本書を読み始めると一気に読み通してしまった。まちづくりに関わる63の仕事を通じて、まちを見る、あるいはまちに関わる多様な視点を一気に獲得していく興奮に襲われたからである。
本書は、まちづくりの「仕事」を紹介するガイドブックである。まちづくりによって、あるいはまちづくりに関わることによってお金を稼ぐ、63の働き方が紹介されている。コミュニティに入って直接まちづくりを行う仕事から、まちづくりの仕事といってもすぐには思いつかないであろう、グラフィックデザイナーや編集者といった仕事まで、多様なレベルでまちに関わる仕事を5つのカテゴリーに分けて紹介している。まちに関わる仕事の広がりがとても大きいことを、本書は教えてくれる。
各カテゴリーはさらに3つに分けられ、カテゴリーの開拓者へのインタビュー「パイオニアインタビュー」、仕事の概要を見開きで紹介する仕事ガイド、生まれたばかりの新しい仕事を取り上げた「ベンチャー」という記事で構成されている。それぞれ、第一線で活躍している方々が執筆しており、興味のある仕事の記事をつまみ読みしても良いだろう。ただ、仕事ガイドについてはカテゴリーを通して、あるいは前後の記事を一緒に読んでもらいたい。仕事ガイドは、その仕事の広がり、まちづくりにおけるその仕事の可能性と醍醐味を伝えているが、一般論としてその仕事を語る人もいれば、自社の事業を中心に語る人もいる。こうした語り口の差が、その仕事の性質や、まちとその仕事の距離感を表しているようで興味深いのだ。
本書で仕事を語る先駆者たちは、まちづくりの仕事をする上では、先入観を持たず、まちの課題や資源を発見する力、そしてつねに学びながら新しい状況や場面に立ち向かい、既知のものの新しい組み合わせから新たな仕事をつくっていく、しなやかな思考力が重要だという。この本を読み、ここから学んだことを組み合わせ、具体的なフィールドで新しい仕事をつくっていく、そんな人たちが読者のなかから生まれる可能性が、本書にはぎっしりと詰まっている。
僕は本書を読み進めるなかで、まちと自分(まちづくりの仕事)の距離感がダイナミックに変化するような感覚を味わった。本書は現在の日本のまちづくりの状況、あるいはまちと関わる多様な仕事の今を知ることのできる読み物にもなっている。
まちづくりの仕事をしたい人だけでなく、都市や地域の今を知りたい人にも読んでもらいたい一冊だ。
担当編集者より
「まちづくりを仕事にしたい」と思ったとして、どこで何から始めれば良いのか、わかりにくくありませんか? そう思ってこの本づくりに挑戦してみたのですが、思っていた以上に捉えどころがなく、目次づくりには苦戦しました……。それでも、現場では多くの方々が活躍されています。従来からの仕事が変化しながら続いている一方で、新しい仕事もどんどん生まれている、そんなヴィヴィッドな現場の様子が伝わればうれしいです。
(井口)
そのものズバリ「まちづくり会社」から、「信用金庫」「編集者」といった仕事まで、まちづくりという捉えどころのないものの、今現在の全体像が見えてきます。幅広さの中にも共通点が見えるのがおもしろい。「仕事」としてまちづくりをしている方々に執筆していただき、イラストも、まちづくりと聞いてイメージしがちな「ボランティアで汗を流す」というものではなく、さまざまな角度から、まさに「まちをつくる仕事」をする人たちの様子を描いていただきました。まちづくりの世界の入門書としておすすめです。
(神谷)