間歇日記

世界Aの始末書


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2001年11月中旬

【11月20日(火)】
▼深夜に帰宅。テレビがあまりにくだらないため、適当なビデオをデッキに放り込んで、観ながら晩飯を食う。以前安売りしていたので買っておいた『フランス軍中尉の女』である。何度か観ているのだが、まあ、安けりゃビデオを所有しておきたいと思える類の映画だ。メリル・ストリープにひさびさに見とれる。なにげなくパッケージを見ると、ちょうど二十年前の映画である。時の流れに、正直、ビビる。初めて観たのが昨日のことのようだ。おれは英米文学科の卒論をハロルド・ピンターで書いたので、この映画もそのころ、半ば勉強、半ば娯楽で初めて観たわけである。そう、この映画の脚本はピンターなのだ。劇中映画の中の恋愛劇とそれを演じる映画俳優たちの恋愛劇が錯綜するという、まあ、似たような話はよくあるのだが、こういうややこしい構造はピンターの得意とするところで、言語の明示的論理と象徴の暗黙的論理が絡み合うところに生じる妖しい不確定性を自在に操る手際はまさに神業。天才の仕事だ。ピンターといえば不条理演劇の人だとよく思われているのだが、必ずしもそうではない。たしかに初期の「管理人」やら「料理昇降機」やら、人口に膾炙しているものは不条理演劇の要素が濃いが、ともすると頭でっかちな不条理演劇の要素を、非常に伝統的かつ安全牌的なウェルメイド・プレイとみごとに融合させ得た点がピンターの天才なのであって、ピンターはインテリ好みの前衛的傍流ではなく、むしろ古典的通俗エンタテインメント演劇の王道だ。SFで言えば、フィリップ・K・ディックみたいなものである――って、これが言いたかっただけやな。
 そういえば、最近ピンターはどうしているのか、ここ十年ばかり全然フォローしとらんなあ。カイル・マクラクラン主演でカフカ『審判』をテレビドラマ化したものの脚本を買ったのが最後だ。ちょっと追いついておかねばな。

【11月19日(月)】
《ご恵贈御礼》まことにありがとうございます。

『ベルゼブブ』
田中啓文、徳間書店)
「Treva」で撮影

 ひえええ、今年の田中さんはすごいなあ。また一千枚もの大作が出た。いったい、この人はいつ寝ているのだろう? そういえば、ウェブの日記を読んでいても、寝ているあいだのことは書いてあったためしがない。きっと寝ていないのだ。やはり人間これくらいでないと大成はできんものなのだなあと感心することしきりだが、最近彼が人間がどうかちょっと疑いはじめているのも事実だ。田中啓文が人間かどうかという些細な問題はさておき、ベルゼブブと言えば、言わずと知れた“蠅の王”である。むかしから「亀の甲より蠅の王」と言われているとおりだ。けっして“縄の王”ではないので注意するように。それはともかく、ベルゼブブと言えば“蠅の王”だけれども、ふつうわれわれはあんまり“蠅の王”だと意識するわけではない。まあ、悪魔の一種でしょうくらいに思うわけだ。が、ざっと冒頭のほうを覗いたところ、どうやら田中啓文は正直な人なので、“蠅の王”が“蠅の王”であることにこだわったホラーを書いたらしい。虫はいいねえ。“蟲”なんて字を見るとぞくぞくしてくる。きっと、これでもかこれでもかというムシムシ大行進(知らない人はこだわらないように)な話なのだろう。いひひひひひひ。

