間歇日記

世界Aの始末書


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2002年12月下旬

【12月31日(火)】
▼もう今年も終わりか、来年は鉄腕アトムが生まれなければならないのだなあなどと思いながら夕方テレビを観ていると、テレビ朝日萩野志保子アナウンサーが登場――あれっ。あれあれあれっ? トレードマークの眼鏡がない。いかんなあ。この人、自分のファン層がよくわかっていないのではなかろうか。コンタクトで無理しているせいなのか、プロンプタを見ながらニュースを読んでいる際、見苦しいほどにまばたきが多い。あまりにまばたきしないのも不自然だが、多すぎてもうるさい。つまり、眼鏡をやめていいことなどひとつもないではないか。初めて見たときに眼鏡をかけていた人が突如眼鏡をやめると、どうもおれには、たいていまぬけ面に見えてしまうのである。本人は美人・美男になったと思っているのかもしれないが、必ずしもそうではないぞ。まあ、そこいらへんの考察は、「迷子から二番目の真実[32] 〜 眼鏡 〜」を参照されたい。
 とはいえ、萩野アナ、そのスジの方々は楽しみにしているにちがいないんだし(ひとごとのように)、眼鏡が似合うんだから、眼鏡になさい、眼鏡に。

【12月30日(月)】
▼日付が変わってから、カラオケに繰り出す。岡田靖史さん、さいとうよしこさん、水鏡子さん、藤元直樹さんといったこれまたほぼ例年どおりの面子である。
 朝まで唄って、これまた例年どおり長浜ラーメンを食べて帰ろうと思ったら、あっ、なんということだ。いつもの長浜ラーメン屋は閉まっているではないか。そうか、例年とちがって、今日は月曜日なのである。さては月曜は早朝までやっていないのだな。これは覚えておかなくてはならん。
 楽しみにしていたラーメンが食えなかったので、朝食の米をやたらおかわりして心にぽっかりと空いた穴を埋める。朝食のあとは、例年どおり喫茶店に入り、今年の話題作の話などしてお開き。帰って寝る。

【12月29日(日)】
▼夕刻、毎年恒例のSF忘年会に出かける。あんまり恒例(?)なので、毎年そんなに変わったことが起こるわけでもなく、日記が著しく遅れていることもあるし、ここは著しく手を抜くことにする。
 鍋を食ったあと恒例のビンゴゲーム。今年もおれのカードは穴だらけになりながらも、いっこうにビンゴにならない。今年もなぜか大森望さん一家はやたら早く上がる。くじ運が悪いことではおれといい勝負だと密かに仲間意識を抱いていたあの水鏡子さんまでもが、かなり早く上がる。ビンゴなんかきらいだー。
 飯を食ったあとは、岡田靖史さんが毎年恒例で持ってくる舶来のゲームを、またまたいつものようにやる。バルバロッサという妙なゲームがあって、なぜかゲームのセットに粘土が付いているのである。これで粘土細工をして、いったいそれはなんなのかを当て合うという単純なゲームである。単純なゲームなのだが、あまりリアルに作ってはいけないのだ。ゲームがあっという間に終わってしまう。しかし、あまりにもデフォルメしてもいかん。ゲームが全然進まない。よって、勘のよい人にならそれはなんであるかがそこはかとなくなんとなく雰囲気的にはわかるといった微妙な作りかたをしなくてはならない。ふつう、良識ある大人が粘土を与えられればプラナリアを作るものと決まっている。そこでおれはその常識を逆手に取って、プラナリアを作った。案の定、なかなか当たらない。それにしても当たらなさすぎる。おれの藝術的なデフォルメが常人には容易に理解されないようである。常人に理解できないといえば、ゲーム盤の上にはなにやら奇ッ怪な保育園児の粘土細工としか言いようのないものばかりが並んでいる。あとでわかったことだが、それらは帽子のような火山包茎の戦車といったものであった。SFファンの常軌を逸した造形能力にあいた口が塞がらなくなるゲームだった。

