ハブ〔Hub=車輪の"こしき"の意〕の女神のリュディアにおける名。ハブは、宇宙の子宮の中心を示すへその石オムパロスomphalosのことである。
ギリシア神話はオムパレーを、リュディアの女王として描いた。彼女はヘーラクレースを奴隷とし、紡ぎ車で働かせた。ヘーラクレースは太陽であり、黄道帯の紡ぎ車に乗って、「十二功業」をなしとげた。12の「功業」は本当は黄道帯十二宮のそれぞれにあたり、ヘーラクレースがオムパレーの宮殿で、1年間奉仕している間に、太陽が十二宮を通過したのであった。この1年はヘーラクレースが年を司る神アイオーンAionとして統治したことを示すものであった。
彼は女王の礼服を身につけたため、ヘーラクレースに仕える祭司たちは、それを記念して女性の衣服を着て、女性の持つ魔力を支配するふりを装った。女王の代理として行動するとき、王が女王の礼服を着ることは、母権制社会から父権制社会への返還期に見られる特徴である[1]。
オムパレーは太陽-王を消滅させる者としの女神を表した。王は年ごとに殺され、冬至に生まれた別の王と交代した。古代ローマのアンナ・ペレンナAnna Perennaのように、オムパレーは「時の母神」であった[2]。
ヘーラクレースよりも前の彼女の夫のひとりが、オークの木の神トモロスである。トモロスは、海に沈む太陽を表して、オスコポリア祭で供犠に則って溺死した聖王タルタロスの父であり、タルタロスはまたトモロスの化身でもあった[3]。人間の生贄としてのトモロスは、神なるオークの木の輪飾りをかぶせられ、雄ウシに放り上げられて鋭い杭の上で串刺しにされた。このことは、女神に仕える雄ウシの仮面を付けた司祭が、穴の中でトモロスを串刺しにし、流れ出た彼の血が大地に豊穣をもたらしたことを示している。
救世主ヘーラクレースの聖なる父は、太陽神アポッローンである。アポッローンは後には最も典型的なギリシアの神々のひとりとなったが、起源はリュディアにあると考えられる。最も初期のころのアポッローンは彼の姉妹-花嫁で月女神のアルテミスの支配に服していた。アルテミスは時には聖なるへその石に化身し、そのためオムパレーという添え名を持った。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)