一般に、三相一体の女神のその3つの相の最後の相をさす。そうした老婆に相当する例を挙げると、破壊者であるカーリーKali、死体を貪り喰らう雌豚であるケリトウェンCerridwen、運命の糸を断ち切る女であるアトロポスAtropos、マハMacha、ヘカテー Hekate、エレッシュ・キガルEresh-Kigal、モーガンMorgan、死霊界の女王、冥界の女王、黄泉の国の住人たちの女王、「破壊者」ペルセポネーPersephone、などである。こういう女神たちはすべて、その姿は老齢、死、冬、最後の審判の日、欠けてゆく月、およびその他、再生する前に必ずある破壊や解体のシンボルをもって表される。
老婆Croneは「時の母親」であるレア・クロニアRhea Kroniaに由来したのかもしれない。しかし、このCroneという添え名はコロニスCoronis(はしぼそ烏)と関連があった。烏や黒い色の生物は死の女神に捧げられたからである。このように老婆は恐ろしい面を持っていたが、同時に、「処女母(virgin mother)」という面を持つことも多かった。それというのも、三相一体の女神のその3つの相(処女、母親、老婆)というのは、めぐりめぐるものであったからである。こうした女神を本当に愛する者たちは、女神の美しいイメージと同様、その醜い「破壊者」のイメージをも愛さなければならない、と東洋では言われた。老婆はまた女性の人生の第3の面(閉経後)を表した。それで、老婆を祀る神殿にはそうした人生の段階にある巫女たちが仕えていた。毎月の「賢い血」をもはや流さず、それを内にしまっておくようになった女性は、非常に賢明な人間になる、と信じられていたために、老婆は常に「知恵の女神」であった。ミネルウァMinerva、アテーナーAthena、メティスMetis、ソフィアSophia、メドゥーサMedusaといった女神たちがその典型的な例である。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)