【11月18日(日)】
▼うだうだバカ話をしていると、喜多哲士さんがさっきまでの合宿企画「喜多哲士の名盤アワー」で使っていた歌詞カードをくれた。最初に企画の名称を聞いたときは、クラシックに造詣の深い喜多さんのことであるから、てっきりそっち方面の秘蔵の名盤を若者に聴かせようという企画なのかと思っていたのだが、甘かった。どこでどう音源を調達してくるのか、滅多に聴けない奇ッ怪なアニソンやら特撮音楽やらを楽しむ企画であったのだ。むかし懐かし、伊武雅刀「子供たちを責めないで」もやったらしい。いやあ、おれ、あの歌(?)大好き。ついこのあいだのことのように思っていたけれど、いまの若い人には珍しい曲であるようで、けっこうウケたのだという。学校の先生である喜多さんが密かに明かしたところによれば、学校の先生にはこの歌が好きな人が多いらしい。たいへんな仕事なんやね。アニソンの話をしているうちに、いつしかケータイの着メロの鳴らし合いになり、ピロピロとアニソンが飛び交う。来年四十になろうというおっさんが二人で着メロのアニソンを自慢し合っている光景というのは、じつに心の和むものであろう。まあ、喜多さんやおれは“癒し系”ということで通っているはず(どこでや?)だから、問題はあるまい。
 やがて、牧野修さんとケダちゃんたちがバカ話をはじめたので、おれも加わり、小林泰三さんも加わる。倉阪鬼一郎さんは、大広間の柱に身を預けつつ、ときどきウケながら聴いている。いつのまにか「ボラギノールA嬢の物語」という感動的な話ができたような気がするのだが、それはいったいどんな話なのであろう? まあ、タイトルから察するに(タイトルしかないのだが)、アナル系のSM話にちがいない。そのうち、牧野さんか倉阪さんか小林さんが書くであろう(書かへん書かへん)。牧野さんのSM論やフェティシズム論を拝聴しつつバカ話をしているうち朦朧としてきたので、おれと小林さんは、それぞれ持参した愛用のカフェイン・ドリンクを飲む。こんなものを携帯しているところが、サラリーマンの悲哀と言えば言えよう。コーヒー二〜三杯ぶんのカフェインを一気に摂取したはずなのだが、小林さんにはまったく効かず、彼はそのまま寝てしまう――が、頃合いを見はからった牧野さんの「夢精するで」のひとことで吹き出し、寝かせてもらえない。
 そうこうしているうちに、朝になりエンディング。ハードSF・NHKトリオ野尻抱介林譲治・小林泰三)らと、からふね屋で朝食。ファースト・コンタクト・シミュレーションのパターン化と限界について、興味深い話を聴く。林さんは Visor に AirH" のCFカードを差してメールをチェックしている。ひとむかし前であれば、その光景自体が立派にSFであったろう。2001年やなあと、ひとり妙な感慨に耽る。
 帰路はNHKトリオと京阪電車。人工知能の話などしながら、各々の降りる駅へと散っていった。
《ご恵贈御礼》まことにありがとうございます。

『SFバカ本 天然パラダイス篇』
岬兄悟大原まり子編/田中啓文、島村洋子、牧野修松本侑子、森岡浩之、小林泰三/メディアファクトリー)
「Treva」で撮影

 京フェスから昼ごろ帰宅すると届いていた。もちろん昨夜は寝ていないので朦朧としているが、昨日の対談で田中啓文さんがこの本に触れていて、「小林泰三のやつがめちゃめちゃにバカ」と絶賛していたため、ともあれ、ナイトキャップ代わりに(昼だが)「超限探偵Σ」(小林泰三)を読んでから寝ることにする。一読、絶句した。大馬鹿者である。むかしダグラス・アダムスが holistic detective なるものを自称する Dirk Gently という探偵が出てくる大バカ話を書いていたが(バカだが、小説としてあんまり面白くないのである)、小林泰三はこの短篇でダグラス・アダムスを超えた。つまり、よりバカであるという意味である。この「超限探偵Σ」にはなんの解説も批評も要らぬ。ただひとこと「バカ」と吐き捨てるように言ってから、もう一度読むのが正しい。まこと、このアンソロジーの要請に十二分に応えたすばらしいバカである。
 二度読んで、もう一度「バカ」と呟いたおれは、ベッドに倒れ込み屁ぇこいて寝た。

