間歇日記

世界Aの始末書


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2004年6月中旬

【6月20日(日)】
▼おれはズボラなので、金曜日の夜から月曜日の朝にかけて、つまり、休みのあいだは、ずっと布団を敷きっぱなしにしている。布団の下にはおなじみ「エアロスペースベッド」が敷いてある。このエアロスペースベッド、買ってからかれこれ二年になるため、さすがに最近少しへたってきて、ひとりでにどこからともなく空気が抜けてゆくのが最初のころに比べてかなり速くなっている。ところが、今日の夕方ころから、空気が漏れるのがあきらかに遅い。それどころか、幾分硬くなってきているくらいだ。おお、そうか、台風が迫ってきているからにちがいない。気圧が下がってくるから、風船ベッドがおのずと膨らもうとしているのだ。えらいもんである。あたりまえといえばあたりまえだが、このように、生活の中でちょっとした“りかじっけん”風の現象に触れると、なんだか嬉しくなる。
 以前にも書いたように、おれは台風が大好きである。いやまあ、台風の中を手前が会社に出かけてゆくことを思うとうんざりするんだけれども、台風がやってくるというそのこと自体には、いまだになにやらわくわくしてしまう。
 おっと、しかし、わくわくしてばかりいるわけにもいかない。風船ベッドに如実な変化が現われるように、台風がやってくると、本の山にも無視できない変化が現われる。湿度の急激な変動で、積んである本があちこちで倒壊したりするのである。ちと、脆弱な部分をチェックしておかねばいかんな。
高野史緒さんの日記(2004年6月20日)を読んでいて、またとんでもない映画が作られているのを知る。『いかレスラー』(原作・監督:河崎実/監修:実相寺昭雄)って、あのね、あなた……。以前あちこちで話題になった『えびボクサー』(監督・脚本:マーク・ロック/[amazon])に文字どおり闘志を燃やした映画人がいるものと見える。おれはまだ『えびボクサー』も観たことないですけどね。かの実相寺昭雄が監修とは、イカがなものか。『いかレスラー』ねえ……。北野勇作田中啓文の影響は、もはや映画界にも及びつつあるのだろうか。どうでもいいけどこの「いかレスラー」、おれにはバイラスに見えてしかたないんだが、そう思いませんか、そこのおじさん、おばさん?
 ま、それはともかく、これくらいで驚き呆れていてはイカんのかもしれん。こうしているあいだにも、どこかで誰かが『かにゴルファー』やら『たこハスラー』やらの企画を胸に、爪だか吸盤だかを砥いでいるやもしれないのだ。

【6月12日(土)】
『土曜ワイド劇場』(テレビ朝日系)なるものを、ひっさびさに頭からお尻まで観た。観ただけではない、しっかり録画までした。なんのことはない、葉月里緒奈が出るからである。葉月里緒奈の公式サイトに四月から予告が出ていたドラマだ。新聞のテレビ欄によれば、「華麗なる復讐・美人妻を襲う完全犯罪の罠 フラワーデザイナー、女たちの熱い闘い…夫の形見が真犯人をあぶりだす」(監督:齋藤光正/脚本:野依美幸)という、おなじみ『土曜ワイド劇場』フォーマットのものすごいタイトル。新聞だからこうなんで、実際に画面に出たのは「華麗なる復讐・美人妻を襲う完全犯罪の罠」までである。ま、「美人妻」「完全犯罪の罠」あたりは、もはや二時間ドラマのお約束だから、これくらいで辟易していてはいかん。ちなみに、葉月里緒奈がいわゆる“二時間ドラマ”で主演するのは初めてのことである。ちょっと意外だ。そりゃまあ、撮影がタイトな二時間ドラマで、途中で降板されては困るから葉月里緒奈を使うのはかなり度胸が要りそうだからなって、そういう理由かどうかは知らないが、こういうどっちかというとミーハーな枠にもちゃんと出てきちんと演じる心意気やよし、なんか一皮剥けたようでけっこうなことである。
 スポーツ報知「再婚後初独占インタビュー」によれば、はからずも妊婦役の今回のドラマを撮ってたときにすでに妊娠してたのだが、まだ妊娠を知らずに撮ってたのだそうだ。なにはともあれ、引退はしないみたいなので、ひと安心である。
 いやしかし、いいですな。ドラマそのものはミステリとしてはイマイチだったが、なんであれ、葉月里緒奈が出ているドラマは、おれにとってはいいドラマである。今年で二十九歳になる葉月里緒奈、いよいよよくなってきている。やっぱり、女は三十からだよなあ。ほとんど黒で固めたファッションもよろしい。葉月里緒奈には黒、これ常識。幼児体型と言ってしまえばそれまでだが、黒を着ると、その中性的な体型がビシッと締まってよい。もう、今日の日記はめちゃくちゃだ。批評眼もへったくれもない。ただただ、ミーハーに徹する。ゆけ、葉月里緒奈! 二時間ドラマにもばんばん出たんさい! 世界は葉月を待っている。世界は里緒奈を待っている。ゴー、ゴー! そしていつの日か《女囚さそり》を演ってくれ
《ご恵贈御礼》まことにありがとうございます。

