ソースメーカーの違いによるスパイスの扱い

スパイスに関して、各ソースメーカーでオリジナル性を追求していることは前記しましたが、たとえばどういったことがあるのでしょうか?

酒造メーカーに、大きな蔵もあれば小さな蔵もあるように、ソースメーカーにも規模の大小はあります。さまざまなデーターを元に 独自の研究室で香辛料の調合をする所もあれば、小規模だからこそ、手作業にこだわりスパイスの持ち味を引き出そうとする所もあります。 各メーカーはスパイスの配合がレシピ化されており、職人さんなら誰でもできるようになっていますが、たとえば トウガラシひとつをとっても、その日に使用するものが油の多く浮き上がるものであったり、収穫時期によって風味が異なったりといったように、数字だけでは 表せないことも多く、長年の経験が味を大きく左右します。

おいしいソースからは、おいしいオリソース

搾りたてのソースは、熟成させるためタンクに貯蔵します。期間を置くことで深い味へと変わるのですが、 同時にタンクの底の方には 香辛料や調味料などが沈殿した濃厚な状態になっています。この部分を搾り出したものが、一般にオリソースとして 流通しているものです。最近では各メーカーから売られており珍しいものではありませんが、ご存知ない方もおられ、その辛さにびっくりされます。 ソース全体のエッセンスですから大変辛いのですが、「お好み焼きはオリソースだけで食べる」といったファンもおられます。

おいしいオリソース U

写真 オリソースはお好み焼用ソースを造った時に採れるもので、最初からオリソースの味を想定して仕込むことはしていませんが、お好み焼用ソースに 個性を出そうとすると、それに伴ってメーカーごとのオリソースの味が存在することになります。 仕込む際のスパイスに注目しますと、

粉末風味が飛びやすいので多量に投入します。
粗引き手間がかかりますが、使用は少量ですみます。
といった違いがあるのですが、結果的にオリソースの仕上がり分量は、この写真でお分かり頂けるように(粉末と粗引き:それぞれ底からこれ位までを オリソースとして採る位置を指しています。)粉末を使用の場合は多量に出来て、粗引きの場合は少量しか出来ないのです。 オリソースの仕上がり分量の違いから「多量にできる粉末のスパイスを使って仕込んだ方が、奥行きのある深い味になって良い」とおっしゃる方と、 その仕上がり分量の少なさ(希少性)も手伝って「少量生産(粗引きのスパイス)の方が味、風味ともに優る」とおっしゃる方がおられます。

ソースの原材料 デーツ

写真 デーツはナツメヤシの木の果実ですが、中近東諸国を主な産地とする果実で、広島焼のソースの特長である甘味やとろみをもたらす 原材料です。そのデーツが、ある出来事の為に輸入できなくなり、ソースの製造が困難になったことがありました。 ある出来事とは1991年に勃発した湾岸戦争です。多くの人は、連日テレビに映し出される迎撃ミサイルや最新兵器を見慣れてしまい、ともすれば ゲーム感覚に陥るような印象でした。そんな『ハイテク戦争の影響が庶民の味にも』といった扱いでした。当店でも、「ソースは大丈夫?」といった ことを多くのお客さんに尋ねられたので、その説明に追われたことを思い出します。 因みに、当店のソースの甘味は、数種類の野菜によるものと、砂糖によって調整します。デーツは特に広島焼にあったタイプの甘味といっていいでしょう。

むかしの甘さ

戦後、砂糖は貴重品でした。当店の近くでも、闇市で砂糖が出回っていたと聞きます。そのような状況下で、例えばサッカリンズルチンといっ 人口甘味料が食品添加物として多く使われました。味は少し落ちるものの、甘さは砂糖の数百倍はあるといいます。 お好み焼のソースはどうだったのかと言いますと、砂糖を使う代わりにチクロがよく使われたそうです。 チクロの甘さは砂糖の数十倍ほどで、他の人口甘味料と比べると割高になりますが、その分、後味が砂糖に近く清涼飲料などにも用いられたようです。 アメリカで開発されたチクロ(シクラミン酸ソーダ)は、昭和31年に食品添加物として指定されました。サッカリン・ズルチンとともに貴重な甘味源 として使用されましたが、昭和44年に指定から削除され使用禁止となりました。 チクロを使ってのソース造りは、製造者側の立場では優れた甘味料だったようで、

  • 味は悪くない
  • コストが抑えられる
  • 砂糖は手形決済の期間が短い為、資金繰りに影響する
  • 現在でも、欧州などでは使用されている
といったことが言え、当時を振り返りちょっぴり残念そうに語られていました。