【11月17日(土)】
京都SFフェスティバル2001に出かける。といっても、前日が深夜帰宅で起きられず、遅れてゆく。昼企画の「あの人は今……」(出演:大野万紀・加藤逸人・山岸真/司会:かつきよしひろは見逃してしまい、着いたころには、「SFのロボットはどこまで実現するか」(出演:浅田稔・星野力堀晃/司会:菊池誠もほとんど終盤にさしかかっていたため、そのままロビーで久々に会った人たちと話をする。古沢嘉通さんが満を持して発行した同人誌〈Review IKA〉一号を頂戴する。一応おれも寄稿しているのでもらえたのだが、キース・ロバーツを特集したたいへんクオリティーの高い同人誌であり、ほんの茶々入れに寄稿したくらいでもらってしまったのでは悪いような、すばらしい出来栄えであった。
 『対談・森奈津子×牧野修「バカとエロ」』(出演:森奈津子牧野修/司会:笹川吉晴)がはじまったので、この企画は最初から観る。なにしろ、「(注)この対談では猥褻な表現や倫理的に問題のある描写などが多く語られる予定です。従って十五歳以下の入場には両親の付き添いが必要です。また未成年は自らの責任によって参加してください」という注意書きがついている企画なのである。言うまでもなく、こういうのは大好きだ。が、なんでも森奈津子さんが企画の開始時間をまちがえたとのことで、急遽、森さんの代打として田中啓文さんが入る。牧野修・田中啓文対談も聴けて、たいへんお得であった。バカ話のあいまにも、さりげなく重い文学論が語られるため、おれはケータイのICレコーダで途中から録音を開始した。SDの残り容量は、この対談をまるごと保存してなお余るくらいはある。
 ゲラゲラ笑いながら聴いていると、斜め前に座っていた黒髪の女性と目が合い、その見知らぬ女性は会釈をしてきた。はて、誰だったかいな、どこかで見たような……と数瞬考えて、ようやくのだれいこ博士であることが判明した。のださん=金髪という認識の鋳型がおれの脳の中にはすっかりできあがっていたのだが、最近は黒く染めてらっしゃるらしい?
 やがて森奈津子さん到着、万雷の拍手の中をステージ(?)に向かう。おれは生身でご尊顔を拝するのは初めてである。ふつう、作家本人を初めて見た場合、「あのような作品を書いているとはとても思えない雰囲気の人だった」などと感想を述べることが多いものだが、森さんの場合は多少ちがう。ちょっと見たところのふつうの人だが、なるほどあのような作品を書いてもまったく不思議ではないと思わせるオーラのようなものをお持ちなのである。それはもう、オーラとしか言いようのない、抜き身の刀が放つ妖気のような独特の雰囲気だ。こういう人は、生まれながらの作家なのであろう。トークは、事前に寄せられた質問に牧野さんと森さんが答えてゆくという形式で進み、たいへん面白かった。とくに高知県にお住いの西澤保彦さん(自由業)とおっしゃる方からは三つも鋭いご質問が届いており、ひたすら感心させられた。
 大笑いのうちに昼の部は閉会。ケダちゃんたちとうどん屋に入って談笑していると、棚の上のテレビから突然どこかで聴いたような声が聞こえてきた。反射的に顔を上げると、おお、われらが“とりP”鳥木千鶴アナウンサー(朝日放送)がニュースをお読みあそばされているではないか。世の中には、滑舌の悪い小娘のヒヨッコアナがニュースを読むのが危なっかしくて可愛いなどという変わった趣味の人がいるようだが、そんなもの、ただニュースがわかりにくいだけである。その点、鳥木アナの安定感はダントツだ。もっとも、完全に三の線で楽しませてくれる関純子アナ(関西テレビ)くらいになれば突然なにを言い出すかわからないスリルと期待感もあっておれはきらいではなく、しっかり姐御風の鳥木アナとぽわわ〜んおばちゃん風の関アナとのあいだを行ったり来たりしているタージンという人はなかなかたいへんであるなあと思う次第だ(といっても、近畿圏の人にしかわからない)。
 鳥木アナを観るついでにうどんを食い終わって、合宿会場のさわやへ向かう途中、とあるビルから突き出たテナント飲食店の看板を見上げると、「ねじ式」などと書いてある。いったいこれはなんの店であろう。面白いのでみなで見にゆくと、お好み焼き屋であった。お好み焼き屋のなにが「ねじ式」なのかさっぱりわからない。店主がつげ義春のファンなのだろうということは想像がつくが、いったいどういう人々がこの「ねじ式」にお好み焼きを食いにくるのか、客層の想像がまったくつかぬあたりが不気味である。京大生にはおなじみの店なのかもしれんが、知らん人が見たらたいへん怪しいぞ。半開きになっている扉からそっと中を覗くと、なんと例の男の人形がメメクラゲに刺された腕を押さえて、病的な目でこちらを睨んでいるではないか。た、ただものではない店である。当然、メニューには金太郎飴があるにちがいない。さらに奥を覗きたい気持ちはあったが、ゲンセンカンの女将が出てきたら怖いのでやめておく。「バー 紅い花」というのが隣になかったのは、いささか不徹底ではある。

