「力強い月の男」の意で、ラピテース族(「石の武器を振るう者たち」)の聖王。イクシーオーンは、「天空の女神」ディアと結婚し、そのあとで、火焔の車輪に大の字に縛りつけられて死んだ。この火焔の車輪は、天空を永遠に回り続ける太陽を象徴していた。古代ギリシアの神話では、とのような形でイクシーオーンが死んだのは、ゼウスに反抗した罪を罰せられたためと解釈された。しかし、この物語は元来が聖王の供犠にまつわるものだったのであり、「太陽が天におけるその最高点に到達したため、今や再び下降せざるをえないことを示すしるしとして、ヨーロッパにおける夏至の祭りの際に、丘の斜面を転げ落とされたあの炎に包まれた車輪」と関連があった[1]。
イクシーオーンIxionという名は、axis(軸)と同族であり、「世界軸」 akshaの体現者シヴァから流出して生まれたヒンズー教のアクシヴァンと同類だった[2]。したがってイクシーオーンは、宇宙の中心、すなわち、「世界軸」axis mundiの所で、供犠の死を遂げた男神たちの一員だったのである。のちに、この「世界軸」は、キリストの十字架に吸収同化された。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)
イクシーオーンの名前は、イスキュスijscuvV(「強さ」)とイーオー(「月」)の組みあわせからできているわけだが、同時にイクソスijxovV(「ヤドリギ」)の意味も考えられる。ヤドリギの男根をもった樫の木の王として、雷電の神を象徴する彼は、雨をもたらす月の女神と祭式によって結婚した。ついで彼の血と精液が大地をみのらすように、鞭うたれ、斧で首をはねられ、去勢され、手足をひろげて木にしばりつけられ、最後に火あぶりにされた。そのあとで、彼の親族たちが聖餐として彼の肉を食ったのである。(グレイヴズ、p.300)