現代の国際金融経済は多くの地域を物価・株価・為替価格などの変動を通じて「生き残りを賭けた生存競争・価格競争」に巻き込む。その結果、地域は人的能力を奪われ、所得を失い、格差の拡大を余儀なくなくされてきた。
ところが、ドイツ南部ミュンヘンから北へ200キロ、エアランゲン市(人口10万規模)は豊かな人的資本を持ち、所得水準も高い。
その原因は何か。
高松平藏氏は、まず、ドイツの地方都市は「伝統をもつNPOなど地縁に代わる非営利組織が発展し“質の高い無償の人的サービス”」を行う力量を持つこと。次いで、「企業・銀行などが非営利活動を通じて“コミュニティへの資金供給を行うシステム”」を持つこと。この二点に注目する。
そこには、非営利経済が発展し、グローバルな価格変動に支配されない、新たな経済が創出されていたのである。そして、この新しい経済が“愛着の持てる町をつくる”市民生活を支えている。
そしてさらに、高松氏は、このような新たな経済が、地方都市の発展の仕組み、すなわち、「循環型発展=クオリティ・ループ」を生みだすことをも実証する。
この循環は、第一に、分権型の地方財政システムによる「自主財源を生かす多様な都市基盤の充実」から始まる。
さらに、教育・文化の質が高い都市の魅力によって創造的人材が集まり、彼らを雇用した行政・企業・大学が、科学や文化をはじめとする創造力の基盤を形成する。
第三に、この創造力の基盤から先端技術開発と市民のニーズを結合する医療機器など多様な産業・雇用が生まれる。
第四に、こうした産業に従事する人々は、国内外の市場を開発して企業の収益増を実現し、分権型の財政システムの下で営業税等の自治体の自主財源が確保される。自治体はインフラ=基盤投資が可能となり、次の循環が始まる。このようにドイツの地方都市は、人材を奪われず、魅力を生み出し、人を招き、雇用と所得を確保してきた。
本書は、エアランゲンという人口10万の町をケーススタディに、地方都市の新しい経済モデルを描きだした貴重な一冊である。
担当編集者より
エアランゲンという400年前に誕生した人口10万人の町がこの本の舞台。とりたてて有名な観光地も派手な産業もないけれど、行動力のある行政職員、地元を支援する商店、新しい産業を育てる企業と大学、コミュニティ活動に熱心な市民など、プレイヤーたちのいきいきとした活動が街を動かすエンジンになっている。
「地方消滅」や「地方創生」とは無縁のドイツ。それはなぜなのか? 現地に暮らすジャーナリストの高松さんが、その理由に迫る。
(宮本)
本書でフォーカスされているエアランゲン市は、日本では知名度は低いものの、過去に「ドイツで最もクリエイティブな都市」に選ばれるほどスゴイ都市だ。
派手さはないが、400年も前から都市の戦略を練り、ものづくり、環境、医療など時代に合った特徴を最大限に伸ばし変化し続けている。また、500年前から続くビール文化、120年前から地元に愛されるパン屋など、企業と市民が紡いできた街の歴史は長い。何か特出した特徴に頼るのではなく、経済、文化、環境、コミュニティ、それぞれがバランス良く都市の成長を支えるエアランゲンから日本が学ぶことは多いのではないか。
現地在住の著者の綿密な取材と、明瞭な分析で描かれる都市の全貌は、日本の地方都市の未来をつくる関係者にとって必ず役に立つだろう。
(山口)