怪しい看板群ぼくはメメクラゲに
刺されてしまったのです。
シリツをしてもらわねば……。
メメクラゲ男拡大
「Treva」で撮影

 例によって、さわやで合宿のオープニング。レイ・ブラッドベリの名作「万華鏡」を十一人で表現せよというわけのわからないジェスチャーゲームをやらされる。あんなもん、ラストシーンを二人でやったほうがわかりやすいやないか。
 企画がはじまったので、「SF作家とアイドルの幸運な出会い」の部屋へゆく。なにが「幸運な出会い」なのかとたいていの人は思うでありましょうが、これは企画に参加するほうはちっとも幸運でないのである。「玩具修理者」小林泰三『玩具修理者』角川ホラー文庫・所収)が映画化されたため、撮影現場に見学に行った妻も子もありもうすぐ四十になろうという小林泰三が、田中麗奈と七秒間言葉を交わして記念写真を撮った――というただそれだけの事実を、映画の予告篇をみなに観せながら、ひたすら嬉しがる企画である。幸運なのは小林泰三ひとりなのである。田中麗奈のほうは幸運だったかどうかよくわからない。主演が樹木希林だったら面白かったのに。まあ、作家というのはときに予期せぬ役得があるもので、この企画でかなり作家志望者が増えたのではないかと思われる。来年は、未来のアイドルが映画で主役をやってくれそうな話が、あちこちの新人賞に殺到するのではあるまいか。
 ビデオデッキの調子が悪く多少もたついたが、無事、「玩具修理者」の予告篇を観ることができた。玩具修理者「ようぐそうとほうとふ」の役は元宝塚の姿月あさとなのであるが、襤褸布の塊のようなものが立っているだけで、どこが姿月あさとなのかさっぱりわからない。まるで吉永小百合がゴジラの着ぐるみに入って主演しているかのような、贅沢といえばたいへん贅沢と言えないこともない不思議なキャスティングである。玩具修理者に修理されながら田中麗奈が「つながってます〜」とかいうネタをやるのかと思ったが、それは別の元タカラジェンヌですかそうですか(これも関西の人にしかわからんネタだよな)。ちなみに、この予告篇、この日記を書いている時点では映画「玩具修理者」のサイトで観ることができる。mov ファイルがローカルPCのキャッシュに落ちるので、田中麗奈ファンは保存しておくと吉。個人で楽しむ以外の目的には使わないように。
 「玩具修理者」のあとは、野尻抱介さんが持ってきたアニメ版「ロケットガール」のパイロット・フィルム上映。これがなかなかかっこいい。が、実際に製作されるかどうかとなると望み薄らしい[◆2002年1月12日追記◆これはおれがニュアンスを聞きちがえたようなので、お詫びして訂正しておきたい。後日野尻さんがおっしゃったところによると、「望み薄」なのではなく「まだなんともいえない」といったあたりのニュアンスであり、つまり、「どうこう言えるだけの情報が出揃っていない」という意味である]。もったいない。この調子で全篇作る予算があれば、絶対ウケるのに。日本はこういうところにも金を使って、次代の宇宙開発を担う子供たちを育てねばならない。
 映画上映が終わったので、今度は、古沢嘉通さんとその一味(?)がいつも酒盛りをする“古沢部屋”にお邪魔して、ワインを飲む。そこへなぜか森奈津子さんが出現(って、怪獣やないんやから)。ここはどうやら、本来森さんたちの寝部屋になっているらしい。森さんとはメールでは何度かバカ話を交わしているのだが、生身でお会いするのは初めてなので、名刺を交換する。
