聖書は「7枚のヴェールの踊り」を、「ヘロデを喜ばせる」ためのサロメが行った単なる下品なストリップショートして表している(『マタイによる福音書』第14章6-8節)。実際は「7枚のヴェールの踊り」は、「身代わり王」の死、彼の冥界下り、女神による復活を描き、奉納劇に不可欠の場面であった。女神は7つの冥界の門のそれぞれで、彼女の7枚の衣装を1枚ずつ取り去ってゆく。サロメすなわち「平安」(Shalom)と呼ばれる巫女は、「平安の家」を意味するエルサレムの神殿にあった7つの門を通って、冥界に下りてゆく女神の化身であった。
「ヨセフス(37?-100。ユダヤの歴史家)は、エルサレムの最初の名はソリマ、サルマあるいはサリムであり、明らかにセム族の昇りゆく太陽、すなわち再生した太陽神の名である。エーゲ海の女神はサルマオネで、セム族の太陽神の添え名はこの女神に由来する。アイオリス人サルモーネウスもまた同様である、と記している」[1]。
サロメは、3人の女大祭司(マリアたち)の第3の者(「破壊者」)としての、イシュタルを表した。サロメの名は、ギリシアのエイレーネー(「平安」、ホーラたちと呼ばれる聖娼たちの第3の者)の訳語であった[2]。彼女はまた聖娼マグダラのマリア、すなわち「神殿のマリア」と同一視してよいかもしれない。サロメのいわゆる「7人の悪魔」は、神殿の踊り手たちがそのヴェールを与えた冥界の門番たちのことであった。これらのヴェールは、女神マーヤーの虹のヴェールと同様に、深淵の中心の神秘に近づいた者から次々と剥落していく、地上での外観あるいは幻影の層を意味した。アセト〔イーシス〕もまた同様の神秘的な意味のある7枚のストールを持っていた[3]。
踊る巫女は単なる接待者ではなかった。サロメの夫ヨセフは、王妃マリアンヌ、あるいはミリアム(マリア)と床を共にしたのちに殺された[4]。サロメはイエス誕生のときに聖母マリア 上述のミリアムと同一者かもしれない とともにいた。一説では彼女は聖なる子どもを取り上げた産婆であったと言われる[5]。イエスの死のときもサロメは3人のマリアとともその場にいた(『マルコによる福音書』第15章40節)。彼女はまた、明らかに洗礼者ヨハネの死にも関係している。ヨハネは殺されたのではなく、儀式として生贄に供されたものであったのかもしれない。
初期キリスト教の宗派の中のある1派(マンダイズム教徒)はイエスを無視し、真の生贄に供された救世主として、洗礼者ヨハネを崇拝した[6]。初期のギリシアの救世主出現をたたえる頌歌は、エルサレムの母親と子どもたちに「露を結ばせた」(すなわち実を結ばせた)のは洗礼者ヨハネの血であると歌っている[7]。秘儀を授かったエッセネ派の預言者として、ヨハネは「神聖にして触れてはならぬ者」sacerであり、王の身代わりとして死ぬよう「選ばれた」とも考えられる。王の血は大地を豊穣にするために必要であった。ヨハネは斬首されたが、これは初期のエーゲ海およびレヴァント文明地方一帯で行われていた生贄の死の形式であった。今日でも東方の女神の神殿では斬首が行われているが、犠牲者は今は人間ではなく動物である[8]。
現在では断片を残すのみとはいえ、サロメの物語は、エルサレムにタンムーズ-イシュタル祭儀が残存していた証拠を示している。この祭儀においては、生贄が定期的に神の役割を担って死に、女たちは神殿の中で犠牲者を悼んで古い嘆きの声をあげたのであった(『エゼキエル書』第8章14節)。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)