黒い羽毛に包まれたワタリガラスは、死の神々にふさわしいトーテム鳥であった。「死の王」の多くはワタリガラスの姿に化身した。チェクチ族(シベリア北東部に居住した古代アジア人)のシャーマンは、彼らの祖先である、供犠として去勢され殺された呪術師-王を「オオガラス」と呼んだ[1]。デンマーク人は、冥界において王であったヴァルラヴェンについて語っている。冥界の女王ヘルの息子であり、また夫でもある彼は、ときには王モルヴラン(「海のワタリガラス」)として擬人化された[2]。
ヴァルキューレは殺された戦士の血を飲むためにワタリガラスの姿をとることができた。北欧の宮廷詩人がちのことを「ワタリガラスの飲み物」と呼ぶのはこのような理由からである[3]。霊魂導師であるヴァルキューレのように、ワタリガラスは、オルペウス教の入信者が死と再生を模した儀式を受けるために神殿に入るとき、その肩にとまると考えられた[4]。ミトラ教の秘儀によると、入信者は啓示の第1段階に到達したとき、「ワタリガラス」という添え名を受けたという。これは、死者を受け入れ世話する月女神の領域である、天界の月の級に昇ることに相当した[5]。
ゲルマン民族の伝承において、ワタリガラスの表す死と再生のシンボルは、変わることなく保持されており、そのため「再臨」を待たれるゲルマン民族の新しい英雄、皇帝フリードリッヒは、冥界の聖所において眠りつつ自らが地上に帰る日を待つ間、ワタリガラスに守られていると言われた。アルメニアに伝わる物語によると、皇帝は今もなお「ワタリガラスの岩」と呼ばれる魔法の丘の下で眠っているという[6]。妖精の物語では、ワタリガラスはしばしば英雄を神秘的な地下の場所に導き、そして再び連れ出す、あるいは死後の世界に関する情報を与える霊魂鳥となる。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)