 古沢部屋で酒を呑んだあとは、「鬼畜小屋」へ。ここだけはなぜか“小屋”なのである。笹川吉晴さんのリードで、綾辻行人さん、我孫子武丸さん、牧野修さんといった“鬼畜”な面々が、鬼畜な小説や映画の話を次々とする。大森望さんも入ってきて、部屋はどんどん鬼畜になる。おれはホラー映画はそれほど観ていないので感心したのだが、死霊だのゾンビだのはらわただの生き肝だの叫びだの雄叫びだのハンターだのバスターだのなんだのかんだのという似たような言葉の順列組み合わせを網羅しようとしているかのごときホラー映画のタイトルと内容を、よくもまあ、みなさん克明に憶えているものだ。途中でアメリカの同時多発テロの話になり、突如、我孫子さんが憑かれたようにアメリカ同時多発テロ論を展開しはじめた。なにかとても理路整然とした話を聞いて、そのときはなんとなく納得したような記憶だけは残っているものの、あまりに印象的で、どういう話だったのか忘れようとしても思い出せない。やがて企画の制限時間はすぎ、我孫子論の展開は大広間にまで引き継がれたようである。
 大広間に戻り、うだうだと話をしていると、がっしりとした体躯の、それでいてずいぶんと腰の低い方に挨拶をされる。『ラクトバチルス・メデューサ』(ハルキ文庫)の武森斎市さんであった。いかにも頼りになりそうな、優しいお医者さんといった雰囲気の方である。そりゃそうだ、お医者さんなのだ。初対面なので名刺を交換したところ、以前おれん家のすぐそばにある病院にいらしたことが判明。なんとも世間は狭いものである。武森さんはどうやらこのような集まりには初めていらしたようで、独特の奇妙な雰囲気にとまどってらっしゃるような感じであった。無理もない。おれも若いころはファンダムとはまったく縁がなく、三十前になって初めて京フェスに来たときには、はなはだ驚いた。それがいまでは、年に一回ここでバカ話をしないといられない身体になってしまった。慣れというのは怖ろしいものである。
 そうこうしているうちに夜も更ける。

【11月16日(金)】
Opera なるブラウザがけっこういいというので、試しにダウンロードして使ってみる。この期におよんでウェブ・ブラウザの世界に新規参入してくるという蛮勇が好もしい。そもそもおれは、Internet Explorer が大嫌いである。前にも書いたが、あんな危ないものを常用する気にはとてもなれん。IE用に作ってあるページがけっこうあって、そういうところも使わないと仕事にならないので会社では涙を呑んで使っているが、自宅では、まずたいていは Netscape Navigator を使う。
 で、Opera を使ってみると、これがなかなかいいのだ。ブックマーク(「お気に入り」などというIE用語は使いたくない)まわりが強力で、IE風にもネスケ風にも使えるインタフェース(IE風になど使いたくない)がよくできている。正式ユーザになるには金を払わねばならないのだが、これなら金を払ってもよいと思わせるものがある。ネスケも、Ver.6 はあまりに巨大で、こんなものがサクサク動くマシン環境のユーザはさほどおるまい。おれのパソコンでは、重たすぎてまったく使いものにならない。だから、古いネスケを使い続けている。IEを常用するくらいなら、そのほうがよい。だが、選択の幅が広がるのはありがたい。いろいろマイナーなブラウザがあるのは知っているが、Windows 環境であえてネスケを捨ててまで使いたいとまでは思えないのだ。Opera は、ネスケと併用してもいいなと思うくらいには気に入っている。これからちょこちょこ使って、安定度を評価しよう。
《ご恵贈御礼》まことにありがとうございます。

