「聖なる求婚」の意。すなわち、聖なる結婚を表す。ミュケナイの母権制下の最後の女王で、息子のオレステースに殺された。オレステースは父権制の神アポッローンの崇拝者であった。クリュタイムネーストラーは、自分の夫は自分で選んで、新しい夫に前の夫を殺させるという、昔ながらの女王の権利を主張した。それで、夫のアガメムノーンAgamemnonを彼女の最後の愛人であるアイギストスAigisthos(「強いヤギ(goat strength)」 の意)に殺させようとした[1]。
アイギストスは聖王になるための神話上の条件は立派に具えていた。近親相姦によって生まれた者であったし、母親のペロペイアPelopeiaはクリュタイムネーストラーの部族の女神であった。そして幼児のときに、野に棄てられて助けられ、ゼウスその人と同じように、雌ヤギに養われた[2]。このようにしてアイギストスはこの世で神となる資格は充分にあったのである。
オレステースが母と愛人のアイギストスを殺したことによって、アイギストスは神とはならなかった。そのときオレステースは、母殺しをするために、毒気のこもった罪深い呪いが自分の身にかかるように願った。復讐の三女神がオレステースを追ったが、アポッローンが、母親であるということがそのまま親であることにはならないと言って、オレステースを守った。「母親というものは、その子と呼ばれる者の親ではなくて、蒔いたばかりの種子が成長するように養育する者にすぎない。親というのは女性の上にまたがる男性である」[3]〔アイスキュロス『慈みの女神たち』658-666を参照せよ〕。アポッローンは親というものをこのように考えたが、こうした考え方はキリスト教の考え方でもあって、それは1827年までも続いたのであった。その年、カール・フォン・ベーアが初めて人間の卵子を発見した。それは精子と比べると、大きさもずっと巨大で、そして複雑なものであるとわかった。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)