「すべてを含む者」の意味。原初の混沌の海原で、四大に「秩序」(テミス-エウリュノメーの別名)をもたらすまで、1人で踊り続けたぺラスゴイ人の創造女神。アセト〔イーシス〕やイヴのように、「大いなるヘビ」、つまり切断された男根を創造して、最初の夫にした。エウリュノメーは、このヘビに自分の子宮に種を宿す許可を与えたのだが、そのうちにヘビが自分自身を万物の創造主と呼ぶようになった。ヘビの思い上がりに腹を立てたエウリュノメーは、踵でヘビの頭を打ち、傷つけ、冥界に送った[1]。
キリスト教のグノーシス派が、創造の母について、これとよく似た話をしている。グノーシス派は創造の母をソフィアと呼び、その最初の夫をヤハウェと言った。ヤハウェが創造の仕事を手伝えたのは、母神が「精力を吹き込み」、自分の考えをヤハウェに教え込んだからだった。ところが、ヤハウェも思い上がりすぎて、母神を忘れたために、罰せられなければならなくなった[2]。 Eve.
太女神の添え名の多くと同じく、エウリュノメーはのちのキリスト教徒の著作者によって、悪魔化され、さらに男性化された。キリスト教徒の著作者たちはその上、エウリュノメーを地獄にまでも引き渡し、男性の「悪魔、エウリュノメ」にした。この悪魔はときに「死の君」と言われる[3]。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)
ギリシアの先住民族ペラスゴイ人の創世神話における創造女神。みずから息子-夫である大蛇オピーオーンを生み、これとともに世界を創造した。しかるに、オピーオーンが、創造者は自分であると主張したので、怒ったエウリュノメーは、オピーオーンを冥府に追放した。創世神話(1)
キリスト教世界では、エウリュノメーは女神であったにもかかわらず、これを男性とし、しかも地獄に追放した。上級魔神エウリノーム Eurynome(左図)がそれである。一部の悪魔学者(コリン・ド・プランシー)によれば、エウリノームは死の王とされ、巨大な長い歯を持ち、体は傷だらけで醜悪、狐の皮を身にまとっているという。
しかしながら、エウリュノメーを男性にしてしまったのは、キリスト教作家のみの罪ではない。パウサニアースが、すでに、デルポイの壁画にエウリュノモスというダイモーンの絵が描かれていることを報告している。それによると、エウリュノモスは「冥界にいるダイモーンのひとりで、死者の肉を貪り喰って骨だけにする。……肌の色は藍と黒との中間で、肉にたかる類の、はえが群がりつき、歯をむき出し、ハゲタカの皮を敷いて座っている」という(『案内記』第10巻4章28_7)。