間歇日記

世界Aの始末書


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2003年3月下旬

【3月29日(土)】
▼劇場で観る機会を逸した『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』(監督・脚本:原恵一)がテレビ放映されたので、録画しながら観る。うーむ、面白い。二○○一年の『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』を観たとき、「これだけのものを作ってしまったら、いったい来年以降どうするのだろう?」と思ったものだが、なるほど、こういうふうにしたかー。もろにオトナ狙いするのは、子供向け映画としてはちょっと反則技だもんな。『オトナ帝国』に引き続いて、ヒロイン格の声は小林愛がやっている。いや、おれ、けっこう個人的にあの声好きなんだよ。美声じゃないけど、ちょっとハスキーで鼻にかかったところが魅力的だよね。「義によって助太刀いたすーっ!」と、野原家のボロ小型車が合戦場に突っ込んでゆくシーンにはウケたウケた。笑えて泣ける。“クレしん”が持つ、強靭な日常性が非日常的舞台でえもいわれぬ異化効果を発揮するという強みが遺憾なく活かされた名場面だと思う。
 この作品、すでにみなさまご存じのとおり、文化庁第六回メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞してしまった。ウェブで報を見たとき、おれはなんともフクザツな気持ちになった。『クレヨンしんちゃん』を「子供に見せたくない番組」としていつもいつも上位に挙げているPTAの方々の苦々しい顔を思い浮かべると気味がよいのはたしかだし、筒井康隆が勲章をもらったくらいには嬉しいのもたしかだ。が、『クレヨンしんちゃん』ファンとしては、ちゃんと迫害してくれなくちゃ困るじゃないかという気持ちもある。『嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』を今回観たかぎりでは、メディア芸術祭とやらの大賞のレベルがこれくらいだということなら、一九九八年の『クレヨンしんちゃん 電撃!ブタのヒヅメ大作戦』でとっくに受賞しているべきではないか、と義憤すら湧き起こってきた。『オトナ帝国』も大賞だろう。どうも国が出す賞というのは、いつも中途半端で気色が悪い。
 マジな話、“クレしん”の映画は、海外に出すべきだよな。もう出してるんだろうか? アメリカで上映したら、アメリカ人の目が節穴でないかぎりは、アカデミー賞にノミネートくらいはされると思うんだが……。映像技術と音楽ばっかりのしょーもない映画には十分勝てると思うぞ。とくに『アッパレ!戦国大合戦』なら、連中にとってはひときわエキゾチックで、連中の東洋文化趣味に訴える。映画は脚本が命、低予算でもここまでやれるとハリウッドに見せてやれ。しんちゃんが尻出して走りまわるのを、アメリカ人のガキどもに真似させてやれ。尻出した時点でアウトかねえ? してみると、日本というのはじつに自由で文化的な国ではあるね。

【3月27日(木)】
▼なんか最近“マイクロミニスカート”とやらが流行っているそうで、脚フェチのおれにとっては明るい話題である。でも、マイクロミニスカートくらいでは二十一世紀らしくない。これからはやっぱり“ナノミニスカート”ですぜ。しかしナノミニスカートともなるとほとんど履いていないのも同じで、“名のみスカート”と呼んだほうが適切かもしれない。

【3月25日(火)】
《ご恵贈御礼》まことにありがとうございます。

『ファントム・ケーブル』
牧野修、角川ホラー文庫)

 おわわ、こないだから、北野勇作小林泰三、牧野修と、関西SF作家の角川ホラー文庫三連発である。♪ホラー、出るしぃ〜、もひとつ、出るし〜(何度も使うネタやな)。
 これも書下ろし一篇を含む短篇集。やっぱりSF専門媒体以外に発表された、おれは読んでない作品がほとんどだ。パラパラとめくってみるだけでも、「ヒトゴロシ」「受信機」「血溜り」「糞便臭」「爛爛爛爛爛爛爛爛爛爛爛爛爛爛爛爛爛爛爛爛」「腫瘍」「腎臓のようなもの」「体液」「痙攣」「剥離」「神様」「外科医」「懲罰」「脳髄」などといったおどろおどろしい言葉が目に飛び込んでくる。「受信機」や「神様」や「外科医」のどこがおどろおどろしいのかと知らん人は言うだろうが、牧野修が「受信機」と書くだけでそこからはなにやらとてつもなくおどろおどろしい匂いが立ち昇るのである。「懲罰」と書くだけでそこからは皮革のようなラバーのような匂いが立ち昇る。重傷になってくると、「牧野修」という文字を見るだけでなにやら厭〜な、それでいて覗かずにはいられない気持ちになるという。わあ、厭やなあ。だが、この厭〜な感じがまたたまらないわけである。