『新千年紀(ミレニアム)古事記伝YAMATO』
(鯨統一郎、ハルキ文庫)
「Treva」で撮影

 不勉強なことに、おれはまだ鯨統一郎氏の作品を読んだことがないのである。書店で見るかぎりでは、SFファンの食指が動きそうな設定やタイトルの話が多く、いつかは読まねばと思っている作家のひとりなのだが、まだ読めていない。どちらかというとミステリの人という印象があるため、ついついあとまわしにしてしまうのである。おれのところに送られてくるところをみると、この作品にはSF的要素があるのであろう。「奇想天外な発想と大胆な推理で読み解く超歴史ファンタジー」とある。坂口安吾諸星大二郎みたいなテイストがあるのであろうか。本書の前には、『千年紀末(ミレニアム)古事記伝ONOGORO』というのも出ているので、本書を読むに当たっては買っておかねばなるまい。

【11月15日(木)】
▼それにしても、だ――いや、昨日深夜に飯を食ったものだから、今日になってもまだしゃもじの話が続いているのである――日本人が米を食いはじめてからそれはそれはずいぶんになるだろうとは思うが、イボイボのついたしゃもじくらい、もっと早くに誰かが考えついていてもよさそうなものである。初めてこのしゃもじを使ったときには、風向を変えるグリッドのほうが回る扇風機を最初に見たとき以来の感動を覚えた。しかし、だ。扇風機のほうとはちがって、「しゃもじにイボをつけたら、米粒がくっつかなくなるのではなかろうか」などというアイディアは、誰も思いつかなかったのではなく、あまりに“それらし”すぎて、思いつきはしたものの誰もやってみようとしなかったというのが正解なのではあるまいか。この着想を得たとしても、まず誰もが「世の中そんなに甘くない」と思うにちがいない。このしゃもじを見ていると、世の中は意外と甘いものだったのかという気になってくる。おのれ、こんなものが実際に機能するとは、じつに癪だ。しゃもじだけどしゃくだ。
 これほどのヒット商品ともなると、たぶんいかにもそれらしい発明秘話のひとつやふたつあるに決まっているが、ここでひとつ、おれの想像を述べてみよう――セーターなどの毛玉取り機を作った人は、たぶん非常にものぐさな人で、最初は「ええい、じゃまくさい」とばかりに、手近にあった電気髭剃りを使ってみたのであろういーやそうにちがいない。おそらく、イボイボしゃもじを作った人も、飯を食おうとしたときにたまたましゃもじがなかったので、手近にあった健康スリッパで飯をよそってみたのだ。ひょっとすると、ちがう発明秘話が出まわっているのかもしれないが、それは嘘である。健康スリッパで飯をよそってみたと言いたくないだけなのである。そりゃもう、絶対にそうなのである文句あるか。

【11月14日(水)】
▼深夜に帰宅し、晩飯を食う。飯をよそいながらいつも思うのだが、この“イボイボのついたしゃもじ”はいったいどのくらい普及しているものなのであろうか? 思いついたときに人に訊いてみると、みな口を揃えて「うちも使っている」と言うのだ。もはや、しゃもじにはイボイボがついているのがふつうであるという見解が支配的になっているおそれすらある。なに? イボイボがついていないしゃもじなんてあるのか、ですと!? そう詰め寄られるとおれも自信がないのだが、おれの記憶によれば、たしかにむかしそういうものがあった……ような気がする。