『蹴りたい田中』
田中啓文、ハヤカワ文庫JA)
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『復活の地 I』
小川一水、ハヤカワ文庫JA)
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 『蹴りたい田中』は、いわずと知れた、かの「茶川賞受賞作」であり、腰巻にもそう大書してある。「41歳の瑞々しい感性が描く青春群像」なのだそうだ。そういえば、むかし川上弘美が茶川、じゃない、芥川賞を受賞したとき、おれにも「鉈を踏む」という傑作のタイトルだけが天啓のごとくに降ってきたものである。いつ中身が書けるかはわからないのだが、なにやらとても痛い話になりそうな文学的な方向性だけは、田中啓文と同い年であるおれの瑞々しい感性がはっきりと捉えてはいる。それにしても、踏まれたりピアスをされたり、蛇もとんだ災難である。
 というわけで、本書は『銀河帝国の弘法も筆の誤り』(ハヤカワ文庫JA/[bk1][amazon])に劣るとも優らぬ、思いきり遊び倒したふざけた造りの本である。ふざけた造りの本ではあるけれども、そのような表層的なことに目を曇らされてはならない。けっして収録されている作品までがふざけているわけでは……あるかもしれんが、むろんそれは、田中啓文的にはたいへんまともな、ちゃんとした作品ばかりだということであって、読者の期待を裏切るものではないのである。『銀河帝国……』のときもそうだったが、一緒になってふざけている面々がこれまた豪華で、北野勇作、浅倉久志、山岸真、山田正紀、恩田陸、月亭八天、塩澤快浩、大森望×豊崎由美、菅浩江と、まあ、中には田中啓文に匹敵する“いちびり”として知られる人もいないではないが、浅倉久志、山田正紀などという大御所の名前には、正直、われとわが目を疑った。まったくSFの人はちゃんとふざけるのが好きである。
 文藝春秋もしくは河出書房新社早川書房周知表示混同惹起行為で訴えてくれれば、田中啓文および早川書房は笑いが止まらないにちがいないのだが、形だけ訴えてみて一緒に遊んでくれるほど文藝春秋も河出書房新社も暇じゃないだろうなあ。
 『復活の地 I』は、作者のウェブページの表現によると、「国家災害SF」だということだ。世代的なものもあるのだろうが、おれは世界が滅ぶSFが好きである。そういうものを好んで読み、観て育ってきた。冷戦構造的なものが、抜きがたくおれの核にある。ところが、八○年代あたりから、世界が滅ぶ過程を描くのではなく、一度滅びたことを前提になんでもありの未来を設定する話が増えた。いきなり未来に跳ぶのである。そんなふうに思い返すと、一度滅びた世界が復興・再生する過程を描く作品は少なかったような気がする。いや、もちろんあるにはありましたけどね、なんか地味な扱いで、破滅ものや破滅後未来ものに比べてあまり目立たないように思うんだよね。
 小川一水がそんなふうに思ったのかどうかはさだかでないが、この作品、腰巻やアオリを読むかぎりでは、一度滅びに瀕した国家が再興する過程に重点が置かれているもののようだ。ま、タイトルにしてからがそうなのだが、意識しているであろう古典『復活の日』小松左京/ハルキ文庫/[bk1][amazon])は、復活するところまでで復興するところは想像に委ねてますからね。
 いま、“世界の滅びと復活”ではなく、“国家の災害と復興”をテーマにするということは、おのずと現実のあんなことやらこんなことやらが重層的に影を落とすことになるだろうから、相当の覚悟と意気込みが必要だと思うのだ。なんであれ、創ってゆく・創られてゆく過程を描くのが得意な小川一水が、今回はどういう藝を見せてくれるのか、滅びの世代(?)の読者として大いに期待している。

【6月11日(金)】
「名前に使える人名用漢字を一度に578字も増やす見直し案が11日公表された」とのこと。この「〈追加される主な人名用漢字(案)〉――芭、庵、撫、蹴、鷲、桔、梗、牙、駕、芯、榎、湊、舵、柑、雫、檎、煌、遥、苺、琥、珀、萠、惺、禮、榮、驍、潰、疹、呆、癌、呪、淫、姦、怨、怯、溺、糞、厭、妾、蔑、垢、罵、屍、痔、骸」ってのを眺めていると、なーんとなく伝奇バイオレンス風のタイトルがいくつか浮かんでしまったりする。「魔」とか「邪」とかを並べると完璧だ。「魔」や「邪」は、すでに名前に使えるんでしょうな。
 あちこちで同じこと書いてる人がきっといるだろうが、「呪怨」ちゃんなんて子供が出現しそうな予感がしないでもない。「悪魔」クンはダメでも、「破呪怨」とかいった名前なら、縁起がよさそうで受理してもらえるかもしれんよな。「呪怨怒」(ジュオンヌ)なんてのはダメ?


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