「女主人」または「女性」の意で、 女神ラ卜 の別名。レーダーは「世界卵」を生み、その卵から、「明けの明星」と「宵の明星」に相当するカストールとポリュデウケース〔ラテン名ポルクス〕の兄弟、地上における月の女神の化身へレネー、更には、クリュタイムネーストラーを孵した。へレネーがトロイの女王であったように、クリュタイムネーストラーはミケーネの女王だった。神話記者たちは,レーダーをネメシスと混同し、ハクチョウ王の姿をしたゼウスをレーダーと交わらせた。その結果レーダーは、レートーという別名のもとに「黄金の卵」(太陽神アポッローン)を生んだあの有名な「ガチョウ」になった[1]。このガチョウは,エジプト人の間では、「ナイルのガチョウ」(女神ヘ(ウ)ト=ヘル〔ハトホル〕)と言われていた。
中世の画家たちは、レーダーとハクチョウ王とが連れ立っている絵を好んで描いたが、これは、人間の男性を登場させなくても、官能的な主題を描くことができたからだった。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)
レーダーは、世界卵を生んだ太母神で、レートーあるいはラトーナの別名である(これは、レーダーはリュキア語のlada「女」と同根であるとするプレラーの説)。
プレ・ヘレーネスの神話では、女神が聖王を追いかけ、彼が季節に応じたさまざまな変身を示しても、彼女自身もまたそれに対応する変化を見せて彼に対抗し、ついに夏至のころ彼をむさぼり食ってしまうことになっている。ギリシア神話になると、この役割が反対になる。ゼウスとメーティスの話やぺーレウスとテティスの話に見るように、女神の方が姿をかえてのがれるが、王がこれを追跡してついに彼女を犯すのである。「レーダー」は、ゼウスが追いかけたのではなく、ピュートーンが追いかけたレートーあるいはラートーナの一変形である。ハクチョウがこの女神の霊鳥とされている(エウリービデース『タウリスのイーピゲネイア』一〇九五行以下)のは、その白い羽根の色のためと、またこの鳥の群がV形をなして飛ぶのが女性のシンボルを示しているからであり、さらに彼らが北の方どことも知れないふるさとへ、おそらく死んだ聖王の霊魂を運んでゆくと信ぜられていたからであろう。(グレイヴズ、p.185)