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Crow(カラス)

corone.jpg  ハゲワシ vultureワタリガラス ravenとともに、腐肉を食べるカラスは、北欧では、の女神のシンボルとして共通していた。ヴァルハラの魔女たちは、ときに、人間を食べる女性とされることもあったが、トーテムではワタリガラスやカラスの姿になることが多かった[1]

 英国とデンマークの神話には、クラケKrake(=カラス)という名前の魔女が出てくる。それはヴァルキューレのブリュンヒルデの娘であった。クラケは変身をよくして、美しい乙女になるかと思うと、老婆や怪物やカラスになることもあった。彼女はデンマークの王ラグナル・ロドブロク(皮の半ズボン)と結婚して、英雄シグルドを生んだ[2]。シグルドとはジークフリートと同一人物で、彼の神秘の恋人はヴアルキューレのブリュンヒルデであった。それは最古の時代の聖王権神話にある、あの複雑な近親相姦的関係であった。そこでまた。三相一体の女神が、ラグナルとクラケの間にできた3人の予言能力のある娘たちとして、復活したのであった。この3人の娘たちは運命を織る娘たちで、ワタリガラスと呼ばれる魔法の旗を作った[3]

  ある神話にはクラケンなる者が出てきて、海と関係があり、ヘビ、または、海の怪物として描かれている。しかし、この人物も同じの女神にすぎない者であった、古いバラッドに出てくる3羽のワタリガラス(クラケン)は、殺された英雄の死体の上にとまる運命であった。『 2羽のカラス』というバラッドにあるように、ときには、2羽しかいないときもあった。このカラスたちは、殺された騎士から美しい青いをつっつき出そうとした[4]

 このように女神をカラスとするようになったのは、コロニス(=カラス)との関連からであったと思われる。コロニスはへレニック以前の大地女神レアーの相を表す女神であった。ギリシア・ローマ神話の編纂者たちはコロニスを無視する傾向があって、コロニスと言えば、ただ、治癒神アスクレピオスの処女母(virgin mother)とするだけであった。しかし、コロニスは、乙女と老婆が組み合わさった女神たちの1人、すなわち、万物をにいたらしめる母親-時としてのレア・クロニアであったと思われる[5]


[1]Woods, 156.
[2]Guerber, L. M. A., 274-75.
[3]Turville-Petre, 59.
[4]Sargent & Kittredge, 45.
[5]Graves, G. M. 1, 175. ; 2, 387

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



一般〕 数多くの民族の習慣や信仰の比較研究から、カラスの象徴的意味を純粋に否定的側面においてのみとらえるのは、最近になってからのことで、しかもそれはヨーロッパに限定されていることがほぼ判明している。確かに、夢の中ではカラスは不幸を恐れる気持ちと結びつき、凶兆の表象とされる。それは死者の肉を食らおうと戦場の上を舞うロマン派の黒い鳥である。しかしこの意味は、繰り返すが、新しく、非常に地域的らしいのである。もちろんインドでもカラスにこの意味はある。『マハーバーラタ』がカラスをの使いにたとえている。たぶんラオスにもあり、そこではカラスが汚した水は儀式の聖水として使うにはふさわしくないとされる。しかしながら東洋でも西洋でもほとんどどこにおいても、カラスのシンボリズムの基礎にあるのはその肯定的な力なのである。

極東・象徴〕 たとえば、中国や日本では、カラスは〈親への感謝の心〉のシンボルである。カラスが父母を養っていれば、それは社会秩序が見事に回復をする兆しであると漢の人々は考えた。さらに日本では、カラスは家族愛を表現する。日本の子供は小学校でこう歌う。

「カラスなぜ鳴くの、
カラスは山に
可愛い7つの子があるからよ、
かわい、かわいと、
カラスは鳴くの、
かわい、かわいと鳴くんだよ」

 これも日本であるが、カラスはまた神の使いである。そして周の人々には吉兆の、勝利の予告、美徳のしるしであった。それは、本当に、太陽の色、赤色のカラスであった。カラスは中国では太陽のなのである。10羽のカラスが〈世界に光〉をもたらすために東方のクワの木から飛び立ったとされるが、この部分が日本の〈神道〉に伝わったらしい。これらのカラスのうち9羽を、しかし、弓の名人、ゲイが射落とした。それがなければ、世界は燃えてしまっていただろう。

 漢の時代の石碑を見ると3本足のカラスが太陽の真ん中にいる。それは太陽を活動させる原理、たぶん、〈陽〉、奇数の表現である(MYTF)。中国皇帝のエンブレムであるこのカラスの3本足は、3脚台と同じように、太陽の象徴表示であって、日の出、天頂、夕暮れに相当する。

聖書〕 『創世記』8、7では〈炯眼〉のシンボルで、大洪水のあと、大地が水上にまた姿を現し始めたかどうか確かめに行くのはカラスである。「40日たって、ノアは自分が造った方舟の窓を開き、カラスを放した。カラスは飛び立ったが、地上の水が乾くのを待って出たり入ったりした」。

