コミュニティカフェがつくりたい。人がつながる場づくりがしたい。
こうした声を聞くようになって、何年も経ちます。人が消費者として扱われる空虚な「非-場所」があふれるなかで、その人がその人らしく存在し、他者と関わることのできる場が、あらためて求められています。そして、人と人とがつながる場は、ここ数年で大きく増えました。
しかし、山納さんは問題を提起します。「場を成立させるためのリテラシーは、まだまだ共有知にはなっていない」と。すなわち、たくさんの場ができているにもかかわらず、人と人とが出会い、つながり、創発や成長の起きる場をつくるための技法は、残念ながらまだ十分に広がっていない、というのです。
たとえば、こういう出来事が紹介されています。あるカフェで、一人で食事していたおじいさんが隣の女性に声をかけたところ、女性はギョッとして無視。気まずそうなおじいさん。それに全く気づかない店主…。
よくある光景でしょうか。いや、山納さんは、名の通ったコミュニティカフェで目撃したこんな光景に「がっかり」してしまう。私はそこに、数百の場づくりを手がけてきた実践者としての「愛」を感じ、本書が、その鋭くてあたたかい眼差しに包まれているのを感じて、安心した気持ちになります。
本書は、そんな山納さんと一緒に、人々のつながる全国の現場をめぐり、店主のインタビューを通じてその本質的な「場の成立要因」を考えていく、旅のような対話のような本です。成長する場、他者とつながる場、創発が起こる場という3つのテーマで紹介されている場はどれも個性的で、いつか行ってみたいところばかり。しかし表面的なおもしろさの奥にある、なぜその場ではその人がその人らしくいられるのか、店主は何をどう工夫しているのか、という点に、山納さんの透徹した視線は切り込んでいきます。
紋切り型のガイドブックでも上から目線の解説書でもなく、そこで人生を交歓する人々のありように寄り添い、作り手の想いや工夫をわかりやすく丁寧に汲み取ってみせてくれる、稀有な本。一読すれば、場の見え方がみるみる変わっていくはずです。場づくりに関心ある人すべてに向けた、新たな必読書といってよいでしょう。
担当編集者より
本書は、山納さんの前著『カフェという場のつくり方』の最終章で触れられている「カフェが担う公共性」について、多くの事例をもとに掘り下げた一冊です。『カフェという場のつくり方』は、カフェを開業したい人に向けた内容でしたが、本書の企画は、「地域の交流の場となることを目的として開かれるカフェが増えてきた中で、山納さんが良いと言われるカフェはどんなカフェだろう?」という疑問から始まりました。
本書には「場」としてのカフェを成立させるための「機微と方法論」が、前著と同様、非常にリアルな文章で書かれています。カフェや飲食業に関わる方だけでなく、広く「場づくり」に関心がある方に参考にしていただければと思います。
(岩崎)