【3月23日(日)】
『仮面ライダー555(ファイズ)』テレビ朝日公式サイト東映公式サイト)、乾巧が免停になっている。“免停の仮面ライダー”ってのは前代未聞、というか、そのレゾン・デートルが脅かされる事態で、たいへん愉快だ。もっとも、ウルトラマンも一度は逮捕されるような時代であるからして、仮面ライダーが免停になったとてさして不思議はなかろう。なんかちがうような。
▼先日来、ブッシュ大統領(現在のアメリカの大統領。昨今アメリカ人には“世界の警視総監”だと思っている人も少なくないようなので、念のため)の傲慢きわまりない演説に腹が立っているので、パロディ演説を作ってみた。アメリカ人に直接厭味が言える媒体をアメリカ人が発明してくれているのは、じつにありがたい。
「ごきぶりホイホイ」のテレビCMをなにげなく観ていてのけぞる。「初代ごきぶりホイホイ・復刻版登場」ってあのなー。復刻版だからどうだというのであろうか。世間の人がみんな町田忍やないんやからね。「おおっ、懐かしい」と買う人がいたりするのだろうか。いや、たしかに懐かしいけどね。子供のころ、あれが出たときには、たいへんな衝撃を受けた。接着剤でゴキブリを捕獲しようとは、コロンブスの卵にもほどがある。大発明だ。感動した。ごきぶりホイホイを組み立てるのは、おれの役目だった。どれくらい獲れているか、中身を確認するのが楽しみでしかたがなかった。いまにして思うが、通販サイトとかでアクセス解析をしている人は、きっとあんな気持ちなのだろうな。
天本英世氏逝去の報をウェブで見て呆然とする。そ、そんなあ……。手塚眞『妖怪天国』の中古ビデオを昨年暮れに観て、「やっぱり、こういう映画には 天本英世は欠かせない」とつい先日(三か月前はつい先日だっ!)日記に書いたばかりではないか。『ウルトラマンコスモス』「雪の扉」を観て、「子供にはちょっともったいないくらいの、なかなかせつない傑作。主演格の天本英世がたいへんいい味を出している」と、去年の夏に絶賛したばかりではないか。この人ほど“この役はこの人でなければならない”と思わせる俳優があったであろうか。もっともっと長生きして、怪優・名優ぶりを発揮していただきたかったものである。いやしかしそれにしても、杉浦太陽の犯罪が濡れ衣でよかったことだ。「雪の扉」は、危うく放映され損なうところだったのだぞ。胸を撫で下ろすばかりである。
 天本氏は『仮面ライダー』“死神博士”役を嫌っていたという話を聞いたことはあるが、それでもやっぱりおれとしては、子供のころに「これはこの人にしかできない」と強烈な印象を受けた死神博士役の天本氏にもお礼を言いたい気持ちだ。死神博士は、他のショッカー幹部とは全然格がちがう、存在感がちがう。それが証拠に、さほどオタクでもない堅気の大人と話をしていてショッカーの幹部が話題に上ると(上りませんかそうですか)、ふつうの人はゾル大佐地獄大使ブラック将軍も知らん。ブラック将軍はゲルショッカーでしょうってそこでツッコミを入れているあなたがふつうの人でなんぞあるものか。しかし、死神博士だけは誰でも知っている、憶えている。おれはいまだに、死神博士には、イカデビルなんぞに変身せず、人間の姿のままで仮面ライダーに勝ってほしかったと思っているくらいだ。
 ありがとう、死神博士。ありがとう、怪優・天本英世。おつかれさまでした。


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