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Willow(ヤナギ)

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 水とヤナギは女神へリケー(「ヤナギ」)の象徴であった。へリケーヘカテーの乙女の相を表すので、ヤナギの細枝で編んだ穀物籠を手にしていた[1]。ヤナギの杖によってミューズは呼び出されたが、ミューズの住む山のまわりはへリコーン川(「ヤナギの小川」)が巡っていた。ディオニューソスの霊杖はのちの魔女の杖と同じくヤナギ材であった。ディオニューソスはかつてエルサレムの主神であったので、ヤナギはこの都の諸儀式でとりわけ重要な役割を演じた。幕屋祭の「大いなる日」は「ヤナギの日」として知られ,火と水を崇拝する儀式が行われた[2]。ヤナギの杖は冥界では身体加護の役目を果たしたが、オルペウスも1本携えていて、それが彼の冥界下りの際に道案内の役を果たした[3]。ヤナギの杖は17世紀になってもの女神に捧げられた(当時の英国のある本草書によれば,にはヤナギが生えている)。

 魔女はヤナギの樹皮を用いてリューマチや熱病を治した。ヤナギの樹皮は,ヘカテーが用いる薬の1つであるサリチル酸(アスピリン)の原料であった。wicca (「魔術」)という言葉はwicker (「ヤナギの小枝細工」)と同一語源の、ヤナギを意味する言葉に由来すると主張するものもいた。魔力を持つネコは、ネコヤナギ、またはヤナギの尾状花序catkinから生まれ、魔女の使い魔であるネコrnalkinとなると考えられた。このことから「ネコはすべて最初は灰色」という諺が生まれた。グレイマルキン(「灰色のネコ」)のように見えるネコヤナギの尾状花序は春の先触れであった。 Cat.



[1]Graves, G. M. 1, 115.
[2]Graves, W. G., 47.
[3]Pepper & Wilcock. 57.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



 オデュッセウスが冥界に下るとき、オーケアノス河のほとりで眼にしたというヤナギ(Od. X. 510)はijteva で、これは white willow (学名 Salix alba)と呼ばれる種である〔画像〕。ギリシア語ではijteva がふつう「ヤナギ」を意味する。
 しかし、アルカディア地方では、ヤナギはヘリケーeJlivkh と呼ばれる。これは、渦巻きのように巻くことを意味するeJlix からの派生語で、この場合のヤナギは crack willow (学名 Salix fragilis)という種である。

一般〕 ヤナギには、保護についての聖なる特性がある。奇跡の誕生に伴うものである。

 スパルタ人によれば、アルテミスは、ヤナギの茂みで見つけられた。エジプト人にとって、ウシル〔オシーリス〕は、同じような特権を享受していた。モーセは、ヤナギで編んだ籠に入れられて、流され、ナイル川で発見された。神の言(ことば)(御言葉)の主要な役割は、西方でも、東方でも、ヤナギと似た方法で象徴化されているようである。ヤナギで編んだ籠は、保護を保証する(ALLA, 58)。

西欧・死と神の法〕 「シダレ」ヤナギは、西欧においては、しばしばと関連づけられる。この木の形態が、悲哀の感情を呼び起こすからである。一方ヘルマスは、そのよく知られた生命力に注目して、神の〈法〉の象徴とみなす。切り取った枝を地面に植えても生き延びるのは、この〈法〉の遵守と関係する。「もし枝を地面に植え、少し水分を与えれば、多くの枝はよみがえる」。その上、「常緑」のヤナギは、聖ベルナルドゥスによって、聖母マリアと関連づけられた。

極東〕 このような解釈は極東におけるヤナギの象徴体系と密接に関連している。実際ヤナギは不死の象徴であり、フリーメーソンのアカシアと同じ位置にある。だからこそ〈天地会〉の支部(ロッジ)の中心 部、つまり三合会のある場所が、〈木楊城〉と呼ばれるのだ。この「城」は、「不死の宿る」ところである。

 チベットでも、ヤナギは、明らかに「中心の」木、生命の木の役割を演じており、ラサの聖域にかつて植えられたヤナギは、どうやらそのような意味を担っているようだ(S・フメル)。

 同様に、ヤナギの枝は、ウイグルの周回の儀式においても枢要な役割を果たしていた。少なくとも好奇心の対象として、次の事実は注目に値する。すなわち、老荘思想の詩人ケイコウ〔223-262、竹林の七賢人のひとり〕は、自分の中庭の真ん中に植えられたヤナギの下で鍛冶をした。ところで鍛冶は天との交流の象徴的手段なのである。また神話的人物の墳墓がヤナギの下に置かれるのは、これまたその意味を疑いようがない。老子は瞑想するするためにやはりヤナギの陰にいることを好んだ。

 ときとしてヤナギは、〈観世音菩薩〉の表徴として用いられる。これは子宝を授ける仏であり、その点で中国において対応する女性の形である観音と区別されない。

 それとは逆の形で、〈男性の〉ヤナギがあり、果実をつけないからだが、このヤナギは純粋の象徴である。さらに指摘しておくと、ヤナギの枝の動きは形態の優雅と上品のイメージである。この比較は女性の肉体の描写において常套手段になっている(GUET、HUMU、LECC、MASR、MAST、SOUD)。

 〔北米・インディアン〕 北米大草原のインディアンの場合も、ヤナギは聖なる木で あって、周期的再生の象徴である。
「《鳥》がもたらした小枝は、ヤナギの枝で、葉がついていた」(CATI, 46)。

ロシア〕 これとは逆にロシアの西部では、「ヤナギを植える者は自分の墓穴用のシャベルを準備することになる」といわれる(DALP)。ただしヤナギが告げるが不死への移行を意味するのかどうか明らかではない。ヤナギが不死を象徴する地域もあるのだが。
 (『世界シンボル大事典』)