フランスの地方都市にはなぜシャッター通りがないのか
交通・商業・都市政策を読み解く
ヴァンソン藤井由実・宇都宮浄人/著
日本と同じくクルマ社会で、郊外には巨大なショッピングモールがあるのに、なぜフランスの地方都市の中心市街地は活気に溢れ、魅力的なのか。「駐車場と化した広場」から「歩いて楽しいまちなか」への変化の背景にある、歩行者優先の交通政策、中心市街地と郊外を共存させる商業政策、スプロールを防ぐ都市政策を読み解く。
A5判・204頁・定価 本体2300円+税
ISBN978-4-7615-2636-8
2016/12/01
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評 : 水無田気流 (詩人・社会学者)
「地方の衰退を包括的に防ぐ鍵」
日本では、近年盛んに「地方創生」の必要性が叫ばれている。急速に進む少子高齢化や、空き屋の増加、さらには中心市街地の「シャッター通り」化など、かつての高度成長期的な拡張路線では立ち行かなくなった問題に対し、私たちはどのように対処して行けば良いのだろうか。同様の問題に対し、諸外国はどのような方法で対処して来たのか。
本書のタイトルは、こんな日本人の悩みに真正面から答えてくれる。一般に、日本では幹線道路沿いの大型ショッピングセンターが建ち並ぶ、モータリゼーションに沿った消費生活が、中心市街地衰退の主要因であるとされている。これに対してフランスやドイツでは、LRT(Light Rail Transit)が発達しており、街中は一般の自家用車乗り入れが禁止されているなど、脱車社会化がなされているため、中心市街地が活況を呈している……との認識があるが、著者はこれは誤解であると指摘する。
ドイツやフランスの人口当たりの乗用車保有台数は日本より多く、車産業も経済の支柱。それでも、地方都市の中心市街地が「シャッター通り化」しない理由はどこにあるのか。鍵は「交通まちづくり」の視点だ。車と公共交通機関の共存を可能とする社会的・物理的環境の整備は、その中軸を担う。とりわけフランスでは、移動制約者と社会弱者(低所得者)の移動を「交通権」として保障することを眼目に、社会政策が行われてきたという。さらに、中心市街地を「シャッター通り化」させないための公的介入としては、空き店舗への課税、自治体のタウンマネージャーによる活性化、さらにはコンパクトシティに向けた総合的な後押しなど、きめ細やかな対応がなされているというのだ。
翻って、日本の「地方創生」は、依然その本旨を定めてはいないように見える。目先の問題に汲々としているうちに、問題は深刻化の一途を辿っている。何をなし得るか、そしてそこから何をなすべきかの共通了解を得るのは誠に難しい。だが一点申し述べるとすれば、車で移動できるうちは何一つ問題が目に入らない地方都市とは、言い換えれば車で移動できなくなれば、たちどころに日常生活に窮してしまう場所ということである。誰もが、人生のどのような場面でも、幸福な日常生活を送ることが可能なまちづくり、それこそが、地方の衰退を包括的に防ぐ鍵ではないのか。本書を通読し、改めてそう確信した。