを先頭に、その後にその他の将兵たちも、花冠をいただいて訓練場からもどり、花冠をアルテミス女神に捧げる、という光景を。なぜなら、いずれの地であれ、男子たちが神々を畏敬し、軍事訓練にいそしみ、指揮に従うことを練習するところ、そこではすべてが善望に満たされるということが、どうして当然でないことがあろうか。

[19]
さらにまた、敵国人たちを軽蔑することこそが、戦闘にさいして一種の力を発揮すると考えて、伝令官たちに言いつけて、略奪部隊によって捕らえられた異邦人たちは裸体で売買するようにさせた。そのため、将兵たちは、〔異邦人たちが〕脱衣ということをまったくしないために色白なのを目にし、また、いつも乗り物に乗っているために軟弱で労苦に耐えないのを〔目にして〕、戦争は女たちを相手に闘わねばならない場合と何ら異ならないと確信したのである。

[20]
 かくするうちに、アゲシラオスが出帆したその年もすでに終わったので、リュサンドロス麾下の30人は、家郷へと引き上げ、その後任(diadochoi)としてヘリッピダス麾下の者たちが来帆した。この中の クセノクレスと他にもう一人とは騎兵隊に配置し、 スキュテスは新平民の重装歩兵隊に、ヘリッピダスはキュロス島人たちの隊に、 ミュグドンは〔同盟〕諸都市からの将兵たちの隊に〔配置し〕、彼らには、自分が領土の最も有利な地点へまっすぐ、最短距離で嚮導すると予告し、そうやって、身体も精神もただちに戦うための準備にかかれるようにさせたのである。

[21]
しかしながら、ティッサペルネスはこれを、相手がまたもや騙そうとして言っているのであって、今度こそ本当にカリアに侵入するつもりだと信じ、前回と同様、陸戦隊をカリアに渡らせるとともに、騎兵部隊をマイアンドロスの平原に配備した。対してアゲシラオスは、欺くつもりはなく、予告どおりまっすぐサルディス地方に侵入した。そして3日間は、敵国人たちに遭遇することもなく進軍して、軍隊の必需品を多く取得したが、4日目になって、敵国人たちの騎兵隊がやってきた。

[22]
そして、輜重隊の隊長には、 パクトロス河を渡ったところで宿営するようにと〔ペルシア勢の〕指揮官は言いつけて、自分たちはヘラス勢の随行者たちが掠奪目的にちりぢりばらばらになっているのをつぶさに観察した上、その多くを殺傷した。しかし、アゲシラオスが察知して、救援するよう騎兵たちに命じた。だが、ペルシア勢は今度は救援隊を目にして、集結して、騎兵による全戦列によって迎撃態勢をとった。

[23]
まさにこのとき、アゲシラオスは、敵にはまだ陸戦隊が備わっておらず、自分には装備に何ら欠けるところのないのを知って、可能なら交戦する好機と考えた。そこで、 血祭を捧げると、ただちに密集隊を対抗戦列の騎兵隊攻撃に率い、重装歩兵のうち兵役10年層の者には相手に肉薄して駆けるよう命じ、軽楯兵たちにも駆け足で先導するよう言いつけた。さらにまた騎兵たちにも、自分と全部隊とが後に続くからと言って、突撃を下知した。

[24]
まさしくこの騎兵隊をペルシア勢は受けとめようとした。だが、〔交戦の〕ありとあらゆる恐るべき事態が一挙に発生した後、彼らは崩れ、そのある者たちはすぐさま河の中で斃れ、その他の者たちは敗走した。対して、ヘラス勢は追撃を続け、相手の陣営までも攻略した。そこで軽楯兵たちは、当然のことながら、奪略に転じた。しかしアゲシラオスは、友邦のものも敵のものも、そのすべてをぐるりと陣内に囲い込んだ。かくして、他にも多くの金銭(それは70タラントン以上あることがわかった)が〔アゲシラオス軍によって〕取得されたが、ラクダたちが取得されたのもじつにこの時で、そのラクダはアゲシラオスがヘラスに連れもどった。

[25]
 ところで、この戦闘が起こったとき、ティッサペルネスはたまたまサルディスにいた。そのため、ペルシア人たちは彼に騙されたと考えた。しかもペルシア王自身までが、自分の事態が悪く運んだのはティッサペルネスのせいだと考え、 ティトラウステスを下向させて彼の首をはねた。これを実行した後で、ティトラウステスはアゲシラオスに使節団を送って言わせた。「おお、アゲシラオスよ、事件の責任者は、あなたがたにも、わたしたちにも、償いをした。そこで、大王は、あなたには家郷へと引き上げることを、そしてアシアの諸都市には、自主独立者として古よりの貢納を自分に献上することを要望しておられる」。

[26]
 そこでアゲシラオスが、家郷の首脳部を抜きにそんなことはできない、と答えると、
 「いや、あなたは、国家からの指示を聴くまでは、移動すべきだ」と彼は主張した、「パルナバゾスの領地へ。あなたの敵を処断したのはわたしに他ならないのだから」。
 「それでは」とアゲシラオスは主張した、「少なくともその地に行軍するまでの間、わが軍勢に必需品を支給すべきだ」。
 そこでティトラウステスは彼に30タラントンを与えた。これを受け取ると彼は、パルナバゾスのプリュギアに向けて進撃した。

[27]
さて、彼が キュメの奥の平原にあったとき、家郷の首脳部から通達が届き、艦隊をも自分の判断によって指揮し、彼の望む者を艦隊指揮官に任命するようにとのことであった。ラケダイモン人たちがこのようなことをしたのは、次のような思量によってであった。すなわち、もし同一人物が両者の指揮をとれば、陸戦隊は、両方の強力さが一つになるのだから、はるかに強力となるであろうし、艦隊も、陸戦隊が望むところへ出没できるのだから、〔同様だ〕と。

[28]
これを聞くとアゲシラオスは、まっさきに、島嶼や沿海地方にある都市に対して、それぞれの都市が望みうるだけの三段櫂船を造るよう申し渡した。かくして新しい〔三段櫂船が〕できあがったが、それは、諸都市および私人たちが、ご機嫌をとりたいと望んで申し出たものから成り、およそ120艘であった。

[29]
そこで、妻の兄弟の ペイサンドロスを艦隊指揮官として任命した。〔ペイサンドロスは〕名誉愛の強い、魂の強健な人物であったが、必要に応じて準備するというようなことには無経験であった。そのため、ペイサンドロスは赴任すると艦隊のことに従事した。他方、アゲシラオスの方は、進発したとおり、プリュギアに向けて進軍した。
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