【11月13日(火)】
▼やあやあ、遠からん者はウェブを見よ、近くば寄ってウェブを見よ、今年もやってまいりました、唄う経済学者マイソフさんの恒例投稿企画『アニソン縛り紅白歌合戦』である。NHKの某番組より視聴率が高くなるのも時間の問題と言われているおなじみのこの企画、今年で第五回を数える([第一回]1998年9月16日[第二回]1998年12月16日[第三回]1999年12月4日[第四回]2000年12月4日)。毎年毎年頭を絞ってくださるマイソフさん、まことにありがとうございます。
 今年もまたまた「鑑賞の手引き」付きである。年々マニアックになってきている『アニソン縛り紅白歌合戦』であり、おれもとうについてゆけなくなりつつあるが、マイソフさんご本人も「手持ちのネタで何とかなる時期はとうに過ぎ、あの手この手でごまかしているのですが、そういう段階もそれはそれで、最初のうちは面白いものです。後何回続くかわかりませんが、行ける所まで行こうと考えています」と、頼もしいコメントを寄せていらっしゃる。
 誰もが知っている、誰もが唄える国民歌謡というものが滅びて久しい。この現象も要するに、十把一絡にできる“大衆”なるものが消えうせてしまったことを示しているのである。となれば、これからの紅白歌合戦は、“分衆歌謡”さらには“おたく歌謡”として発展してゆかざるを得ないのであり、とても一人の人間には把握しきれぬほどに供給される消費財として音楽の中から、各人が“おのれの紅白歌合戦”を読み取り、おのれの物語を付与することが求められているのだ。子供も大人も爺ちゃんも婆ちゃんも、みんなが「ひなげしの花」「わたしの青い鳥」を、みんなが「また逢う日まで」「喝采」「襟裳岬」を唄った古き良き時代よ、さらば。“大きな紅白歌合戦”よ、さらば。二十一世紀の紅白歌合戦よ、こんにちわ。こんにちわ〜、こんにちわ〜、握手をし〜よ〜う〜♪
 というわけで、今年も行ってみよう――

第五回「アニソン縛り紅白歌合戦」(出場順)
Folder5 おジャ魔女はココにいる
[おジャ魔女どれみ#]
ハクション大魔王のうた
[ハクション大魔王]
氷川きよし
モーニング娘。 夢見るスーキャット
[スーキャット]
Butter-Fly
[デジモンアドベンチャー]
Kinki Kids
ZARD 空気と星
[地球少女アルジュナ]
地球をくすぐっチャオ!
[ポンキッキーズ]
南こうせつ
松澤由美 キングコング
[キングコング]
001/7親指トム
[001/7親指トム]
ビジーフォー
坂本真綾 いつかきみと
[ポニーテール白書]
トライダーG7のテーマ
[無敵ロボトライダーG7]
山本まさゆき
笠原弘子 不思議CALL ME
[星銃士ビスマルク]
激走戦隊カーレンジャー
[激走戦隊カーレンジャー]
SUPER SLUMP
レベッカ 明日の笑顔のために
[ゲートキーパーズ]
清く正しくカブタック
[ビーロボカブタック]
山本譲二
つのだりょうこ おーいたいそうだよ
[おはよう!こどもショー]
ピンポンパン体操
[ママとあそぼう!ピンポンパン]
杉田あきひろ
岩男潤子 小さな巨人 里中くん
[ドカベン]
闘えっ!ばんぺいくんRX
[ああっ女神さまっ]
水木一郎
由紀さおり・安田祥子 ポパイの歌
[ポパイ]
とんとんとんまの天狗さん
[お笑い珍勇伝 頓馬天狗]
Re:Japan
森高千里 やさしさの種子
[カードキャプターさくら]
日本昔ばなし
[まんが日本昔ばなし]
さだまさし
大黒摩季 前向きロケット団
[ポケットモンスター]
突撃ラブハート
[マクロス7]
世良公則
DREAMS COME TRUE <ネズミメドレー>
ミッキーマウス・マーチ〜
ガンバの唄
[ガンバの冒険]
ハム太郎とっとこうた
[とっとこハム太郎]
<カエルメドレー>
ケロヨンソング
[木馬座アワー]
けろっこデメタン
[けろっこデメタン]
ど根性ガエル
[ど根性ガエル]
こぶ茶バンド
矢野顕子 恋をいたしましょう
[おじゃる丸]
やあ。
[究極超人あ〜る]
サザン
オールスターズ
セリーヌ・ディオン Captain Fram
[仏語版
キャプテンフューチャー]
Cardcaptors: Main Theme
[英語版
カードキャプターさくら]
ささきいさお
葛城ユキ 嵐の勇者
[勇者特急マイトガイン]
薔薇の戦士
[パタリロ!]
郷ひろみ
宇多田ヒカル アンジェにおまかせ
[女王陛下のプティアンジェ]
Stand Up to the Victory
[機動戦士Vガンダム]
V6
島倉千代子 夢の入り口へ…
[めぞん一刻]
Spirit
[ウルトラマンコスモス]
SMAP
小林幸子 ウランのテーマ
[鉄腕アトム 第2シリーズ]
タイムリミット
[超人機メタルダー]
西城秀樹
和田アキ子 夜明けのShooting Star
[MOBILE SUIT GUNDAM 0080]
宇宙の王者!ゴッドマーズ
[六神合体ゴッドマーズ]
B'z
TRF
[名探偵コナン]
怪人二十面相
[怪人二十面相]
北島三郎
石井好子 花の巴里
[サクラ大戦3]
復活のイデオン
[伝説巨神イデオン]
アリス
加藤登紀子 さくらんぼの実る頃
[紅の豚]
テレサよ永遠に
[さらば宇宙戦艦ヤマト]
小室哲哉

