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ヒュペルボレイオス( JUperbovreioV pl. JUperbovreioi)

 北ヨーロッパならびに英国諸島の諸部族を指したギリシア名。文字通りの意味は、「北風の彼方に住む人々」だった。ヒュペルボレイオス人は、星の運行、四季、運命霊魂の再生について驚くべき知識を持っていると考えられていた。彼らがイングランドのストーンへンジのような観測所-神殿を持っていたことが、たぶん、以上のような見解を生む一因になっていたものと思われる。


Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



 「北風(borevaV)の彼方に(uJpevr-)住む人々」の意(ただし、このほかの解釈もある)。アポッローンを崇拝する伝説的な民族。

 アポッローンが生まれた時、ゼウスは彼にデルポイに行くことを命じたが、彼はハクチョウの車に駕してヒュペルボレイオス人の所に行って、しばらく住まった。彼は19年(天体が軌道を一周する期間)ごとに彼らの国に赴き、春分よりプレイアデスの上るまで、毎夜竪琴を弾じ彼らの讃歌に耳を傾けた。アスクレーピオスがゼウスの雷霆に撃たれた復讐にキュクローブスたちを射た矢はヒュペルボレイオス人の都にかくされたが、この国のアバシスAbasisがそれに乗って世界を一週した。レートーは彼らのあいだで育ち、ついでデーロスでアポッローンアルテミスを生んだ。デーロス島の《聖物》もまた彼らの送ったものであるとされ、由来について二説がある。一つはそれが麦藁に包まれて,ヒュペロケーHyperocheとラーオディケーLaodikeなる二人の乙女と付添いの五人の男によってもたらされ、彼女らはデーロスで世を去り、神と祭られたというのである。他は《聖物》が、ヒュペルボレイオス人によって,隣国のスキュテースSkythes人に託され、つぎつぎに多くの民族の手を経てアドリア海岸に着き、エーベイロスのドードーナよりエウボイアのカリュストスXarystosにいたり,島々を通り,最後にテーノスTenos島の住民がデーロスにもたらしたという。またアルゲース(!ArghV)とオーピスOpisなる二人のヒュペルボレイオス人の女が、アポッローンアルテミス出生の時にレートーとエイレイテュイア(Eijleivquia)とともにデーロスに来て、レートーのお産を軽くすべく、エイレイテュイアに供物を捧げたとも伝えられる。

 デルポイの神託の創始者もヒュペルボレイオス人のオーレーン(!Wlhn)で,神託に最初にへクサメトロスhexametrosの律を用いたといい、またケルト人のガラタイGalatai族が神域を掠奪せんとした時、ヒュペルボレイオス人のヒュペロコス(+UpevrocoV)とラーオドコス(LaovdokoV)の二人の武者の姿が現れて敵を驚かした。ただしこの二人の名は、ラーオディケー(Laodivkh)とラーオドコス(LaovdokoV)は多少は異なるが、上記の二人の乙女の男性形である。ヒュペルボレイオス人はペルセウスへ−ラクレースの物語にも関係があり、後代では彼らの国土は一種の理想郷となり、彼らは不足不自由なく幸福に暮し、老年に至ると花冠を頭にいただいて、断崖より海に身を投じたと考えられるにいたった。さらに彼らは魔力を有し、空中を飛行し、地中の財宝を発見する力を有していた。ピュータゴラース(PuqagovraV)はヒュペルボレイオスのアポッローンの化身とされた。(高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』)