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カッサンドラー(Kassavndra)

 トロイの女予言者で、ヘカテーの、すなわち、トロイの女神の化身であるへカベーの、娘であると言われた。トロイ陥落後、カッサンドラーはアガメムノーン王に囚われ、王に呪いをかけた。ギリシア・ローマ神話では、カッサンドラーは王の運命を予言した。そのことは、彼女が王の運命を予知しただけではなく、実際に、呪文をかけてそうなるようにしたことを言うのである。その後ただちに、アガメムノーンは妻のクリュタイムネーストラーとその新しい愛人に殺された。アガメムノーンは儀礼として殺されたのであって、それは単なる殺人ではなく、古代の女王権の法に従って聖王を交代させたのであった。
 point.gifFuries.
 point.gifKingship.


Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



 アレクサンドラーAlexandraとも呼ばれる。トロイア王プリアモスへカべーの娘。へレノスの双生の姉妹。

 王の娘の中でもっとも美しい姫で、ホメーロス中ではヘクトールの死骸がもたらされたおりに、最初にこれを迎えたことになっている。彼女は予言の術を身につけていたが、その由来には二通りの説がある。
 一つは、アポッローンが彼女に言い寄り、予言のカを授ける代りに身をまかせる約束をし、そのカを与えられたのちに、神を拒んだので、神は彼女の力を奪うことはできなかったが、だれもその言葉を信じないようにしたというのである。
 一つは彼女とヘレノスが赤児のころ、両親につれられてテュムプレーThymbreのアポッローンの祭礼に赴き、両親は二人を忘れて帰ったので、二人は夜を神域に過すあいだに、に耳をなめられたために、予言力を得たというのである。いずれにせよ、彼女はデルポイの巫女ビューティアーと同じく、神がかりとなって未来を告げた。

 しかし彼女の悲劇的な予言力は、つねに真を得ながら、人に耳をかされなかった。パリスが成長して帰って来た時、彼女は彼がトロイア破滅の原因となると説いたが、プリアモスの子であることが判明して、彼は救われた。パリスがへレネーを伴って帰った時も同じであり、木馬を城内に入れることにラーオコオーンとともに反対したが、アポッローン大蛇を送ってラーオコオーンとその子供たちを殺したために、彼女の予見は信じられなかった。アイネイアースその他のトロイア方の人々の運命をも彼女は予言した。彼女はトロイア陥落のとき、アテーナーの神像のもとに遁れたが、オイーレウスの子小アイアースは、彼女を神像から引き放して犯したために、女神の怒りをかった。アガメムノーン王は捕虜として彼の所有物となった彼女を愛し、ギリシアに連れ帰った。そのとき彼女は王と自分の運命を知り、人々に告げたが信じられず、クリュタイムネーストラーは王と彼女を殺した。それよりさき、まだトロイア陥落以前に、オトリュオネウスOthryonensが、彼女を妻にくれれば、ギリシア人を追い払ってやると、プリアモスに約束したことがあったが、彼はイードメネクスに討たれた。彼女はアガメムノーンとのあいだに双生児テーレダモスTeledamosとベロブスPelopsを得たといわれる。

 リュコプローン(前3世紀の詩人)の《アレクサンドラー》は彼女が、トロイアの陥落、トロイア戦争の将たちの運命よりローマの興隆に至るまでを、父に幽閉されながら、予言した内容を歌ったものである。(以上、『ギリシア・ローマ神話辞典』)

 彼女の預言の内容は、聖王が太女神の生贄となるその運命についてであった。この預言が常に真であるのは、カッサンドラーが太女神ヘカテー= ヘカベーの娘だったからである、というのがバーバラ・ウォーカーの主張の主旨である。


Cassandra.Jpg
 とはいえ、たしかに、賢明なアテーナー自身でさえも全く涙と無縁だったわけではない。彼女の神殿の中でオイーレウスの勇敢な息子小アイアースが、心にもにも乱調をきたして、カサンドレーをはずかしめていたからである。……女神はその破廉恥な所業を目撃しなかったが、屈辱感と怒りに襲われた。そして屋根の高い神殿に恐ろしい視線を向けた。すると女神の像が大きく鳴り響き、神殿の床が激しく揺れた。それでも彼はまがまがしい凌辱をやめなかった。アプロディーテーが彼の心を誤らせていたのだ。
   (クイントゥス『トロイア戦争』第13巻)

 これは、どう見ても、アテナとアイアスとがカッサンドラを強姦している図としか見えないが……(^^ゞ