ギリシア〕 ギリシアでアポッローンに捧げられたカラスはやはり太陽的である。ストラボーンによれば、デルポイオムパロスの場所を定めたのはカラスたちである。しかしビンダロスによればワシ、プルータルコスによるとハクチョウである。少なくともこれらの3種のには神の使いの役をし、〈予言者的な機能〉を果たすという共通点がある。カラスはミトラ神の象徴でもあった。不運を遠ざける力があるとされていた。

ケルト〕 カラスは非常によくケルトの伝説に登場し、予言者の役を演ずる。偽プルータルコスは当然ガリアの伝承にのっとり、リヨン、すなわち〈ルグドゥヌム〉の名を「ルフ(Lug)の丘」でなく、「カラスの丘」と解釈した。なぜならカラスたちの飛翔が都市が築かれるべき場所を示したといわれるからである。アイルランドでは、戦争の女神、ボズブはカラスと呼ばれる。他方、カラスは「プライドゥイト・ロナブイ(ロナブイの夢)」という題のガリアの物語で重要な役を演じている。オウェイン王のカラスたちはアーサーの兵士たちに殺戟されたあと、激しく反撃し今度はその兵士たちをずたずたにするのである。カラスはまた民間伝承でも非常に重視されている(LERD、58)。ガリア人の間ではカラスは聖なる動物であった。ゲルマンの神話ではカラスはウオータン神ので、そのお供であった。

北欧・神話〕 スカンジナヴィアの神話では2羽のカラスがオーディンの玉座にとまっている。1羽はフギン、考えで、もう1羽はムニン、記憶である。2頭のオオカミも神の近くにいる。2羽のカラスは〈創造の原理〉を、2匹のオオカミは破壊の原理を表す(MYTF、148)。

北米・神話〕 「インディアンのトリンギット族(太平洋北西岸)では中心的神像はカラスである。それは世界を造る、より正確には世界を組織し、各地に文化文明を広め、太陽を創造して自由にしたりなどする英雄、原初の〈造化の神〉である」(ELIT、59)。カラスは世界にダイナミックで組織力を持つ構成要素を付け加える。

「北アメリカでは、《天空の至高存在》は一般的に雷鳴と風の神話的化身と融合し、大きな烏(カラスなど)として表される傾向を持つ。翼の一撃でカラスは風を起こし、その舌は稲妻である」(同書)。

 マンダン族の春の祭りで、〈再生〉を前触れし、「洪水の終わり」を記念する「最初の人間」は、裸の体を白く塗り、肩に白オオカミの皮4枚で作ったケープをかけ、頭の上に2羽のカラスの剥製を乗せる(LEVC)。

中米・神話〕 雷鳴と雷の神の使いであるカラスはマヤでも見られる(『ポポル・ヴフ』)。

アフリカ〕 案内と守護霊の役がブラック・アフリカではカラスにあてられていることが確認されている。コンゴのリクバ族、リクワラ族はカラスを「人間を脅かす危険を知らせる烏」とみなしている(LEBM)。

ローマ・象徴〕 カラスはまた孤独の、というよりむしろ、高次元で生きようと決意した者の〈意図的な孤立〉のシンボルである。カラスは希望の象徴でもある。なぜならスエトニウス(古代ローマの伝記作家)によるとカラスはいつも、クラ、クラ、すなわち明日、明日と繰り返すからである(ラテン語で「明日」はcras)(TERS、111)。

霊魂導師〕 このように、このに対する信仰の大部分でカラスは太陽的英雄として現れ、しばしば創造者あるいは神の使いとされる。いずれにせよカラスは案内者である。霊魂導師としてたがうことなく闇の秘密を見抜くものともされるので、現世のみならず、の最後の旅の案内者でさえある。カラスのこの肯定的側面は遊牧民、狩猟民、漁民の信仰と結ばれており、定住化 と農業の発展に伴ってカラスは否定的になっていくように思える。

錬金術〕 錬金術師は腐敗の過程と「黒の段階の材料」をカラスに結びつけた。彼 らは後者を〈カラスの頭〉と呼ぶ。この頭は「ライ」病で、「ヨルダン川の水で7度洗って」白くしなければならない。それは材料の湿潤、蒸留、精留、あるいは温浸であり、火の作用のみを受け、自然に起こる。したがって、古い錬金術の論文の図版に黒い家禽があれほど頻繁に現れるのには根拠があるのである(PERD)。(『世界シンボル大事典』)


 ギリシア語では"korwvnh"〔ハシボソガラス〕と言い、corvus corone(上図)と同定されている〔アリストテレース『動物誌』、島崎三郎の訳註〕。
 なお、ワタリガラスは"kovrax"(corvus corax)である。