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テューポーン(TufwvnまたはテュポーエウスTufweuvV)

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 エジプトのロバ神セトのギリシア名。セ卜の息は疫病(発疹チフス)をもたらすと考えられていた熱風であった。この名称は全アジア的広がりをもち、中国ではt'ai fung、アラビアではtufan、東南アジアではtyphoonであった。この風の神はおそらくヴェーダのロバ神ラーヴァナに由来するものであったろう。すべての古代世界では、疫病をもたらす砂漠の熱風は「ロバの息」と呼ばれていた。 point.gifAss.


Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



 神々がギガース(巨人)たちを征服した時、ガイアが怒ってタルタロスと交わり、キリキアで生んだ人と獣との混合体である巨大な怪物。しかし彼の生まれについては奇妙な別の所伝がある。

 ガイアはギガースたちの敗北を見て、ヘーラーゼウスが彼女に対して忠実でない行為があると告げたので、ヘーラークロノスに復讐の方法を求めた。クロノスは彼女に自分の精液を塗った2つのを与え、そこからゼウスを打倒するカのある怪物テューポーンが生れた。
 またヘーラーは男性のカをかりないで、独りでテューボーンを生み、大蛇のピュートーンに育てさせたとの伝えもある。

 いずれにせよ彼はそのカと大きさでなにものにも優り、すべての山よりも高く、頭は星を摩し、手は一方に延ばすと西に、他方は東にとどき、百の竜の頭が肩から出ていた。腿までは人間で、その下は巨大な毒蛇がとぐろを巻いた形で、それを延ばすと自分の頭に達し、シュウシュウと大音を発した。全身に羽が生え、頭と頤からは乱髪が風になびき、眼から火を放った。

 彼は火のついた岩を投げつつ天へと突進した。神々はこれを見て、エジプトに逃げ、追われて姿を動物に変えた。ゼウスは遠方からは雷霆を放ち、近づいては金剛の鎌で打ち、逃げるをシリアのカシオス山まで追って行った。そこで痛手を負っている彼と組み合った。テューポーンはとぐろを巻いてゼウスをつかみ、鎌を奪って手と足の腱を切り取り、両肩にかついで海を渡り、キリキアに運び、コーリュキオンの洞窟に押し籠めた。同じく腱も熊の皮に隠してしまいこみ、番人として竜女デルピュネーをおいた。

 しかし、ヘルメースパーンが腱を盗み出してゼウスに秘かにつけた。ゼウスはふたたび本来の力を得て、空から有翼の馬にひかれた戦車に駕して、雷霆を放ちつつテューポーンをニューサNysaの山まで追った。怪物はそこでモイラたちにあざむかれて、無常の果実を食った。追われてトラーキアに来て、ハイモスHaimos山で戦闘中に全山脈を持ち上げたが、山が雷霆に撃たれて彼の上に圧しつけられたので、多量の血がほとばしり出た。この故事よりこの山はハイモス(ハイマ haima《血》)と名づけられたという。

 シシリアの海を越えて遁走中ゼウスはエトナ山を彼の上に投げつけて、彼をおしつぶした。それ以来投げられた雷霆から火が噴出しているのであると。テューボーンはエキドナと交わってオルトロス、レルネーのヒュドラー、キマイラなどの怪物の父となった。(『ギリシア・ローマ・神話辞典』)

 テューポーンという名称が「全アジア的広がりをも」つことの根拠として、バーバラウォーカーが挙げるのはEncyclopaedia Britanica.の第3版(1970)の「Typhoon」の項目の記述であるが、以後の版ではこの項目は削除されている。「Typhoon」と「Typhon」との語源が同じとする主張の信じがたいことについては、「Ass」の註を見よ。