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レウキッペー(Leukivpph)

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 「白い雌馬」の意。クレータ島の-女神で、おそらくヒンズー教のサラニューSaranyuから派生したと思われる。英国人はこの-女神エポナEponaと呼んだ。

 ミケーネでは、雌馬の頭を持ったデーメーテールDemeterは、「生」を表す白い雌馬のレウキッペーであると同時に、「」を表す黒い雌馬のメラニッペーMelanivpphでもあった。レウキッペーに仕えた聖職者たちは、去勢され、巫女の姿をまねして女装していた[1]
 point.gifHorse.


[1]Gaster, 316 : Graves, W. G., 425.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)

[画像出典]
Demeter drives her horse-drawn chariot containing her daughter Persephone-Kore at Selinunte,
Sicily 6th century BC



 ヨーロッパでは、動物を穀物霊の化身とみる。オオカミまたはイヌ、雄鶏、野兎、猫、ヤギ、牛、馬、豚が多い(フレイザーIII・240-72)。それは家畜と、人間に化ける獣である。馬を穀物霊とする信仰は、ドイツやイギリスにあった。リールあたりでは、馬の形の穀物霊が麦畑に住むという。最初に刈り取った束は農場で一番若い馬に踏ませる。最後の束は、教区内で一番若い馬に食べさせる。若い馬は、古い穀物馬をのみこんで、来年の穀物馬になるのだという(同・264)。イングランド東南部のハートゥフォードシャーでは、最後に刈り取る麦の束を「雌馬」と呼ぶ。馬の形の穀物霊は、刈り終わった農場から刈り残っている農場に移動するという(同・263-4)。
 穀物霊の信仰は、他の獣と共通する点が多い。しかし、その中で、馬を選んで信じているのには、それなりの理由があるはずである。古代ギリシアの穀物霊であったデーメーテールも馬の姿をとっていた。近代ヨーロッパの馬の形の穀物霊の信仰も、これと無縁ではあるまい(フレイザ−・III 284)。ことに、魔の狩人として現れるウォーダンの乗馬に食べさせるために、麦の束を刈り残しておくという伝えがあったのをみると、かつて冬至の時期に、穀物霊と魔の狩人が交錯する収穫儀礼が行われていたことが推測される。
 冬至の太陽のごとく、年ごとに死に、そして生まれかわるのは、植物神の特色であった。アマテラスも、太陽の神として、穀物の神として、再生を繰り返していた。その更新にあたり、馬との婚姻が暗示されているところに、古代ユーラシアの神話との色濃い脈絡があった。馬との神聖な婚姻は、古代的な王権儀礼の特徴的な様式であった(吉田・41-52)。(小島瓔禮「馬と豊穣の女神」p.137-38)


 ギリシア神話においては、レウキッペーは次の者らの名前となっている。
1)オ一ケアノスの娘の一人。
2)トロイア王ラーオメドーンの妻。ただし異説が多い。
3)テスティオス王の妻。イーピクロスの母。
4)テストールの娘。カルカースの姉妹。
5)エウリュステウスの母。