 いやあ、しかし「キングコング」はともかくとして、「001/7親指トム」など、日本中捜してもフルコーラス唄えるのは田中啓文さんくらいのものではあるまいか(聴いたことないけど)。氷川きよしは、やはり“おもしろタイトル”にしなくてはなるまいから、本番ではアドリブで「箱根八里のハクション大魔王」になるのだろう。さだまさし「日本昔ばなし」世良公則「突撃ラブハート」は、ほんとうに聴いてみたいし、ほんとうにやってもまったく不思議ではない。今年はなんといっても〈カエルメドレー〉が嬉しいねえ。フランス語版「キャプテンフューチャー」なんてのを実際に入手しているあたりが、じつにマニアックなところである。どんな曲なんだろうな。当然フランスでも、どっちを向いても宇宙なのであろうが……。SMAP「Spirit」は、当『アニソン縛り紅白歌合戦』では、稲垣吾郎もいるものとする。稲垣吾郎のいないSMAPなど、おれにとってはSMAPではない。チームEYES・ユニフォーム姿の鈴木繭菓が飛び入りすることにしよう。
 さてさて、これも恒例の締めだが、今年もプリントアウトして、あるいは、PDAに保存して、年末年始のカラオケ・パーティーに活用していただきたい。面倒なので、iモード版は作らない。あしからず。

【11月12日(月)】
▼えらいことだ。風邪に似た症状が出てきた。やっぱり、昨日の包みにはなにかが仕掛けてあったのか――。風邪薬を飲んだら多少ましになった。どうやら風邪に似た症状を呈する風邪らしい。よかったよかった。

【11月11日(日)】
▼bk1に注文した本が届く。宅急便屋が中身を確認してほしいというので、なにごとかと見ると、段ボールの包みの角が濡れて破けていて、そこから中の本が見えているのだった。配送中の事故らしい。包みを開けて中を確認。幸い、本はさらにビニール袋に入っているため、実害はなかった。まさか白い粉が出てきはすまいな緊張した。不謹慎なネタには身に覚えがある。
 本は無事で、白い粉も入っていなかったが、それでもなにやら気色が悪い。おれごときを狙ったところで、世の中微動だにせんぞ。もっと偉い人を狙いなさいってまた不謹慎なことを……。


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冬樹 蛉にメールを出す