【12月28日(土)】
昨日帰宅して晩飯を食ったら今日になっていた。さっそく買ってきた『妖怪天国』『ブラック・ジャック』を立て続けに観る。
 『妖怪天国』はまあ、手塚眞が思いっきり趣味で作ったようなオムニバスで、おれはけっこうこういうのが好きだ。公開当時あっちゃこっちゃで評を読んだので内容はよく知っていて、思ったとおりの作品。伊武雅刀いいなあ。網浜直子にしても速水典子にしても、手塚眞の女優の選びかたは気味が悪いほどおれのツボにハマる。やっぱり、こういう映画には天本英世は欠かせない。
 隆大介主演のOVA版『ブラック・ジャック』は、みなよいよいと言うのだが、観てみると、なるほどこれはじつによい。非常によい。相当原作を読み込んでいないと書けない脚本で、下敷きにしている数本のエピソードも、どちらかというと通好みの渋いものを精選している。元がマンガだけにキャラクターはいい意味で類型的に立っていて、そういうキャラをまたそういうキャラが巧い実力派たちが的確に演じている。しかも、どう見ても低予算だ。金がかかってそうなところといえば、ブラック・ジャックのあの崖の上の家がCGであのまーんまに再現されているシーンくらいじゃなかろうか。あとは、病院や医療機器を借りる金くらいだろう。マフィアのゴッドファーザー、ボッケリーニ(原作「報復」に登場)すら、日本人の役者がイタリア人の扮装で演じているくらいである(だからイタリア語はカタカナっぽい)。かくも安上がりにすませていそうな作品なのに、たっぷり楽しめる。やっぱり映画というのは、あたりまえのことながら脚本が屋台骨だなあ。『ブラック・ジャック』をドラマ化する際には、いつも必ず決まって例外なく持て余すピノコ1996年12月4日2000年3月31日の日記参照)を、あえて登場させていない潔さもいい。もっとも、この隆大介BJのOVAには続篇も出ていて、それにはピノコが出てくるらしい。観たいような観たくないような……。
 ともあれ、じつにお得な買いものであった。この作品は、少なくともおれがいままでに観た実写版『ブラック・ジャック』の中では最高傑作である。脚本家(橋本以蔵)は、きっと擦り切れるほど原作読んでるんだろうな。

【12月27日(金)】
▼中古ビデオ販売をしているところに通りがかり、『妖怪天国』(監督:手塚眞/脚本:浦沢義雄/出演:石上三登志・網浜直子・伊武雅刀・速水典子・手塚治虫・楳図かずお・水木しげる・馬場のぼる・天本英世・アゴ勇ほか/ポニー/1986)と『ブラック・ジャック』(監督:小中和哉/脚本:橋本以蔵/出演:隆大介・香川照之・山口リエ・南原宏治・西田健・梅津栄・斉木しげる・伊丹幸雄・藤岡弘・大杉漣ほか/バンダイビジュアル/1996)の二本を、なんと千円で買う。奇しくも“手塚つながり”である。出演者もスジ者(なんのだ)が喜びそうな役者(でない人もいるけど)がずらり。いやあ、儲けものだ儲けものだ。隆大介のブラック・ジャックは一度観てみたいと思っていたのが、買うことになるとは思わなかった。ラッキーである。それにしても、ものの値打ちのわからない中古ビデオ屋ではあるな。客としてはありがたいんだが。

【12月26日(木)】
国立国語研究所とかいうところが、『なじみの薄い外来語を日本語に置き換える「言い換え集」を発表した』と報道にある(現物は、国立国語研究所「外来語」委員会のページにPDFで載せてある)。なにやら、読んでいると戦時中を思い出す。そんな未生の記憶が呼び覚まされるほどに、なかなかの傑作なのである。
 「インフォームド・コンセント」「納得診療」ってのは、なかなかいいと思う。「オンデマンド」「注文対応(受注対応)」か。こりゃちょっとニュアンスが変わっちゃってないか? “注文”ってのがなんかたいそうな気がするんだよなあ。そこまで重たい“注文”行為を意識しなくても、ひょいと命じりゃ欲しいもんがやってくるって感じだと思うんだが……。
 最高に気に入ったのは、「オピニオンリーダー」「世論先導者」である。世論先導者! いいなあ。いまにも小林泰三の小説に出てきそうだ。どんなに壊れた世論を持っていっても、「くとひゅーるひゅー」とか「てぃーきらいらい」とか言いながら、たちまち先導してくれる世論先導者「肉食女子高生」の次はこれですぜ、小林さん。
▼今日は外食をして帰らねばならんので、秋になるとサンマを食ういつもの店で独り焼き鳥を食っていると、おれの背後の座敷席で忘年会をやっているらしい若い連中のひとりが、だしぬけに「メリー・クリトリス!」と叫んだ。何度もなんども叫んでいる。おおお、いかにも関西の田舎の居酒屋だなあ、雰囲気出てるなあ、ご家庭ではちょっと出せん味ですなあと妙に感動した。だけど、これは御教訓カレンダーに送ってもボツだろうなあ。もう少しヒネったほうがいいと思う。いや、ネタをだよ。

【12月24日(火)】
▼間歇日記もただ間歇的なだけではなかなかリアルタイムに追いつかないため、本日より“ワープモード”に入ることにする。というわけで、もうクリスマス・イヴである。イヴだからといって、おれの生活は普段とまったく変わらないが、街はなにやらそわそわしている。そんな街を歩いていて、ふと思いつく――「♪イヴの街にガオー」
 こんなことを言っているから、イヴでも普段とまったく変わらない生活が送れるのであろう。来年も似たようなことを言っているにちがいない。「♪イヴの街に我王」とか「♪イヴの街に真央」とか、まあ、とにかくそんなふうなことをだ。


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