お好み焼きの古今東西

お好み焼きの古今東西

風邪を引いてお医者さんに掛かった時、簡単な触診を受けます。「こんな単純なことでどこまでわかるのかな?」とも思いますが、 お医者さんからすれば、患者さんが部屋に入って来られた時からすでに診察は始まっております。顔色・肌のつや ・・・。 多くの方を診てこられている経験から、瞬時に頭の中のカルテがチェックされているのでしょう。 どのようなジャンルでも経験は大事ですが、当店はお好み焼屋としてのさまざまが蓄積されております。その中からのいくつかを “お好み焼きの古今東西”として話題にしていこうと思います。

テコで熱々を召し上がれ!

写真 お好み焼きを裏返したり切ったりする“テコ”ですが、ひと昔前まではそこから直接食べるという役割もありました。 (昭和までは、お好み焼きだけのオーダーには小皿とお箸は持っていってませんでした。) 昔ながらのスタイルをご存知の方には特別なことでもないのですが、若い方はテコから食べられる方がほとんど居られません。 もちろん小皿に取ってお箸で召しあがるのは普通なのですが、おすすめは焼き上がりを小さめに切っててこを使って直接食べるというスタイルです。 お皿に置いた瞬間に冷めてしまって底のパリッとした感じが失われるのです。

ピザ形に切る?

お好み焼きを切る時、関西の方は手前からひとくちサイズに切りながら食べられますが、関東の方は放射状( ピザの切り方 )に切り分けられます。 その傾向の違いはどこからくるのでしょう? お客さんからよく聞きますのは、関東の方は鉄板が小さく、一度にたくさん焼けないことから、 とりあえず平等に行きわたるようにピザ風に切り分けるのだそうです。
また、1人で1枚を食べる食事感覚(昼ごはん・晩ごはん)の強い関西に対して、関東の方は、みんなで少しずつ取り分けながらつまむといったように、 居酒屋的な利用が多いと思われます。よく話題になる『お好み焼きと白ごはん』も、 関西は賛成派が多く、お好み焼きに対する感覚の違いが現れているのでしょう。

ぶた玉って

昭和33年 喜の屋の看板 写真
お好み焼きを注文する時、何気なしに「ぶた玉下さい」と言います。よく考えますと、このぶた玉の「玉」=「玉子」ですから、 入っているものなのに、なぜ「○○玉」と言うのか疑問に思いませんか?

ひとくちにお好み焼きと言っても色々なタイプがあり、たとえば、べた焼(粉を薄くのばして重ねるように焼くタイプ)や 練りこみ(粉に具ときゃべつ・卵を混ぜこんで焼くタイプ)があります。べた焼には卵を入れませんので、練りこみとの違い を言うために「豚・玉」と断って玉子の入ったタイプのお好み焼きであることを強調したのです。べた焼に卵が入り、 豪華になって普及していったものが練りこみタイプです。


お好み焼きは戦後に普及しましたが、卵が物の少ない時代に栄養豊富な魅力的なものであったとことは想像できます。すき焼が大変なごちそうであったり、オムライス がハイカラなものであったように、「牛玉」とメニューに書かれたお好み焼きは、食欲をそそるのに十分かつシンプルな ネーミングだったと思います。食材の豊富な現代でも、スーパーの卵の安売りというと、まずはお年寄りが並ばれますが、 昔を反映しているというのは考えすぎでしょうか?

お好み焼きは“好きなように焼く”ではなくて“お好みの具を入れて焼く”ことです。

お好み焼きの具はお店によってバラエティー豊かですし、我が家の定番といったものもあるでしょう。さて、当店の客層は 幅広いのが特色ですが、オーダーも実に幅広くいただきます。例えば、お年寄りの方によくお聞きするのが「お好みちょうだい」という御注文です。 みなさん、この時点では何の具だか分からないでしょう? 答えは『牛肉 』です。 何故でしょうか ?


最近でこそ具材は豊富になりましたが、昔は、食品の保存技術が発達しておらず、魚介類が登場しだしたのはお好み焼きの歴史の中 では新しい方で、お年寄りの方にとって、お好み焼きと言えば牛肉と決まっていたようです。 また、玉子が栄養豊富で魅力的なものであった事に触れましたように、牛肉にも同じ様なニュアンスがあり、「お好み言うたらお肉に決まってるやん。  他の具では何やもの頼りんわ〜 」となります。

次のオーダーは「具なしのお好み焼き」ですが・・・ 京都という土地柄、外人の方々が多く来店され、ベジタリアンの方のオーダーです。きゃべつや生姜、おねぎに天かす 、ソースに至るまで 見事に条件をクリアしております。 なるほどと納得のオーダーですね。