「月の力」の意である。太陽神で救世主であるヘーラクレースの聖母である[1]。アルクメーネーはへブライの「月-女性」 almahのギリシア版であった。この月-女性はエルサレムの祭儀において聖王たちを生んだ。この女性の添え名が聖母マリアMaryの添え名になった[2]。アルクメーネーの初期の神話と聖母マリアの後期の神話でよく似ている点があまりにも多いため、どれとどれが符合するかよくわからないほどであった。アルクメーネーの夫は、彼女が神によってみごもらされて子を生むまで、彼女と性的関係を結ぶことを避けた。それがヘーラクレースである。夫婦は旅に出た。「そのためヘーラクレースは両親の出生地とは違う出生地を持つことになった」[3]。ヘーラクレースもまた、イエスと同じように、生贄として死ぬことになる。死後、ヘーラクレースは冥界を訪れ、そこで冥界に堕ちた霊魂を救い、それから天界に昇り、そこで神なる彼の父の体内に入って、再び女神の無原罪の御宿りによって自らを新たに懐妊させたのである。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)
バーバラ・ウォーカーの語義解釈によれば、アルクメーネーは、メネ(mene)という語を含んでいるように、「月の力」を意味する。しかし、グレイヴズは、これを「激しく怒る」とし、これは月の異称のひとつとする(グレイブズ、p.428)。ゼウスとの間にヘーラクレースを、アムピトリュオーンとの間にイーピクレースを生んだとされる。
後継者(タニスト)にまさる権利を聖王にあたえるために、聖王はふつう神の子だということになっている。そして後継者は、その同じ母親に彼女の夫がみごもらせた人間の双生の兄弟だということになっている。そういうわけで、ヘーラクレースはゼウスがアルクメーネ一に生ませた息子であるが、彼の双生の兄弟イーピクレースはおなじアルクメーネーに彼女の夫アムピトリュオーンが生ませた子どもだということになる。これと同じ話が、ラコーニアのディオスクーロイにも、彼らの敵であるメッセーニアのイーダースとリュンケウスの兄弟にもつたえられている。この双生児同士のあいだに完全に対応する調和が存在することは、後継者が聖王の大臣兼参謀長となって、名目的には聖王よりも権力がやや劣る王権のあたらしい発展段階がやってきたことを示している。ポリュデウケースではなく、カストールが戦術の権威であるのも 彼はへーラクレースにさえ戦術を教えている、ということはつまり彼がイーピクレースだということだ イーダースではなく、リュンケウスにするどい眼力がめぐまれているのも、みなそのためである。
しかし両王制度が発達するまでは、後継者は不死とみとめられることもなかったし、死後になって双生の聖王と同じ地位を与えられることもなかった。(グレイヴズ、p.361)